裏スライム山を駆け抜けよう 2
裏スライム山登山口から鉄騎スライム峠まで、平坦な道はほぼない。
森の中のつづら折りの坂道を駆け上がり、一気に峠のピークを目指すことになる。
硬い木の根や大きい石が転がっている。急ぎつつも慎重さが求められる場所だ。
大股で足を高く上げたりジャンプしたりせず、細かい足さばきで駆ける。
そして細かい足さばきで駆けるために必要なことは、ルートを覚えることだ。
山道は舗装された階段ではない。
膨らんでいるところや引っ込んでいるところなど、微妙な起伏がある。
どんな風に足を動かせば楽に体を持ち上げられるのかを理解していれば、消費する体力は格段に減る。
だから私たちはただ鍛えるためだけではなく、道の情報をしっかりと足と頭に叩き込んできたのだ。
とはいえ理解は油断を生む。
急いで坂道を終わらせたいという誘惑を振り切り、細かく慎重にペースを刻む。
スライムは基本的に日当たりの良い道は避けて森の木々の隙間や茂みなど、湿度が高く暗い場所にいるが、こちらに気付くと、どたぷんどたぷん飛び跳ねてこちらを追いかけてくる。
「気をつけろ……来たぞ……!」
ツキノワが注意を促してきて、私は気を引き締めた。
鉄騎スライムは体が重い。
体当たりを喰らえば転んで骨折することもありうる。
本来の登山なら、澄んだ空気を楽しめるのどかな森の道のはずが、一気に心臓破りの坂へと変わっていく。
「やっぱり……トレッキングポール持ってくればよかったかな……!」
ニッコウキスゲが愚痴を叫んだ。
二人とも喋るくらいはできている。
まだまだ余裕がある証拠だ。
先頭を行くニッコウキスゲはポールを持っていない。
ニッコウキスゲはポールなしでも私たちよりもよいタイムを出す。持久力をしっかりと鍛えていて体重も軽く、トレイルランニングにおいてはオコジョ隊の中でもっとも適性がある。
「ニッコウキスゲ。太ももに手をついて、腕で体を支えるのもアリ」
「パワーウォークでしょ、大丈夫」
トレイルランニングのみならず傾斜のきつい坂道のコツは、腕を振るときに意識的に上の方に持っていくことだ。
腕を上げる勢いで体を持ち上げるようにすると姿勢が良くなり、足も上がりやすく呼吸しやすい。
それでもつらいときは、パワーウォークという歩法を使う。
太ももを腕で押して歩くという歩き方だが、なれるとジョギング程度の速さで歩ける。トレランじゃなくても案外楽になるのでオススメだ。ただぬかるんでたり雨上がりで滑りやすいときは転倒に注意してほしい。
だがパワーウォーク以外にも良い方法はある。
腕を使って歩行をサポートするならば、やはりポールが頼りになる。
「ほらな、ポール使えばよかったじゃんかよ」
ツキノワがニッコウキスゲを煽るが、私も同感だ。
トレッキングポールは厳しい状況ほどありがたく感じる。
トレランでも普通の登山でも使い方は基本的に同じだ。
体を支えるポイントが増えることで、足腰は格段に楽になる。
「あたしは身動き取りにくくなるの嫌いなんだよ!」
ニッコウキスゲの方が身軽さや持久力はあるが、パワーはツキノワの方が上である。
少し多めの荷物を背負っても、ツキノワはまったく意に介していない。
私の後方でばんえい馬のごとき勢いで走ってくれるのは安心感がある。
「スライムを少し引き離しすぎてる。ペース上げ過ぎかもしれねえ」
「わかった。ニッコウキスゲ」
「少し緩めよう」
私たちは、ただ無殺生攻略するためでなく聖者オリーブの初回記録3時間を切る必要がある。
スタミナを消費しきることは禁物だった。
木漏れ日さえも暑く感じる。
汗を吹き飛ばす風がほしい。
リスが走ってくる私たちや追いかけるスライムに驚いて、ばばばっと木の上に登っていく。お食事中にごめんねと心のなかで謝り、坂を駆け抜ける。
空気が重い。
体がほてる。
峠のピークはすぐそこなのに、まるで2000m級の山の頂上を目指しているようなキツさだ。
「オコジョ! がんばって!」
「もちろん」
私はソロ登山派だが、つらいときの仲間の存在は本当にありがたい。
ニッコウキスゲはペースメーカーとなり、殿のツキノワは追いすがるスライムに注意を払ってくれる。
「そろそろ1つ目の峠だよ!」
木々が減って、稜線に入った。
鉄騎スライム峠のピークが見える。
「本当に走ってきた!」
「がんばれー!」
「いいペースだぞ! 多分!」
うわっ、なんか人だかりができてる。
まるで市民マラソンや駅伝を見物しに来た人々のようだ。
そして人だかりの中央には臨時に設けられたテーブルがあり、コップが置かれている。
給水場じゃん。
湧き水のポイントを調べるまでもなかったかもしれない。
「みなさーん! がんばってぇー!」
茶屋のお姉さんだ。
どうやら水を用意して応援してくれているらしい。
「助かる! お金は後で払う!」
「そんなことより、攻略成功させてくださいね!」
「任せて!」
ありがたく水を受け取る。
体に水分が染み渡っていく。美味しい。
【20分ほど経過しているが、聖者オリーブの初回記録を超えている。ペースを乱さず、がんばるように】
しかもお姉さんは大地の精霊様を呼び出してくれていた。
そういえば、スライム山の管理者のおばあさんが「精霊魔法使いに頼んで計測したり走行の証拠を残すようにする」と言ってくれていた。おそらく峠の茶屋の人たちがこうして協力してくれている。ますますこれは成功させなければ、という思いが強まる。
「緩やかなくだりになる。転倒に気をつけて」
ニッコウキスゲとツキノワに告げる。
次は、熱スライム峠だ。
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