出会い
「では早速だが、君には一通りの任務をこなしてもらう」
団長の後ろをついて歩きながら、俺はこれからの任務について耳を傾けた。
「まずは、サイフォスと共に市内の見回りに行ってもらおう。彼は君と戦ったことがあるし、相性も把握している。それが終わったら、外に出て魔獣退治だ」
「魔獣……ですか?」
聞いた瞬間、俺はこの世界に来る前に詰め込んだ知識を思い出す。ゴブリン、オーガ、ウルフ系……。現実には見たことがない的を想像し、気を引き締める。
団長は厳しい目で俺を見つめ、言葉を続けた。
「このあたりでは、最近ウルフ系の魔獣が増えている。特に、行商人や旅人の安全確保のためにも討伐が必要だ」
行商人が襲われれば、流通が滞る。何より、他国の人が襲われたら信用問題にも繋がるか。
「なるほど、最悪なのは国外との取引にも影響を及すことですか」
団長は頷いて応える。
「話が早くて助かる。私たちは国を守る騎士団だからな。この国に害をもたらす存在を放置はできない」
団長の言葉に頷く。サイフォスに同行することになった俺は彼に頭を下げて同行の許可を取る。まずは、市内の見回りする。
この国の治安は良い方だろう。皆の表情が明るく、カバンは横に持っている人もいる。何より、外的に対して気を張っている感じがしなかった。
市内の見回りを終えた後、魔獣討伐のために街の外へ出る。30分くらいした頃だろう。突如としてサイフォスが駆け出す。
(……速い!?)
彼と戦った時、俺の方がスピード面では優っていた。だが、サイフォスの体はまるで風のように加速し、あっという間に視界の彼方へ消えていった。
(身体強化魔法か!!)
思い当たることを連想するが、それどころではない。それにあの強化具合で言うと、2.2〜2.5倍は強化されている気がする。戦った時が本気でないなら別だが。
今は、そんな事を考えている場合ではないと、彼が走った痕跡を辿り、俺も急ぎ駆ける。山道を抜けた先――。そこには、倒れ伏した人々と、辺りに広がる血の臭いがあった。
全体の戦場を把握した瞬間、反射的に体を動かす。敵はウルフ。着地と同時に剣を振るい狼の首を刎ねる。
一匹を始末したが、四方から次々と魔獣が現れる。その場にいる戦士が、魔法使いが、剣と魔法を駆使しながら、襲い来る敵を斬り伏せていった。
やがて、最後の一体を仕留めた瞬間――辺りに静寂が戻る。
「……終わった、か?」
荒い息をつきながら周囲を見渡す。皆が状況を把握し、歓声が上がった。
護衛先に視線を向けると、豪奢な馬車が停まっている。その扉が静かに開き――現れたのは、黒髪の少女だった。
誰もが一目でそれと分かる、気品ある豪華なドレス。そして、漆黒の髪をなびかせたその人物は――「夕暮 心愛」だった。