次なる山を目指そう
次回は7/9くらいです
いきなり寒くなったからと言ってオコジョが一瞬で換毛するはずもないのだが、彼は真剣なニュアンスで言っている。色々とツッコミしたいところだしまずは顔を拭いてほしいと思うが、言葉を話せば正体がバレてしまう。
「ゴブリンキング程度なら、もう少し加減してもよかった」
【なんじゃ、つれないことを言うのう。せっかく堪能しておったのに】
「吝嗇のつもりはないが、だとしても無駄にはできない」
【焔王を倒すまでの短い付き合いじゃ。遠慮なく使ったところで1年分にも満たぬよ。無敵の力に酔いしれたところで誰も咎めぬよ】
「だから困る。お前の魔法は周りへの負荷が強すぎる。天気や草花が強制的に冬のものになるのは知っていたが、動物まで影響するとは聞いてないぞ。寿命を縮めてるんじゃないのか」
【なんじゃ、そこの女を心配しておったのか。大丈夫じゃよ。風邪を引くくらいはあるかもしれんが問題はあるまい……のう?】
はいそうですと頷きそうになる。
少年はこちらの正体に気付いていないが、精霊の方は確実に気付いている。
【この山の精霊には黙っておくようにの。もし露見することがあれば……そなたにも憑いてしまうぞ】
精霊の姿も顔もよく見えないなのに、明らかに見られているとわかる。
まるで獲物をいたぶる肉食獣のようだ。
いや、比喩ではなくその通りなのだろう。精霊にとって人間など下位の存在だ。普通の大地の精霊にとって人間は犬や猫のようなものであり、今こっちを見ている邪悪な精霊にとっては牛や豚のような、捕食対象なのかもしれない。
少年の詠唱から察するに、この精霊は少年の命とか体力、あるいは寿命のようなものを吸い取っている。邪精霊は精霊における悪戯っ子みたいな認識だったがとんでもない。悪魔と契約しているようなものだ。なんでこの少年は精霊と相棒感を出しているのか不思議で仕方がない。
「シュガー。小動物を脅すな」
【小動物……うむ、まあ、そうじゃろうな。アクセルは優しい子じゃのう】
くっくと笑うような声が漏れる。
シュガーと呼ばれた精霊は、明らかにこちらの正体に気付いている。
そしてアクセルと呼ばれた少年は気付く様子がない。
「シュガー、行くぞ」
そう言って少年は踵を返す。
私が来た道と反対方向の登山道から山を下りるようだ。
そして彼が去ると同時に、冬の気配もまた去っていく。
降り積もった雪は消え去り、無残なゴブリンキングの死体が露わになる。
私はオコジョの姿のまま、変わりゆく景色を呆然と眺めていた。
◆
みんなのところに戻って【精霊召喚】を解除し、今見た光景を打ち明けた。
「邪精霊と契約している魔法使いか。単独で魔物を倒して命を吸い取り、力を増しているんだろう……ひどいことをさせるもんだ」
すると、アスガードさんが重苦しい表情で解説してくれた。
以前に聞いた説明と被るが、邪精霊とは人間と敵対的な関係にあるか、もしくは人命に対する感覚が軽い精霊全般を指す。
そして厄介なのは、実は前者ではなく後者であったりする。人間に敵対的な精霊は巡礼の妨害をしたり魔物を助けたりと、わかりやすい敵対行動にでる。だが人間が大好きなのに人命に対する感覚が軽い精霊は、味方のように振る舞うので扱いが難しい。
例えば、祈りではなく寿命の日数を消費させて、通常の魔法使いよりも遥かに強力な魔法を使いこなす。これはもはや加護であると同時に呪いだ。
「でも、ひどいことをする……じゃなくて、させる?」
アスガードさんの物言いが気になり、質問をした。
「ゴブリンキングを圧倒できるほど強力な邪精霊と契約できるなんて、相当に高位の精霊魔法使いがいなきゃ無理だ。オコジョが見た少年とやらが単独でできるとは考えにくい」
「でも、巡礼に来たのにたった一人だったみたい。神官とか巡礼者とかも連れてなかったし」
