母の暴力
私は嘘を突き通し一度足りと病院へ行くことはなかった。
「あんたいい加減にしなさいよ!仮病だって事はわかってんだから!」
母の堪忍袋の緒が切れた。
「ほんとに夜になったら良くなるんだってば……」
と泣いて訴えてもどうして学校に行きたくないのかと尋ねられる事はなく、ただ怒鳴られるだけ
だった。
「明日からちゃんと行きなさい。行かないと承知しないからね!」
そこまで言われるともう行くしか手立てはない。だが心が拒絶する。
もうあの顔ぶれは二度と見たくないというのに。
ノロノロと制服を着た。
ご飯なんて喉を通らない。
集団登校グループもとっくに行ってしまったし、一人ゆっくり重い足取りで学校へ向かう。
このままどこか遠くへ行きたいとさえ思った。
牛歩で進むもやがては学校の門が見えてくる。辺りには私の他に登校してる生徒はいない。
やっぱり嫌だ……。
私は踵を返した。かと言って行くあてがあるわけでもない。
トボトボと歩いて結局家へ向かった。
この時間は母もとっくにパートに出かけて誰もいない。
鍵は持っていなかったので、自室の窓から入った。
物凄い罪悪感があるが学校に行く事に比べるとたいした事じゃなかった。
昼になると帰ってくるかもしれないので、押入れに隠れた。
近所の人に見られるのもまずいので、外には出ないようして物音を立てずに過ごした。
母が妹と共に帰ってくる頃はさも学校へ行ってきたように、宿題しなくちゃとか演技をしていた。
こうして毎朝学校へ行くフリをして、母がパートに行った後を見計らって帰るという事を繰り返し
たのである。
そんな事が一週間程続いたある日、いつものように途中で家へ帰って自分の部屋で静かに寛いで
いるとガチャガチャと鍵の開く音がして焦った。
時間は母がパートに出かけてから1時間程たった頃だった。
まさか帰ってくるとは思わず、すっかり油断していた私はあっさりと母にみつかった。
「お前何学校サボってるんだ!!」
母は激怒すると言葉が汚くなる。鬼を通り越して般若のような形相で、いきなり私の頭を思い切り
張り倒した。
バチーン!という音と共に頭がクラッとした。
痛みよりもバレた事の罪悪感で涙が出た。
「どうしても行きたくないんだもん、嫌がらせされるから……」
泣きじゃくって訴えた。だが母は容赦しなかった。
「ずっと休んでるって学校から電話があった。お前行ったフリして家に帰って来てやがったのか!!」
もう一度バチーン!と頭をはたかれた。
「あれ程ズル休みしておいて、まだ行ってないって!!」
激高してる母には何を言っても無駄だった。
髪の毛を摑まれて引きずられた。
「やめてーーー!!」
痛みで抵抗するとフッといなくなった。ああ終わったのか……と思ったら、奥から私が使ってる赤
い傘を持って来て思い切り振りかぶって何度も私の体を殴った。
「痛い!!やめて!!」
「親の心子知らず!!どれだけ私ががんばってるかわかってるのか!!」
痛みが体中を襲った。両手で庇いながら体を蹲る。
母はヒートアップして奇声を上げながら殴り続ける。
殴られてる間、酷く周りがゆっくりと時間が流れてる気がした。
こうなると母は誰かが間に入るまで止まらない。だがその時は傘が折れたので中断した。
私の体は痣だらけになり、髪の毛も何本か抜けていた。