大鬼山を普通に攻略しよう 4
※次回は4/23予定です
祭壇に現れたのは、イタチやキツネのような細長い体の、体長15センチほどの小動物。
冬毛のオコジョであった。
「オコジョがオコジョを呼び出した」
「いや、お前らしくていいんじゃないか」
「可愛いですね……!」
みんな笑いをこらえている。
いや私も笑いそうだけど、この可愛らしさをもっと素直に褒めてほしい。
しかも真夏だというのに冬の白毛だ。
「感覚を宿せるかい?」
ニッコウキスゲが意味深な問いかけをしてきた。
「うん。今、みんなの顔を見てる」
現れたオコジョの方を意識するだけで、自分がオコジョになったかのように動かすことができる。視界もオコジョのもので、自分のなんか無表情な顔をまじまじと見つめることができる。
言っておくが、別に普段から仏頂面ってわけじゃない。特殊な魔法を使ってるからのトランス状態の表情である。多分。
「視覚を宿すときは気をつけな。自分の周囲がおろそかになるからね」
「わかった。それじゃ、アスガードさんを追いかけてみる」
私は化身となった精霊に命じて、登山道の脇の茂みを駆けさせた。
なかなかのスピードだ。
ていうか体感速度が速すぎてちょっと怖い。
あっという間にアスガードさんらしき違和感のある場所に辿り着く。
流石に注意して周囲を観察していれば「なんかスパイが主役のゲームみたいな隠れ方してる人がいる」とわかる。
だが、そのすぐ近くにいる魔物……ゴブリンは、何も気付いていない。
ゴブリンを初めて見るが、まったくもってイメージ通りの姿だ。人間の大人よりやや小さい程度の体格で、どこから調達したのかわからないが、腰蓑を身に着けて石斧を手にしている。身長の割にパワーはあるらしく、何の訓練もしてない人間なら素手で簡単に圧倒できるらしい。
そんな彼らはアスガードさんはもちろん、私にさえ気付かずに佇んでいる。
やはり動物とは生態が違うのだろう。餌を食べるとか、周囲を警戒するとか、カラスのように無邪気に遊ぶとか、そういった様子がまるでない。生物のようでいて、中身は機械やロボットのようだ。
アスガードさんは、足音を立てずにゴブリンの前を通り過ぎた。
2、3メートルは近づいているというのに相手は気付かない。
ファーストトライ成功。
そして次に、少々駆け足で通り過ぎた。
これも成功した。
気配を隠蔽するという魔法も、ゴブリン相手であれば問題なく通用するようだ。
最後に、声を出してゴブリンに呼びかけた。
「ゴブリンども、かかってこい!」
アスガードさんの声に気付いて、ゴブリンたちは驚いて周囲を見渡した。
そしてようやくアスガードさんの居場所を突き止めた。
周囲の風景に溶け込んではいるが、声の発信源として見ればその違和感は一目瞭然である。
「ギャギャギャ!」
甲高く耳障りな声を立ててゴブリンがアスガードさんに襲いかかった。
だがアスガードさんは微塵も動揺することなく、一瞬でゴブリン三匹を斬り捨てる。
姿が隠蔽されていることに加えて、あっという間の早業で何もわからなかった。
「アスガードさん、お疲れ様です」
「うおっ!? オコジョが喋った!?」
私の感嘆の言葉に、アスガードさんがめちゃめちゃビビった。
そしてびっくりしすぎて隠蔽が解けた。
「それは……もしかして精霊召喚か……?」
「ごめんなさい、オコジョです。私も使えるってことを今知ったものだから」
「いや、いいんだ。俺も見るのは初めてだったからつい驚いた。オコジョに話しかけられたのも初めてだな」
それはちょっと羨ましいな。
私は話しかける方だからその気分は味わえない。
カピバラも精霊召喚覚えてくれないだろうか。
「で、こっちの仕事はご満足頂けたかな?」
「速すぎて何もわからなかった」
「ってことは合格ってわけだ」
アスガードさんは私の言葉ににやっと笑った。
◆
アスガードさんと共に仲間の元に戻り、私は人間ボディに意識を戻した。
「アスガードさん、カメレオンジャケットのレビューよろしく」
「ああ。まずこれは、鬼系、あるいは狼や熊みたいな動物の魔物、あとは動物そのものなら高確率で誤魔化せる。だがそうではない魔物をごまかせるかは怪しい」
「そうではない魔物っていうと……スライムとか?」
