表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/35

第五章 その⑪ プリムラ――最愛の絵のモデル

 長い廊下を駆け抜け観客席に入ると、観衆が湧いた。

 どうした? と闘技場に目を凝らすと、プリムラ姫がうつぶせに倒れていた。


「姫っ!」


 とっさに声が出た。

 審判がプリムラ姫に近づくが、姫は剣を杖代わりに、弱々しく立ち上がった。

 そして、再び剣を構えるプリムラ姫。

 あれだけボロボロなのに、試合続行の意思がまだあるのか。

 審判が「試合再開」と宣言する。

 しかし、弱っているプリムラ姫相手に、スカーレッタ姫は容赦なく剣撃を繰り出す。

 スカーレッタ王女は本当に強く、あのプリムラ姫相手に何もさせなかった。

 プリムラ姫は、スカーレッタ姫の攻撃を防ぐだけで、精一杯の様子だった。


 俺は、少しでもプリムラ姫に近づくために、観客席の前へ前へと進んでいった。

 観客をかき分け、最前列にたどり着くと、ある人物が俺に手招きをした。


「待ってましたぜ。旦那」


 キャラバン隊の隊長と隊員が、闘技場に一番近い観客席を陣取っていた。

 サークルローズ到着後、キャラバン隊に、()()()()()を頼んだのだが、こんな特等席を用意してくれたとは。


「ありがとうございます。ここなら!」


 プリムラ姫を見据え、息を整える。

 後方で、キャラバン隊の二人が「準備完了」の合図を出した。


 俺は、肺が張り裂けそうなほど、目一杯、息を吸い込んだ。そして――



「プリムラ姫えええええええええええええええええええっ!!」



 大声に驚いたのか、会場中が静かになった。

 試合中の二人も驚き、動きを止めた。



「好きだあああああああああああああああああああああっ!!」



 声帯がぶっ壊れてもいい。

 心の底から俺は叫んだ。

 

 告白と同時に、後ろで待機していたキャラバン隊の二人が、ほろ製の巨大な横断幕を広げた。



「ッッッ‼」



 プリムラ姫は俺に気付くと同時に、目を大きく見開いた。

 そして、持っていた剣を落とし、大粒の涙を流し始め、口を両手でふさいだ。

 彼女の瞳にはきっと、こんな光景が目に入ってきたはずだ。


 プリムラ姫の微笑んだ顔――

 プリムラ姫の怒った顔――

 プリムラ姫の切ない顔――

 プリムラ姫の泣いた顔――

 プリムラ姫の凛々しい顔――

 プリムラ姫の満面の笑顔――

 

 巨大な横断幕――それは、俺がこれまで描き溜めたプリムラ姫の絵。その全てを貼り付けた、大きなキャンバスだった。キャンバスのタイトルは――

 


