ダイブ
身支度を済ませた俺たちは、少し遅めの朝食を済ませて、再び心愛の対策に取りかかった。
一晩経つと、これまで見えてこなかった部分が少しずつ輪郭を帯びてくる。
「心愛ちゃんの性格を考えるなら、可愛い動物が話す世界かな?」
「だとするとこの作品のイメージが近いかも」
ちとせはそう言いながら、一冊の本を手に取り、挿絵を指しながら説明する。その世界観に目を通しながら、俺は心愛の人物像を思い馳せる。
発症したということは、ただ愛らしいだけの世界ではないだろう。彼女の心の奥にある何か——その核心に触れられるかどうかが、鍵になる。
「このパターンなら、滉誠の立ち回りはこうです」
ひなが、実際に演技を交えながら教えてくれる。俺もゆりも、それぞれの役割を意識しながら、足りない部分を補い合う。
話がまとまったところで、俺たちは軽めの昼食をとる。食事を終え、互いに視線を交わす。現状、考え得る対策はすべて打った。もちろん、俺とゆりが何もできないまま終わる可能性も含めて。
心愛の世界、チームメンバーの理解、それぞれの役割。全員がそのすべてを頭に叩き込み、俺たちは挑む。
皆が覚悟を持った顔つきで、歩き出す。同じ方向を見て、歩み出せる仲間が彼女達で良かったと心から感謝した。
「それじゃあ、ひなはここに残るです」
「うん、お願いね」
「頼んだ」
「頼りにしてる」
情報を分析するひなは施設に残る。俺とゆり、ちとせは車に乗り込んで、病院へと向かった。
車内は静かだった。エンジン音だけが、かすかに響く。
「……やっぱり緊張してるの、滉誠?」
不意に、ちとせが問いかける。
「もちろん、緊張はするよ」
責任を持って行動すること。誰かに影響を与えること。その重さは、何度経験しても慣れない。
「けれど——覚悟は、できてるから」
はっきりとそう告げると、ゆりとちとせも頷く。
「わかる。緊張はしているけど、いつも以上に力が発揮できる気がする」
「私も、そう。どんな困難なことも、不思議と成し遂げられる気がするんだよね。皆んなとなら」
二人とも、表情に不安はなかった。だが、体がかすかに強張っているのがわかる。けど、瞳の奥にあるのは、決意と闘志を感じる。
「……まぁ、なんとかするし、できる」
俺が言うと、ゆりとちとせは微笑んだ。
「そうだね」
「うん」
二人とも頷き、互いに確認事項を再度話し合っていく。ひなからのインカムで話す内容も問題なく聞こえる事を確認する。
準備が整い、俺たちは車を降りる。病院で受付を済ませて、心愛が眠る病室へ向かった。
「みんな準備はいい?」
「「「オッケー」」」
互いの意思を確認して、俺とゆりは心愛の眠る病室へと足を踏み入れた。瞬間、ふっと意識が揺れる。
急に眠気を感じるこの感覚に、やはり慣れないなと違和感を感じる。視界がぼやけ、夢の世界へと入っていった。