136 若狭侵攻12
136若狭侵攻12
治頼は、あえて信由の名を避けて語った。信豊からの依頼という形にすることで、六角が若狭の後継問題に直接介入していないという印象を与える。これは、武藤の警戒を解くための言葉選びだった。治頼の目的は、若狭を六角の秩序に組み込むこと。そのためには、武藤自身に「選ばせる」形を取る必要があった。
「そうで…ございまするか…。」
武藤の表情は、安堵と悔しさが入り混じっていた。信由が当主になるわけではないという言葉に安心しつつも、義統の血筋が脇に置かれる現実に胸が痛んでいた。だが、今は戦の最中。感情よりも現実が優先される。武藤は、心の中で孫犬丸を守る決意を新たにしていた。
「今の正当性だとやはり孫犬丸殿を後見して信豊殿か信由殿が若狭を治めることになるでしょうな。」
治頼は、後継問題をあくまで「正当性」の話として語った。これは、武藤に冷静な判断を促すための戦略だった。孫犬丸を守るには、信豊や信由との協調が不可欠であることを示し、武藤に現実的な選択肢を提示する。同時に、六角が後見に入ることで、若狭の秩序が六角の手に収まる構図を描いていた。
「ただ、我々は血縁者でもある孫犬丸殿を後見することも難しくはないでしょうな。それこそ、孫犬丸殿も信由殿と共に観音寺城下で学んでみては如何か?」
治頼の提案は、教育という名の統治だった。観音寺城下で学ばせることで、孫犬丸を六角の価値観に染め上げる。信由との共同生活は、競争ではなく協調を促す場となる。武藤にとっても、孫犬丸の安全が保証されるだけでなく、将来の若狭武田が安定する希望となった。
「そこならば身の安全も保証されまするし、邪魔も入らずに当主としての資質を磨くことも可能でございましょう。」
「なんとっ!信由殿は観音寺城に居られるのか…。それに六角での教育を受けておられるのか…。」
「うむ、なのでもしかしたら信由殿が孫犬丸殿の後見をするに値する男になるかも知れぬぞ?信豊殿は今浜辺りで勤めてもらう予定だしな。」
治頼は、信由の成長をさりげなく持ち上げることで、武藤に「後見される側の価値」を認識させた。信由が孫犬丸を導く存在となれば、若狭武田は自然と六角の秩序に組み込まれる。治頼は、後継問題を「教育と信頼」で解決する道を提示し、武藤の不安を希望へと変えていった。




