対抗
「なあ、サイフォス。聞いていいか?」
「なんだ?」
俺は言葉を選びながら、サイフォスの顔を見た。
「君は、先ほどの姫のことをどう思っている?」
サイフォスは少し考える素振りを見せた後、ぽつりと答えた。
「そうだな……なんとなくだが、守ってあげたいと、そう感じた」
「そっか」
ぶっきらぼうな剣士が、初めて大切だと思えるものに出会う。臆病な姫が、初めて歩み寄りたいと思える誰かに会う。
——さしずめ、「臆病な姫」と「感情をうまく表せなかった騎士」の恋物語。プロローグといったところか。
そうして、物語は進んでいくのだろう。だが、それを許すほど、俺という人間は甘くない。
この後の展開を予想するなら、他にも「攻略対象」と呼ばれるキャラが登場し、姫とそれぞれの関係を深めていく。最終的に、その中の誰かと恋物語を発展させるという流れが王道だろう。
そうなると、剣士枠はすでにサイフォスが埋めている。「攻略対象」は多くても五人程度か?貴族の立場は簡単に手に入るものではないし、大抵の場合、そういう役は格式高く、優れた人物に割り当てられるものだろう。
となると、俺に可能性があるのは……商家の息子、といったところか?まあ、ギリギリあり得る程度の話だが。
「サイフォス、少し聞いていいか?」
そう問いかけると、サイフォスは剣の柄に手を添えたまま、俺の方へ視線を向けた。
「なんだ?」
サイフォスはまっすぐに俺を見つめ、言葉を待っている。やはり、優しい奴だな。姫が安心するのもわかる。
「俺たちのこの後の行動は、基本的に自由だったりするか?」
サイフォスはわずかに眉を寄せた後、静かに答える。
「自由ではないな。基本的に騎士団は宿舎で生活することになっている」
「なるほど。外出許可証みたいなものはあるのか?」
「ああ、日番や任務の合間に、夜の二時間程度なら外出許可が下りる」
なるほど、と俺は小さく頷く。まあ、騎士という立場上、それは当然だろう。だが、外に出る手段がまったくないわけでもないはずだ。
「外出許可証みたいなものはあるのか?」
俺の問いに、サイフォスは軽く顎に手をやりながら考え、やがて答えた。
「ああ、休日や夜の二時間程度なら外出許可が下りるはずだ」
俺は自然と口元を緩める。
「ありがとう。じゃあ、俺はその許可を貰いにいこうと思っているが、他にやることはあるか?」
サイフォスは少しの間思案するように視線を上げ、それから静かに首を振った。
「いや、今日は魔物の討伐までが任務だったから、他はない。姫との遭遇により報告義務があるが、それは私がしておこう」
「助かる、ありがとう」
そう言って俺はサイフォスにお辞儀をする。サイフォスは微かに微笑んだ姿を見て、俺は宿舎へと走り出した。