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第五章 その⑤ リリィさんの部屋にて

 画廊に戻ると彼女はそそくさと二階に上がった。

 リリィさんの画廊は彼女の家でもあり、一階が画廊で、二階が居住スペースだ。

 俺もそこそこの付き合いはあるものの二階には入ったことはない。

 一階で緊張しながら待っていると「いいよー」と声が聞こえたので、部屋のドアを開け「いざっ」と気合を入れた。


「失礼しま……ぶっーーーーっ!!」


 ドアを開けるとリリィさんが部屋の正面で、一糸まとわぬ姿で俺を出迎えた。

 俺は一瞬思考がフリーズするものの慌てて部屋から退散し、ドアを閉めた。

 すぐさま、内側からドンドンドン。と勢いよくドアを叩く音が響く。


「おい! 逃げるな!」


 俺は体ごとドアへと体重を預け、彼女を部屋に閉じ込めた。


「何考えてんだ、リリィさん!」


「アヤトもいきなりドアを閉めるなんて失礼だぞ!」


「あんたも服着ろ!」


「裸婦画なんだから、裸を見せるのは当然だろ!」


「さっき『下着まで』って言ったでしょうが! それにいきなりスッポンポンで出迎える奴があるか!」


「じゃあどうすればいいのさ!」


「だから服着ろ! もしくはシーツかなんかを羽織ってくれ!」


 俺の懇願が伝わったのか、ドアを叩く音が消えゴソゴソと音がする。


「あーい。もういいよー」


 リリィさんはめんどくさそうな声で合図を出したので、俺は再度ドアを開けた。

 すると、俺の言いつけを守ったのか、リリィさんは全身が見えないようにシーツにくるまって、そっぽを向いてベッドに座っていた。

 よしよし。今度は言いつけを守ってくれた。

 改めて部屋内を観察すると、リリィさんの部屋は意外に広く、畳み10畳以上の面積がある。 

 しかし、部屋の装飾は、窓際にセミダブルのベッドと四段ぐらい収納が分かれた小ぶりな衣装タンスそれと机と椅子のセットがそれぞれ一つずつというシンプルな構成だった。部屋の大きさの割には少し寂しい。

 ベッドには先ほど脱いだであろう上着やショートパンツなどの衣服が、リリィさんの脇に無造作に置かれている。


「それじゃあ、準備しますのでちょっとお待ちください」


 俺はベッドの近くでイーゼルをセットした後、椅子に座り、キャンバスを立てかけた。


「……」


 リリィさんがやけに静かだ。さすがに反省したのかな。


「やれやれ。リリィさんも恥じらいってものを……」


「つーかまえたっ!」


「うんぎゃあああああああああっ!」


 どこから現れたのか、裸のリリィさんが俺の背中に飛びついた。


 えっ? おかしい。目の前にリリィさんが居るはずなのに? 


 すると、ベッドに座っている全身シーツのリリィさんが、音も無く崩れた。

 しまった、ハリボテか。


「ちょっ! あんた騙したなぁ!」


 ダイレクトに伝わる暖かい肌の感覚。

 続けて香水の匂いか彼女の身体の匂いなのか、とにかく男をくすぐる香りが鼻孔に入ってくる。


「騙してないよ。少し驚かせたくてドアの裏に隠れてただけー」


「耳元で喋るなぁ!」


 ゾワゾワする耳の感覚が、全身に伝わり身震いした。


「はははっ。おもしろーい」リリィさんはさらに続けた「ねぇ……。ボクの裸、君の服越しにピッタリ、くっついているよ……」


「あー、もう! ささやくなっ! 離れろー」


 俺は混乱しながらも、リリィさんを引き剥がし、ベッドシーツを無理やり羽織らせた。

 心労か興奮か、いつの間にかぜーぜーと息をしていた。いずれにせよ体に悪い。


 その後、俺が鬼の形相で睨みながら威圧感を与えたため、リリィさんはおとなしくベッドの上で待機していたが、我慢の限界なのかモゾモゾしだした。


「ねーねー、もういいだろう?」


「ダメ! そのまま待機!」


 リリィさんの下着を探しながら、リリィさんに「待て!」と命令を続ける。

 衣装ダンスの中から見つけた下着は、それはそれは扇情的かつ妖艶な黒色のブラとパンツであった。

 俺は、あちゃーと顔に手を当て、もう隠す布であれば何でもいいと考え、リリィさんを見ずにそれを投げ渡した。


「ほら。あっち向いてますので、それ付けてください」


「おんやぁ、アヤトはこんな下着がお好みかい?」


「だああああああああああっ!」


 リリィさんの挑発的な発言に俺は怒りか興奮かわからない雄たけびを上げた。


「早く着ろっ!」


「なぁんだよ。せっかく私のエロスを余すところなく見せつけて、アヤトを骨抜きにしてやろうと思ったのに。そして専属画家として薄給で山ほど絵を描かせて、たくさん儲けようとしていたのに」


 彼女の悪魔的思考に、俺は呆れてツッコむのをやめた。

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