『プリムラ――最愛の絵のモデル』



「俺は 世界で一番 あなたを愛しています!!」


 異世界に来てからの俺の全部、あなたに届け。



 闘技場は水を打ったように静まり返った。

 だが……。


「お前達! そこで何をしている!」


 会場にいた衛兵隊が、俺達を取り囲んだ。


「こっちへ来い!」


「ちょっ、待てって! 試合の続きが」


 俺とキャラバンの人達は、衛兵隊に連行されてしまった。


 試合の行方は判らずじまいだ。



 ――*――



「あーぁ、なんでこうなるんだか……」


 あの後、キャラバン隊の人達と一緒に、円形闘技場(コロッセウム)の地下牢へと入れられた。


「旦那、さすがにはしゃぎ過ぎたな。ハハハハハっ」


「なんで、そんなに呑気なんですか」


「こういうの、俺たちは慣れてるからな」


「俺は慣れたくないです……」


「告るだけ告ったんだろ。俺達もしばらく休もうぜ」


 隊長は焦ることなく、ゴロンと寝そべった。


「そんな悠長な」


 すると、一人の衛兵が牢屋に近づき、牢の鍵を開けた。


「出ろ。釈放だ」


「おっ、意外と早かったな」


「えっ。どういうこと?」


「旦那、物事を円滑に進めるには、真心と、誠意と、少しの嘘と、最後は金だぜ」


 親指とひとさし指で〇を作る隊長を見て、俺は呆れた。


 俺達は地下牢から釈放され、闘技場に戻ってきたが、人がまばらになっていた。


「試合、終わっちゃったかぁ……」


 勝敗の行方が気になる。

 それ以上に、プリムラ姫がどこにいるのかが、もっと気になる。


「さて。と、俺達は商売があるから帰るとするよ。旦那は旦那でやることあんだろ」


「まぁね。いろいろ助かったよ。ありがとう」


「イイってことよ。それに礼なら、リリィ姉さんに言いな。俺達は姉さんから報酬を受け取ったんだからな」


「ん? 報酬なんてあったっけ?」


「あの手紙だよ」


「ますますわからない。手紙なんて、金にならないだろ?」


「へっ。何もわかっちゃいねえな旦那。あの手紙にはな、エリクサーの製法が書かれていたんだよ」


 エリクサー。

 ゲームの最上級回復アイテムの代名詞は? と聞かれたら、真っ先に挙がるマジックアイテム。


「エリクサーは、ごく一部のエルフにのみ製法が伝わっている、門外不出の霊薬。まぁ、本物はエルフ族以外、作れないがな。それでも俺たちにとっては、金のなる木だ」


 そんな大事なものを投げ打ってくれたのかリリィさん。


「ただ、とてつもなく苦くて、青臭くて、不味いらしいな。噂じゃ、薬じゃなく、毒だと勘違いする奴もいるとか」


 それって、もしかして、ダークエルフ汁のことか?

 リリィさんは、そんな貴重なものをいつも俺に飲ませてくれていたのか。

 今度から、あの人には足を向けて寝られないな。


「旦那は姉さんに愛されてるなぁ。うらやましいぜ」


「まっ、まぁね。はははっ」


「女泣かせるのも大概にしろよ。旦那。それじゃあな」


「あぁ、それじゃあ」


 そう言うと、隊長は円形闘技場(コロッセウム)の出口へと向かった。


 ――*――


 一人残った俺は、円形闘技場(コロッセウム)をゆっくりと歩いた。

 

 祭りの後の闘技場は、その熱気を残しつつも、どこか寂しい空気が流れていた。


 俺一人、観客席を歩きながら、考え続けた。

 プリムラ姫に、俺の想い、すべて伝えられたかな。

 プリムラ姫は、俺のこと、どう思ったのかな。


 そう言えば、プリムラ姫の絵、没収されたけど、どうなったんだ。捨てられたりなんかしてないよな……。

 急に不安になってきた。

 こんな時まで絵のことが気になるなんて、つくづくバカだな、俺は。




「そちらのお方」


 後ろから突然、声を掛けられた。


「この絵、会場に落とされていましたよ」


「ありがとうございます。今、探していた所なんです」


 俺は照れくさくて振り向かずに答える。


「そうですの。見つかって良かったですわ」


「「……」」


 会話が途切れ、二人に沈黙が流れる。


「ところで、試合はどちらが勝ちましたか?」


 俺は背を向けたまま、会話を続けた。


「あなたの、ご想像の通りです」


「勝ったんですね」


「えぇ。試合中、とても情熱的なエールを受け取りましたので」


 あの状態から勝ったのか。さすがだな。本当に敵わないよ。


「その絵、どうですか? 誠心誠意、心を込めて描いたんですが」


「えぇ、素晴らしいです。わたくし、絵のことは判りませんが、この絵を見ると、とても暖かい気持ちになれるの」


「お褒めいただき光栄です。その絵、俺の最愛の人がモデルなんです」

 

「……」


「だけど、俺の画力では、まだまだ彼女の魅力を引き出せていないし、日に日に魅力が増していくから、本当に画家泣かせなモデルなんです」


「……」


「俺はそのモデルを――貴女を一生かけて、描き続けたいと思っています」


「……」


「だから――」


「結婚しよう プリムラ」

「アヤトッ!」      


 ――――



 アヤトとプリムラ、この先、二人に待ち受ける困難は計り知れない。


 だが、二人なら大丈夫。


 二人が恋に落ちたのは、運命なのだから。

これにて完結です。

読んでいただいた読者の皆様、どうもありがとうございました。

ベタベタな恋愛ものでしたが、いかがでしたか。

この作品が、少しでも皆様に楽しんでいただけたのであれば幸いです。

それでは、また、別の形でお会いしましょう。ではでは。


下のブックマーク・ポイント・感想等待ってます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