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簡単にあきらめよう

 なんやかんやで、塔の最深部まで来た。

 あとは、このダンジョンを支配するモンスターを倒せば終了である。


「もうちょいで終わりだねー。あっという間だ。二人とも優秀な冒険者だね。」

「めっそうもないです!ここまで無事にこれたのは、何もかも全てテス様のおかげです!」

「いえいえそんな。私は何もしていませんよ。」

「ほんとだよ。」


 ミレイちゃんがぼそりと言う。正直な子だ。


「ボスはトロルだっけ?体力だけが取り柄のやつだね。キミ達なら楽勝だ。」

「わかりませんよ。ボスが判明しているということは、先に行った人がやられて帰ってきているってことですし。特殊な武器とかを持っているかもしれない。」

「だいじょうぶだいじょうぶ。なんとかなるってー。」

「そんないい加減な…うわっ?」


 どぐわっしゃー、と、どでかい音がした。岩かなんかが砕けた音だ。


「先客?」

「別の冒険者さんかー。だったら物陰から様子を見て、どんな感じの敵なのか探ろう。相手の攻撃パターンを知ることは、勝利の近道だしね。」

「わかってますよ、言われなくても。」


 ちょっとイラっとした口調で、ミレイちゃんがつぶやく。「馬鹿にアドバイス受けるなんて屈辱だ」と思っているのだろう。みくびられたものである。

 まあ実際、他のパーティがボスと戦ってたら様子見させてもらう、というのは常識になっている。聞くまでもねーよって感じなのだろう。よかれと思って言ったのに。

「後輩は、先輩から助言をもらうと喜ぶ」って話をきいたことがあったが、だめだった。どうやら、当たり前のことをドヤ顔で言ったところで、けして尊敬はされないらしい。人間関係とは難しいものだよ。


 ちなみに、「他人のボス戦は見物してよし」という暗黙のルールは、「他人のボス戦には基本手出しはしない」という紳士協定とセットになっている。報酬の分け前が減るからね。

 ピンチなのに助けてくれなくても、目の前でボス倒されて無駄足になっても、あと一撃ってところで力尽きて後続パーティにおいしいとこ取りされても、文句なし。それが冒険者のマナー。

 いろいろ損得絡みの取り決めがあるのだ、ロマンあふれる冒険者のあいだでも。


 そんなわけで、我々は岩陰からバトル現場をのぞき込んだ。

 見ると、ボスは噂通り、獣面の巨人トロルだ。

 こん棒を持ったトロルに対し、槍使いの女の子が独りで立ち向かっている。装備を見る限り、火系の戦士…サラマンダ・ナイトのようだ。ダメージこそ受けてなさそうだけど、たいぶ息が上がっている。長期戦になっているようだ。

 トロルは典型的な、でかくてノロい体力馬鹿。一発当たればでかいけど、ほとんど当たらない。でも体力はあるので、泥仕合になりやすい。

 じゃあどれくらい頑張ったのかなと、トロルのダメージ具合を観察する。と、どうやらノーダメージだ。元気ハツラツでぴんぴんしてる。


「んー、苦戦してるっぽいねー。敵さん、傷一つついてないよ。ソロで戦ってるからかな?」

「だとしても、無傷ってのは変でしょう。やっぱり、普通のトロルとは違うみたいですね。」

「だねー。ん?どしたのエレナさん。」

「いえ、あの娘、ちょっと見覚えが…。」


 エレナさんが、いぶかしげに眉をひそめる。槍使いの娘をガン見している。


「えー?そりゃ同じ冒険者なんだから、どっかで会ってても別に…、あれ?」


 違和感を覚えた。トロルが、装飾品を身につけていたのだ。小指に、指輪が光っていたのだ。

 そしてその指輪は、どうやら、ただのおしゃれアイテムじゃないようだった。


「ね、ちょっと見て。ほら。トロルの小指にはまっているのって、もしかして。」

「…マヒストラルのリング、ですね。なるほど、ナイトでは歯が立たないわけだ。」


 マヒストラルのリング。

 物理攻撃を全て無効にする、めっちゃ厄介なアイテムだ。

 つまり、魔法攻撃でしか倒せないというわけだ。これは、魔法担当のミレイちゃんに気張ってもらうしかない。

 と思ったら、当のミレイちゃんは、困り顔でうーむと腕組みをしていた。どうした。


「どしたん?やっつける自信ない?」

「というか、攻撃魔法もっていないんです、ボク。麻痺とかで相手の動きを鈍らせて、姉さんが速攻で倒すという戦法でやってますから。」

「ありゃま。じゃあ、退却する?」


 私はすぐさま逃げ腰になった。

 と言っても別に、私が無気力人間だからではない。それはそうなのだが、それだけが理由じゃない。

 状況が厳しくなったら、すぐ退却。

 それが長く冒険者を続ける秘訣なのだ。

 無理な戦いを繰り返した挙句、結局クリスタル五回壊してお終い。そうなった冒険者を何人も知っている。実力があったにも関わらず。無理はしないに限るのだ。


「そうですね。仕方ないでしょう。高い報酬金が出るので、もったいないですけど。」


 ミレイちゃんが、少し未練を残しつつも同意する。


「こういうときに、攻撃魔法使える頼もしい仲間がいればって思うんですが…。」


 悔しそうに唇を噛む。そして、ちらりとこちらを見た。この、伝説のシルフ・ウィザードである私を。

 これはもしかして、私の活躍を期待しているのだろうか。私の華麗なる超ウルトラスーパーハイパー大活躍を、待望しちゃっているのだろうか。弱ったなー。


「まあ、ないものねだりしても始まりませんしね。撤退しましょう。」

「あ、うん。そだね。」


 と思いきや、ちっとも期待されていないようだ。いや、いいんだけど。



…そう。こんなやりとりをしている間はまだ、誰も想像だにしていなかったのだ。

 この数秒後に私が、華麗に超ウルトラスーパーハイパー大活躍するだなんてことはね!


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