冒険者たち 2
「はじめまして」
「どーもはじめまして。新人さん」
ギャルがちょっと慇懃無礼な感じで挨拶を返した。
彼女は金髪で、褐色肌で、魔力の込められたタトゥーを入れてアクセサリをじゃらつかせている。正式な魔術師のスタイルの一つなのでギャルと表現するのはちょっと問題がある。
でも背が高く髪も豊かで、深緑色のマントを宝飾品と共にスタイリッシュに身につける彼女は、なんかこう、よい意味でギャルっぽい。貴族とはまた違った風格と美しさがある。
「無殺生攻略ねぇ……。命を張って魔物を倒すよりよっぽどスマートだと思うわ。それを言ってるのが、一度も巡礼をしたことのない新人さんでなければね」
豊かな金髪をかきあげ、あーあと大仰に肩をすくめた。
その首には、胸元から伸びる花が黒で描かれている。
ちなみに魔術師の彫るタトゥーのインクは黒色だけだ。魔力を込められる墨は黒がもっとも効果的らしく、描かれた花は美しいだけではなく危険を秘めている。高地に咲くその花と同じように。
「それ、ニッコウキスゲ? きれいですね」
「……うん、ありがとう。でもそうじゃなくてね」
「計画は問題ない。あなたのお手を煩わせることもない」
「どこの家のお嬢さんか知らないけれどね。机上の空論を信じてハイそうですかと送り出すわけにはいかないの。戦いたくて山にいくバカは好きじゃないけど、その危うさを知らずに行くバカはもっと嫌いなのよ。さ、帰った帰った。お帰りはあちらよ」
「もちろん。登録が済んだら」
「だから、あんたねぇ……」
「心配ありがとう。でも大丈夫」
「大丈夫じゃないから止めてるんだってば!」
「まあまあ待て……このお嬢ちゃんの言う通り。巡礼を止める権利はねえ。助言はできてもな」
今度は私とギャルの口論が始まり、さらにもう一人、男の冒険者が進み出てきた。
こっちは、私に助け舟を出してくれるような雰囲気だ、助かる……と思ったが、見た目が怖い。
ヤクザとホストを足して二分の一で割ったようなコワモテのイケメンだった。
「フェルド。あんた行かせる気かい?」
「行きたいなら行かせてやるしかねえ。巡礼者が巡礼するのは止められねえさ。俺たち冒険者はそれを手伝うかどうかだ」
フェルドと呼ばれた凶相の冒険者は肩をすくめながら言った。
彼は艶消しをした黒い鎧に、白いマフラーのようなものを首に巻いている。
まさしくツキノワグマを彷彿とさせる外見と雰囲気だ。
「見殺しにしろって言うのかい。見損なったよ」
ニッコウキスゲさんが吐き捨てるように言ったが、まあまあとツキノワさんが宥める。
「早まるなよ。提案がある」
「提案?」
私は、はてと首をかしげる。
「カプレーさんよ。サイクロプス峠の護衛として俺たちを雇ってくれ」
「いえ、護衛はいらなくて……」
「サイクロプスに発見されて戦闘が起きたら、結局あんたはサイクロプスに殺されて失敗する。逃げるのか隠れるのか、空を飛ぶのかは知らんが、戦闘を避けることができればあんたは成功する。あるいは無理と判断して撤退する。結末はその3つしかないだろう? だったら護衛がいてもいなくても同じじゃないか?」
「それはそうですが」
「戦闘が起きなきゃ護衛料はいらんし、無殺生攻略の見届人となる。だがもし戦闘や危機的状況が起きたら……そうだな、相場の2倍くらいの報酬はもらいたいところだ」
ツキノワさんがニヤっと笑いながら話す。
ニッコウキスゲさんもその話に納得したのか、怒りの表情が解けた。
私としても見届け人になってくれるという提案は正直ありがたい。
巡礼をすれば祈りの力が聖地に満ちるので、誰も見ていなくとも「巡礼が行われた」ことは察知される。だがそれは必ずしも「私がやった」、「何のイカサマもしなかった」と理解してもらえるわけではない。
だが、どうしても言わなければならないことがある。
聖地の魔物退治はともかく、登山という観点において、私はプロだ。
目の前に居るのがヤクザ並に迫力のある男であったとしても、恐れおののいて頷いてはいけない。
「構わない……ただ……」
「何か問題が? 遠慮なく言ってくれ」
ツキノワさんが鷹揚に頷く。
「ニッコウキスゲさんは大丈夫かもしれない。でも他の人は、私のルートに付いてこられるかちょっとわからない」
私の言葉に、ツキノワさんの表情がびっくりして固まった。
ニッコウキスゲさんも目を見開いて驚いている。
しまった……言葉選びを間違えた。
「あんた、思ったよりやるね……。ちゃんと実力がわかるんだ。みくびってたよ」
「俺もだ。ド素人だと思ってた」
が、なぜか二人は私に妙に感心している。
「あ、いや、失礼なこと言いました。ごめんなさい」
「謝る必要はねえ。巡礼者は戦わないにしても、自分の仕事にプライドを持たなきゃいけねえからな。謝罪よりも、あんたの仕事を見せてくれ」
喧嘩を売るつもりはなかったし、実力不足だと言いたいわけでもないのだが、絶対に誤解されてる気がする。ただ単に、軽装で体重が軽い方が有利ですよって話をしたかっただけなのだが、緊張して失言してしまっただけだ。
でもここで、なぜそういう言葉になったのか説明してもますます正気を疑われてしまう。お手並み拝見と言われたからには、お手並みとやらを披露するしかない。
「……わかりました。確実にやってみせる」
「間違いなく自信はあるんだな」
ほう、とフェルドが感心したように頷いた。
「俺はフェルド。銅級冒険者の戦士だ。よろしくな」
「あたしはジュラ。銀級冒険者で魔術師。ニッコウキスゲでもなんでも好きに呼んで」
「私はカプレー。私の職業は山岳ガイドみたいなもの。冒険者ギルドの分類でいうと……」
「まあ、ポーターだな。巡礼者は基本的にポーターだ。たまに支援魔法使いとか治癒魔法使いとかもいるが」
「ありがとう。私のことは……」
好きに呼んでいいと言おうと思って、ふと気付いた。
新しい旅立ちの日だ。
なら新しい名前で呼んでほしい。
「仲間は、私をオコジョと呼ぶ。ポーターのオコジョ。よろしく」
こうして私は臨時パーティーを組み、サイクロプス峠へ行くこととなった。
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