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問われること

申請課から部屋に帰ると、みんなの顔が急に真剣な顔つきになる。ONとOFFをはっきりさせる事が、俺たちに求められる最低限の能力でもある。


「どうやったら次で楓を救えると思う? 」


ゆりが全員を見渡せる位置に立って、質問をしてくる。声は冷静だけれども、瞳には鋼のよう強い覚悟と決意が宿っている。こちらまで、身が引き締まるのを感じる。


「ヒナが思うに命をかけるレベルの覚悟が必要です。例えばナイフに刺される、屋上から飛び降りるなどが必要かもです」


自分が言わずにいた考えをヒナはまっすぐ伝えてくれる。俺が言ったらきっとちとせは泣きそうな顔になるとためらってしまっていた。そんな気遣いをする事が博士から見たら甘えに移ったんだろうな。ゆりの拳が強く握られているのを見て、同様の感情を抱いている事が見て取れる。


「ひな、ありがとな。」


言いづらい状況でもきちんと伝えてくれる仲間に、素直に感謝の気持ちが湧いてくる。本来ならリーダーである俺が伝えるべきであるのに。


「何がですか?」


ヒナはきょとんとした顔で首を傾げて俺を見ている。


「どういうこと? 意味がわからないよ、滉誠」


ちとせが泣きそうな、怒りを抱いている様な複雑な感情で俺を見ている。


「博士が次で決めるって言っていた言葉の意味は それぐらいの覚悟を持てっていうことなんだと思う」


「覚悟って何? 命を懸けるってこと? 傷ついてでも誰かを救えって事? 」


ちとせは泣きながらも訴えかける。自己犠牲を伴う事が必要なのか、誰かが傷つく事でしたか救えないのかと。


「違う、あの場において俺はヒナと同じように ナイフを受け止めればきっと彼女は俺たちのことを見てくれるって真剣に考えていたんだよ」


本気で案の一つとして考えていた。今思うと、博士はそれを伝えない俺をじっと見つめていた気がする。


「でも、そんなのおかしいよっ!滉誠が傷つくことで彼女を救うなんてそんなの間違ってる」


「そうだな きっと間違っているんだと思う。けど問われていたのは覚悟だ。信じて実行する覚悟が必要な時がある。」


「でも...」


ちとせだって分かっているんだ、必要なら実行するだけの意志が必要であると。それすらない人が、誰かを助けたいなんてできる事がないことも。


ゆりも俯いて体を震わせている。彼女もきっと同じ様に考えて、いや俺よりもきっと色々な事に気づいている。だからこそ、誰よりも辛いんだと思う。


「それが必要な時だって必ず来る。でもちとせが言うように、それは今じゃない!」


驚いたような顔でちとせが俺の方を向いてくる。


「本当に?」


縋るような顔でこちらを見てくる彼女の顔をしっかりと見つめて答える。


「本当だ」


安堵したような顔で、肩の力を抜いたちとせはそのまま地面に座り込んだ。


「そこまで言い切るって事は、滉誠には何か考えがあるのかな? 」


若干の苛立ちを含んだ瞳で見つめる彼女は、気休めなら許さないと俺を責めた目つきで見つめる。


「いいや、何も。」


俺は、場の空気を変えるべく、少しだけリラックスした状態で答える。


「何もないのに言い切ったのですか?」


ひなが驚いたように、俺を見つめてくる。信じられないと言う方が強いか。


「根拠ならある。博士は次で決めろと言った。けどナイフなんか刺されたら、その場で退場だ。」


博士が見つめている先を想像して話す。直観的な確証があった。


「確かにそうですが、確実でもあります」


ヒナはまだ根拠が足りてないと問いかける。納得がいっていないのか、普段見れないほど興奮しているのがわかる。


「この施設の意味を問うてるって事だよね、滉誠」


ゆりが冷静に状況を判断して手助けをしてくれる。


「どういうことですか?」


ゆりの冷静な態度で少し落ち着いたひなが問いかける。


「この施設は、学校生活の復帰を第一に考えている。普通に人を刺したらトラウマものでしょう?」


「確かに、そうです」


ヒナは自分の考えの落とし穴に気づき、反省したように肩を落としていた。


「滉誠が最悪な状況にならなくて良かったと安堵したのもこいうことを想定してでしょ?」


いつだって深くまで考える彼女が、リーダーでいるべきだと考えながらを同意をする。


「そこまでは考えていなかった、ただ後悔をしてほしくなかっただけかな」


それは宙を見上げて思う。後悔なく生きることなんて不可能だけど、後悔しない選択肢を取れるようにサポートはしたいと。


「滉誠の言いたい事分かったよ。二人だけが分かっている状態なのは悔しいけど、私も考える」


ちとせが膝に手をついて立ち上がりながらこちらをしっかりと見据える。


「俺たちならきっと答えを出せる。皆が皆別の視点を持っているから。そして、相手を思いやれる素敵なメンバーだからね」


「滉誠、くさいです」


ヒナがカッコつけた俺を冷静にツッコむ。


「くさいね」


ゆりが、それに続いてニヤッとした顔で俺を見つめる。


「確かに、くさいっ」


いつにも増して、優しい笑顔を見せるちとせを見て思う。本当にバランスの取れたチームだと。


「じゃあっ、早速対策を考えていこうかっ」


目的を再認識した俺たちは、再び真剣な表情に戻って話し始める。

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