雑談?
指導を含めて、俺たちは夜遅くまで話し合っていた。
「そろそろ夜も遅くなったし、寝よっか」
ゆりがそう告げたことで、俺たちは話し合いを終えた。時計を見ると、すでに一時を回っている。布団の準備を済ませ、それぞれ横になる。
「にしても、ひなって結構、演技指導に厳しいんだね」
布団に入り、リラックスし始めた頃、ちとせがくすくすと笑いながら口を開いた。
「当たり前です。王子様を演じるというのは、そんな甘いものじゃないんです」
ひなの方から布が擦れる音が何度もする。めちゃくちゃ頷いているのが分かった。
「滉誠にはその自覚が足りなかったです」
「ああ、王子様の大変さを痛感した」
実際、ひなの熱の入りようはすごかった。こちらも本気度合いが甘いと認識させるくらいに。楓と向き合った時の様に、全力でぶつかる必要があった。
「それはそうだよ。王子様ってのは国や希望とか大きなものを背負ってるんだから」
これに関しては、ちとせに分があるを認めざるを得ない。どうしても童話のメルヘンなイメージに引っ張られて、背景まで見ようとしない節があった。
「けど、ちとせの場合は単純に楽しんでいる様に見えたです」
「それはそうだよ!だった、自分が考えた理想を演じてくれるなんて最高でしょ!!」
声がひときわ大きくなり、テンションが上がっているのがわかる。それに、水を刺す様にひなが尋ねる。
「それは滉誠が理想の人ってことですか?」
「うーん、違うかな」
…ひな、やめてくれ......俺にダメージが入る。と内心にダメージを受ける。
「にしても、こうしてみんなで寝るのも自然な感じがするっ...ていうのもおかしな話だよね」
心愛の話題に流れそうになるのを察したのか、ゆりがさりげなく話題を戻す。
「まあ、確かにな」
皆といるのは不思議と嫌じゃない。むしろこの空気感を心地よく感じる自分がいる。
「まぁ、ひなも若干認めてはいるんです。けど、ひなが魅力的すぎるからって欲情しちゃダメですよ、滉誠」
「しないよ」
「そうですか...」
即座に否定したのは流石に傷つたかと逡巡しているとひなが尋ねてくる。
「一つ聞いていいですか?」
「何だ?」
俺は少し警戒しながらも、尋ねられることに身構える。
「自分で言うのもなんですけど、ここにいるみんなって、学校にいたら確実にモテるほどかわいいレベルじゃないですか」
確かに、この状況を見たら血涙を流す男子が続出しそうなくらいには、羨ましいシチュエーションだろう。
「そうだな」
「でも滉誠は、全然好意とか、気になる素振りすら見せないです」
その言葉には、単なる好奇心以上に、彼女自身の過去にあった何かを感じさせる。
「滉誠は女性に興味がないですか?」
「もちろん、興味はあるさ。」
俺は正直な本心を語る。そう言うと、ひなとちとせが驚いたのか、こっちを見る気配がする。
「ただ、今はそれよりも重要なことがあるだけだ」
「重要なこと?」
「多分二人には言ってなかったよな。プライベートの部分は報告だとカットするからな」
俺は少し息をついて、正直に打ち明ける。
「楓の世界でさ、二人にも同じ質問されたんだ。」
「……なんて答えたですか?」
「今はそんな気持ちがまだ持てないっていう感じかな。余裕がないって応えた」
「余裕?」
ひなが不思議そうに首を傾げる。
「そう。俺がここに入ったのは……妹も同じ発症者だからだ」
その場の空気が少し張り詰めた気がした。
「そうだったんですね」
ひながそっと呟く。
「そう。だから俺は妹を救うまで、進み続けると決めてる。立ち止まったら、救えない気がするから。」
二人は何も言わずに俺を見つめる。何かを言おうとして、でも言葉を選んでいるような、そんな沈黙が流れた。
だからこそ俺は、少し雰囲気を変えるように冗談めかして言った。
「まあ、それに、俺の好みのタイプは大人な女性だから、ひなだとちょっと幼すぎるかなって。」
「ひなは子供じゃねえです!」
ひなが即座に抗議する。その反応があまりにも素直で、ちとせが吹き出した。
「じゃあ、みんな気になるであろう、滉誠の初恋の話でもバラしちゃいますか?」
「え?」
俺は驚いて、声が漏れる。
「気になりますね」
ひなの声がいつも以上に跳ねている気がする。
「じゃあ、滉誠言ってみようか」
「待て待て、勝手に決めるな!」
俺が焦るのを見て、三人は楽しそうに笑う。こういうやり取りをしていると、少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。
他愛もない雑談を交わしながら、俺たちは少しずつ互いのことを語り合っていく。皆が笑い合える未来を見つめて。