サイクロプス峠からの凱旋 2
俗に言う『宝物庫』はすぐに見つかった。
過去に休憩所があったとおぼしき建物がそのまま倉庫のようになっていて、剣や盾、鎧や杖、指輪などの宝飾品、そして冒険者たちを識別するためのネームタグが乱雑に転がっていた。
それらすべてを回収して冒険者ギルドへと戻ると、多くの冒険者たちが、そして私が来たときはいなかった巡礼者と思しき面々が、何か聞きたそうな顔をして待っていた。
結果がどうなったのかを知りたいという顔ではない。
無殺生攻略による祈りの光の力は驚くほど眩しかった。
おそらく王都からも観測できたはずで、ここにも情報は届いているだろう。
だから彼らは、一体どんな手段でやったのかという答え合わせを求めている。
「おいおい、驚かせてやろうと思ったのに、もう結果がわかってるって顔じゃないか。なあオコジョ、ニッコウキスゲ」
「風情がないね、まったく」
「どうせみんな飽きる。まだまだ攻略するところはたくさんあるんだから」
そう言うと、ツキノワとニッコウキスゲがにやっと笑う。
本当は周囲の人に無礼な態度を謝ろうと思っていたが、ツキノワたちから止められていた。「初めて来たときと同じでいい。強気な態度でいろ」とアドバイスを受けていた。
理由は幾つかある。
サイクロプス峠を無殺生攻略したとなると、その実力を目当てに「巡礼者に頼ろうとする冒険者」が数多く現れるだろうと言われた。実力を認めてくれるならば問題ないのだが、中には仕事をせずに分前だけを要求するダメ冒険者もいるらしく、巡礼者が甘いと侮られるのは避けたほうがよいと忠告されていた。
だがそれよりも大事なのは、私の真似をする人間が現れないこと。仮に現れるとしても、それなりに実力が確かな人間であることだ。
巡礼者は冒険者ギルドに報告書を出さなければならず、報告書を出さなければ攻略についての報酬が出ない。だから私がどのように攻略したか……つまりクライミングをしたという情報はいずれ共有される。
そのときに「あいつだからできたことだと思わせろ」「誰もできないことをやった自覚を持て」と二人に言われて、私は素直に納得した。
普通の登山ならいくらでも真似してくれて問題ないしむしろ嬉しいのだが、クライミング、そして沢登りや冬山登山については半端に真似されたら死人が出かねない。
クライミングをやりたいならまず、ボルダリング教室や岩山講習会に行ったりして、指導者から教えを受けようね。
「知っての通り、臨時パーティー『オコジョ隊』はサイクロプス峠を無殺生攻略した! リーダーのオコジョは、峠道を通らずに断崖絶壁を登り切って、見事にサイクロプスどもを欺いて祈りを天に届けさせた!」
なんか勝手にパーティー名決められてるんですけど!?
抗議の目線をツキノワに送るが、ツキノワは意図が通じないのか「任せとけ」とウインクをした。くそう、チャーミングなやつだ。
「断崖絶壁を登った!?」
「嘘つけ、あんなところ人が登れるか!」
冒険者たちからヤジが飛んでくるが、ツキノワが笑ってスルーした。
「俺たちはたしかにそれを見届けた! 祈りの光が空に上がったのを見たやつもいるだろう! なあニッコウキスゲ……じゃなくてジュラ」
「ああ、間違いないよ。こいつは確かに登りきった。正気を疑ったけど、いや今でも疑ってるけど、こいつは誰も見たことのないやり方でやりきったよ。その証拠に、祈りの光が輝いたのは王都からでも見えただろ」
ニッコウキスゲの言葉に、ヤジを飛ばしていた連中が黙った。
「それは……」
「た、確かにそうだが」
「フェルドが言うならともかく、ジュラが言うなら本当なんだろう」
「フェルドが言うならともかくってなんだよ! 俺は正直者だぞ!」
「お前は図体と顔の割に口八丁手八丁じゃねえか!」
「そうだそうだ!」
ツキノワの愛されぶりにちょっと笑ってしまう。
彼はクライミングもできたし力持ちだとは思うが、交渉の上手さの方が冒険者たちから認められてるようだ。
「でもよぉ、魔法とか魔道具とかあるんじゃないか。教えてくれよ」
「他人のスキルを根掘り葉掘り聞くんじゃないよ。そこは自分で考えな」
「うっ……」
「何もないとは言わないけれど、一番大事なのはオコジョがきっちり鍛えて技術も磨いてることさ」
ニッコウキスゲの言葉に、情報を探り出そうとしていた男が黙る。
ちょっと気まずい空気が流れてどうしようかと思っていたら、以前私と口論になった受付の女の子が私たちの前に進み出てきた。
この子にだけはしっかり謝らなきゃ……と思っていたが、彼女の方は喜色満面であった。
「と、ともかくです! 無殺生攻略おめでとうございます! サイクロプス峠の無殺生攻略が出たのは30年ぶりの快挙です!」
おおー、というどよめきがギルド内に広がる。
「しかも巡礼者デビューでサイクロプス峠を無殺生攻略するのは、恐らく記録上初めてですよ! というかA級難易度の聖地で巡礼者デビューってこと自体も異例だし……もう何が何だかわかりませんよぅ!」
「へえー、そうなんだ」
サイクロプスのスペックはちゃんと調べたけど難易度の格付けは気にしなかった。魔物とどう戦うかではなく、どう避けるかが問題だったし。
「そうなんだじゃないですよ! 大ニュースなんです! おめでとうございます! おめでとうございます!」
バンザイワッショイと喜ばんばかりの受付の子のテンションが周囲に広がっていく。
よくわからないテンションにあてられて酒を飲み始める者まで現れた。
というかツキノワが飲んでいる。
まったく、遺産の確認など仕事は残ってるというのに。
困ったものだと、ニッコウキスゲと目を合わせて苦笑した。
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