私の疑問に、ニッコウキスゲが答えた。
「命や寿命を吸い取って魔法の燃料にしてるってことは、無殺生攻略とは逆のアプローチなんじゃないかな。目についた魔物を片っ端から殺して力を奪って魔力源にしてるとか。ただ魔力源にするだけじゃなくて、一種のレベルアップみたいな自分への強化もしてるかもしれない」
「でも、命とか寿命を差し出してる感じがしたけど」
「寿命を消費するのはあくまで呼び水や精霊への命令権を行使するのに必要なんだと思う。そういう禁じ手があったはずだよ」
寿命を取るのもエグいけど、魔物を殺して自分の力にするのも考えてみるとなかなかエグい。
RPGあたりのゲームだと地道なレベル上げ作業だけど、実際にそれを実行しているのを目にすると、「そんなつらい旅があってよいのか」と悲しくなる。
「シュガー、って言われてたけど、有名な精霊とかだったりする?」
「名前は契約するときに便宜上つけられたんだろう。本来名前は持たないからな。だが名前の由来を考えると……シュガートライデントか」
シュガートライデント。
王国の北方にある、3つの峰を持つ山である。天魔峰と同じく万年雪に包まれた山で、真っ白い峰は砂糖菓子のようでもあり、あるいは三叉槍のようだと言う人もいる。その結果つけられた名前が、砂糖菓子の槍。
ただ、天魔峰と異なるのは、標高の高さや寒さゆえの万年雪となっているのではない。雪や氷を司る精霊の群生地であるがゆえに万年雪に閉ざされている。
完璧な防寒対策が求められる一方で、山全体の傾斜が緩く、そして聖地としての山の維持力が働くために雪崩リスクは格段に低い。バックカントリースキーヤーがいたら喜び勇んでスキー板やスノボ板を持って遊びに行っていることだろう。
「……ねえ、シャーロットちゃん」
「ひゃい」
なんか声が裏返っている。
普段は快活で元気だけど、私の疑問が何なのか予想して怯えてしまっているようだ。
「心当たりありますって顔浮かんでるので逆に聞きにくい」
「そこまで言わなくてもよくないですぅ!?」
「ごめんごめん。でも、一応聞くけど、アクセルって魔法使いは焔王と戦うためにカルハイン氏が育てたとか……あると思う?」
「流石に私もそこまでは知りませんが……カルハイン様ならば邪精霊と契約を結ぶこともできるとは思います」
なんだかきな臭いことになってきたな……。
焔王の復活。
シュガートライデントの邪精霊、そして邪精霊と契約した強力な魔法使い。
その背後にいる聖者。
ついでに、焔王を封印したが今はなき聖者と、その孫である私。
よし。
ひとまず棚上げだ。
「とりあえず、巡礼を済ませよっか。難しいことは山を降りてから。余計なことを考えると遭難しやすいしね」
こうして私たちは、ボス不在の山頂へと向かった。
そこにある小さな祠の前で、いつもの祈りの聖句を唱える。
太陽は矮小な人間の懊悩に気付いていないのか、それとも気付きながら見守っているのだろうか。
「今日は遠くまで見えるな」
ツキノワは頂上に転がっている岩の上に立ち、そこから見える景色を楽しんでいる。
そこに私も含めて皆が横に並んだ。
「天魔峰も、火竜山も、ばっちり。来るなら来てみろって言われてる気分」
「山が呼んでるって? お前さんが行きたいんだろ」
ツキノワがやれやれと肩をすくめる。
だが私は、微笑んで首を横に振った。
「焔王は、待ってるような気がするんだよね」
私の言葉に、皆が驚いたような顔を浮かべた。
いや、ニッコウキスゲはにやにや笑っている。
そしてシャーロットちゃんは感激している。
「色々と下準備はあるからすぐとは言わないけどさ。天魔峰に行く前に前哨戦と行こうか」
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