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第四章 その① 昼下がりの城門前

 あの激闘からもう5日が過ぎた。

 俺は、あの日から絵を使って人を殺す方法を考えていた。


 だが全くと言っていいほど、そんな方法見当がつかない。

 せいぜい、スケッチブックの角で、頭を強く殴ることが一番現実的な手段である。

 (ファセリア王子)がうん〇漏らしている絵を国中にばらまいて、社会的に抹殺してやろうかとも考えたが、逆に不敬罪で俺がデッドエンドだ。何より子供じみた復讐でやる方も恥ずかしい。


 そう言えば今日の門番はゲオルグではなく、ケンタウレアだった。略してケント。

 ゲオルグは今日非番だ。そう言えば彼女が出来たって言ってたな、うらやましい……。

 アイツ、今日はきっとデートだろうな。

 いやいやいや、俺には夢があるじゃないか。プリムラ姫と最高の家庭を作って……子供は男女一人ずつで一人目は女の子で、二人目は……って違う。そうじゃない!


 プリムラ姫をモデルとした最高の絵を作るのが俺の夢だ。

 何をゲオルグに煽られてるんだ俺は。

 現実世界の鬱屈し悶々と抑圧された精神を絵にぶつける。これこそがカタルシスで、これこそが芸術で、俺の求めるものだ。


「なぁケント、お前彼女とか居んの?」


 そう思った矢先から俺の口ってやつは。だがあまりに退屈なのだ。

 絵のアイディアを練ったり、あの部分にはこの色だな。などの構想を考えることはもうやり尽くした。

 あとは日がな一日ボーっと同じ風景を眺めているだけ。


「今は任務中だ。私語は慎め」


 ケントはまじめで寡黙な男だった。こいつとペアの時は一日が長い。


「いいじゃん。今日は朝から全然人が来ないしさ。少し息抜きしても問題ないだろう?」


「お前の勤務態度は目に余るから、一緒に仕事をするときは、よく監視しておくようにと、エニシダ殿から言い使っている。だからダメだ」


 長身のケントはその身体の大きさに似合わず、抑揚もなく淡々と話すので、俺はゴ〇ゴと話しているのかと錯覚する。


「居るか居ないか、それぐらいは教えてくれよ。不謹慎だけど戦争になった時、万が一、お前の死を知らせる係は俺になるかもしれないだろ? 俺も言うからさ。ちなみに俺は彼女居ないでーす。はい言った」


「特定の女性とお付き合いはしていない」


 俺の強引な会話の進め方に、ケントは半ばあきらめたように答える。


「そっかー。仕方ないよな。お前ちょっと怖いし」


「それで話は終わりか?」


 ケントのムッとした声と冷たい視線が突き刺さる。

 彼はこういう話が好きじゃないみたいだ。

 だが俺にも止められない理由がある。退屈という悪魔が俺を駆り立てるのだ。


「わかった。じゃあ好きな子は?」


「なぜお前に言う必要がある」


 俺が話しかけると、ケントは鬱陶しがらるから、こっちがウザがらみしている気分になる。

 いや、実際ウザがらみしているのか。


「うんじゃ俺が当ててやる。えっと、まずは定番、プリムラ姫!」


「おい。仕事に集中しろ」


 ありゃ? プリムラ姫じゃないのか。

 この城の大半の兵士はプリムラ姫ガチ勢なんだけどな。


「次に食堂のアイリスはどうだ?」


 俺はケントを無視して別の女性の名を挙げる。

 アイリスは、ちょっと小柄で元気印の女の子だ。

 ちょこまか動く姿が癒されるともっぱらの評判で、俺も疲れた時に彼女の姿を見ると元気になる。


「あの小動物みたいなのは、よく俺とぶつかるから危ない。出来れば近づきたくない」


 この様子だと子供のような印象を抱いているから保護対象に近いな。


「じゃあ、ネリネ」


 ネリネは、姫様お付きのメイド。

 エニシダさんが侍女と言う肩書で立場が上だから、公の場にはめったについて来ないが、その献身的な姿に惚れる奴も多い。狙い目ってやつだ。あと胸がでかい。


「あぁ。エニシダ殿の部下の者か。よくエニシダ殿を補佐していて感心だ」


 あっ、気づいちゃった俺。


「最後、エーー」


 ケントがビクッと反応した。


「ゴノキ!」

 エゴノキーー俺たちの同僚。

 男性ホルモン120%充填されたゴリラみたいな顔をしている。性別オス。

 ケントは一瞬力が抜けた顔をして、平静に戻った。


「お前、わかりやすすぎ。へぇ、エニシダさんがタイプなのかぁ。あの人のドコがいいの?」


「お前っ! 何をババ、バカなことを!」


 あのケントが取り乱している。


「あれはメデューサの生まれ変わりだよ? こないだもさぁ。ちょっと門番をサボってたら、すっごく遠くからなのに見つかっちゃってさ。『こっち来なさい』って言われて、中庭の草むしりを延々と――」


「ほぅ。アヤト……。あなた、私に睨み殺されたいようですね」


 こういうところがメデューサっぽいんだよ。わかったかケント。

 と俺は言えるはずもなく、ヘビに睨まれたカエル状態となった。


「あははっ……。あははは……」


 俺はエニシダさんに首根っこを掴まれて、どこかに連行された。


 ケントはその光景を何も言わずに見送った。

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