133若狭侵攻9
133若狭侵攻9
永禄1年1558年 5月 六角治頼
「なんと!そのような事になっておったのか。何故暗殺だとわかったのだ?」
治頼は驚いたように声を上げたが、その内心は冷静そのものだった。義統の死は計画通りであり、驚きは演技に過ぎない。だが、ここで武藤の信頼を得るには、感情を込めた反応が必要だった。治頼は、武藤の目を見据えながら、あえて少し声を震わせてみせた。戦場では、真実よりも信じさせることが重要なのだ。
「実は下手人を捕まえておりまして…。その者からある人物から頼まれて六角の介入を防ぐために行ったと言っておりました。何かご存知でしょうか?」
武藤の言葉には、疑念と警戒が滲んでいた。彼は、六角が義統を排除するために裏で動いたのではないかと感じていたのだろう。治頼は、その視線の鋭さに気づきながらも、表情を崩さずに聞き続けた。疑われることは織り込み済み。むしろ、疑念を抱かせたまま信頼を得ることこそが、治頼の狙いだった。
武藤は疑念をこちらに向けている。自作自演ではないかと思われているのだろう。実際こちらのマッチポンプなのでしょうがないのだが。
「その下手人はどうしたのだ?」
治頼は、声の調子を変えずに問いかけた。武藤の返答から、下手人がまだ生きていることを確認すると、内心で頷いた。計画通りだ。尋問の余地があるということは、物語を作る余地があるということ。治頼は、次の一手を思案しながら、半蔵の顔をちらりと見た。すでに準備は整っているはずだった。
「まだ捉えて牢に入れておりまする。手荒な真似はしておらぬので死んではおりませぬが中々に口が固く上手く進んでいないのが現状になりまする。」
「ふむ…もし宜しければだが、当家で抱えている忍びの物に尋問をさせてもよろしいか?」
治頼の申し出は、あくまで控えめな口調だったが、実際には強い意志を込めた提案だった。伊賀の者に尋問を任せるということは、六角の支配下で情報を操作するということ。武藤がそれを受け入れれば、治頼は物語の主導権を完全に握ることになる。武藤の返答を待つ間、治頼は心の中で次の展開を描いていた。
「えぇ…是非にお願い致します。可能であれば情報を引き出せずに始末する事など無いように担当のものにお伝え頂ければ幸いです。」
「承知仕った」
武藤が頭を下げた瞬間、治頼は静かに息を吐いた。これで、後瀬山城の情報操作は六角の手に落ちた。治頼は、半蔵に目配せをし、服部一党に周囲の警戒を強化させた。誰にも邪魔されず、誰にも真実を知られず、ただ六角の意図だけが残るように。治頼は、戦場の静寂を支配する者の顔になっていた。