「そうだな。体温を感知する魔物には別の対処が必要だろう」
「蛇とか、あとは音を使うコウモリとかは気をつけたほうが良さそうだね」
「えっ、コウモリって音を使うのか?」
「エコーロケーションって言って、人間の耳には聞こえない音を出してその反響で……って、それはさておき、気をつける」
しまった、現代知識を披露してしまった。
「お前さんすごいな……。それはさておき、一番注意が必要なのは邪精霊やゴーストだ」
邪精霊とは、人間と敵対的な関係にあるか、もしくは人命に対する感覚が軽い精霊全般を指す。
人間に対するスタンスは魔物と変わらないのだが、一番厄介なのは大地の精霊と同様、とらえどころがないことだ。物理的な攻撃で倒すことができない。
ではどうすればいいかというと、巡礼すればよい。邪精霊が現れる山には通常の魔物がいない、もしくは極めて少ないため、邪精霊の妨害をくぐり抜けて攻略するだけである。
また邪精霊はとらえどころがない分、ストレートな攻撃をしてこない。雨を降らせるとか、雪を降らせるとか、音や光でビビらせるという迂遠なやり方で嫌がらせしてくる。
つまるところ、悪条件での登山ができる人が邪精霊に強いという私向きの敵ということである。
「邪精霊には隠蔽工作があっても確かに意味がない。でもゴーストって……どういうもの?」
私は、邪精霊についてはよく知っているがゴーストはよく知らない。
ただ、巡礼者や冒険者は、長く旅を続けていればいずれゴーストに出会うと聞いている。
時折聞かされるフォークロア、あるいは怪談話。
だがゴーストが何なのかを知っている人は少ない。少なくとも私は知らない。
手がかりを知る人がいるとしたら、様々な山を攻略したベテランであろう。
「ゴーストは……わからん。魔物なのか精霊なのか、迷える魂なのか、あるいは幻覚なのか、意見が定まっていない」
「うん」
「見たという者もいれば、見ていないという者もいる。ただ、出現するポイントは限られている。標高の高い山だ。聖地であっても、普通の山であっても、ゴーストは現れる」
「標高の高い山で……?」
なんだろう。
妙に心当たりがある気がする。
「疲労困憊して息苦しくなり、ふとした瞬間に亡くなった親兄弟や友の姿を見ることがある。あるいは自分を殺そうとする魔物の姿で現れることもある。だがどの姿であってもゴーストに出会った人間は虚弱な状態に陥る。最悪、死に至る」
えっと……それって高山病じゃない?
「ん? 何か知ってるのか?」
「知ってるってわけじゃない……けど、ゴーストに遭遇しない方法には心当たりがある」
「ほう、聞かせてくれ」
「大したことじゃない。しっかり睡眠を取ること。水分を欠かさないこと。こまめに休憩を取ること。そしてもし遭遇したときは一刻も早く下山すること。体や心が弱っているときほどゴーストに襲われやすい」
「すぐに下山するというのはその通りだ。山を下れば、ゴーストに出会ったことなど忘れたかのように体の不調が治る。俺も何度か経験がある」
あー、間違いなく高山病ですねこれ。
まあ異世界特有のオカルト現象の可能性はあるにしても、対処が共通してるならば幽霊も病気もそんなに変わらない。
「みんなは高山びょ……ではなく、ゴーストに出会ったことはある?」
「ゴーストは見てないが、ゴーストのせいで体調が悪くなったことはある。吐き気がして上手く食事ができなくてな。下山したら治った」
「あー、あたしもあるわ。頭がくらくらして息苦しかったんだけど、下山したら治った」
「わたしもあります! 幽霊は見てませんがなんだか下山したら治りました!」
ツキノワ、ニッコウキスゲ、シャーロットちゃんが三者三様の症状を言いつつもまったく同じ流れで治癒していた。ゴーストは重度の高山病による幻覚って感じかな……。
「さて、注意すべき点がわかったところで先に進もう。もう少しで休めるところに出るんだっけ?」
「ああ。『破れ盾』で水を補給できるぜ。そしてそこからちょっと歩けば『鎧落とし』。難所と言うほどのところはないが、気をつけていこうや」
ツキノワの注意に頷きつつ、私たちは登山を再開した。
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