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登校拒否


 そんな事が1ヶ月程続いて学校へ行くのが嫌になった。

母はとても厳格だったので少しの風邪程度では休ませてくれない人だった。

最初はお腹が痛い、なんだかしんどい、熱があるかもしれないと散々理由をつけては休みたいと懇

願したがやはり聞き入れてはくれなかった。

そのうちどうやって休めるかと考えて、高熱が出ればさすがの母もびっくりするだろうと脇の下で

体温計を擦ったり息を拭き掛けたりもした。

そんな風にしてもせいぜい0.3上がる程度だ。

37度程度の微熱では追い立てるように学校へ行かされる。行けばいじめられる。

精神的にいっぱいいっぱいだった。

学校から帰った後はいつもと変わりなく元気で、朝になると学校へ行くのを嫌がる子供を前にして

も追い立てる事はするが、母がどうしたのと優しく聞いてくれた事はなかった。

また1日が始まる……憂鬱で仕方なかった。


 このまま目が覚めなかったらいいのに、時間が止まればいいのに。

と何回思った事だろう。

朝はいつもご飯と濃い目の味噌汁とふりかけか海苔。

今朝もゆっくり食べてなかなか制服に着替えない私を見て、母が叱った。

「遅刻するよ、早く支度しなさい!」

「なんか熱っぽいかも……」

仮病には違いないが、本当に具合が悪くなる時もあった。

だが熱がないと休ませてくれない。私は考えた。

『何か熱いものに体温計を触れさせたらどうだろう』と。

当時は冬でこたつがあった。こたつ布団を捲ると赤々としたヒーターが見えた。

ヒーターには網状のカバーのようなものが被さってあり、母の姿が見えないうちにその網状の穴か

らそっと体温計を差し込んでみた。

すると、物凄い勢いで体温計の温度が上昇した。あっという間に39度を越して、慌ててこたつか

ら手を出して38度ちょっとぐらいまで下がるのを待った。

「熱があるみたい」

母は疑いの目で見ていたが、体温計を見て「じゃあ病院へ行きなさい。お金置いとくから」

とだけ言ってパートへ行く為に家を出た。

病院へ行くと熱がないのがバレてしまう。

学校へ行かずに済んで精神的には楽になったが、母が帰って来たらどう言い訳しようかとそればか

りが気になって寛ぐどころじゃない。

母のパート先は家から自転車で5~6分程度のところで、昼になると昼食を食べにいったん帰って

来る。

いつ帰って来てもいいように布団を敷いて横になった。額には水で濡らせたタオルを置いた。

「病院は行ったの?」

母が帰ってくるなり私の部屋に入って来た。

「行こうと思ったけど、ちょっと下がってきたから行かなかった」

「なにそれ」

母の声は呆れていた。さっさと自分だけ昼食を食べて行ってしまった。

パートは4時までで、その後歳の離れた妹が保育園に通っていたので迎えに行ってから帰ってくる

のがいつも5時ぐらいだ。

その間は天国だった。

いつも見られないテレビを見たり、絵を描いたりマンガを読んだりして寛いだ。

母が妹と共に帰ると、もうだいぶん良くなったと言って夕食の手伝いをする。

さらに後片付けをして食器を洗うと母はご機嫌になる。

夜はもう熱が出ていたという事も忘れ、普通に過ごしていた。


 しかしその手はもう通用しなくなっていた。

母は何かを感じたのか、こたつから離れようとしない。

体温計で熱を測ってる間そこから動かず、じっと私を見ている。

どうにかして熱を上げないとまたあのB達のいる学校へ行かなければならなくなる。

ふと、目の前に暖かいお茶があるのに気づいた。

私は閃き、そのお茶を飲むフリをして口に含んだ。そしてトイレへ向かった。

さすがにトイレへ行くのに疑われる事はなかったようだった。

トイレへ入ると体温計を脇から取り出し、口の中に突っ込んだ。

するとお湯の温度を感知して体温計の温度がスーッと上昇した。しかも38度少し。程よい温度

だった。

それをまた脇に挟み、ぐったりとした演技を交えながら「また熱が出た……」

と体温計を差し出した。

「そんなに頻繁に熱が出るなんておかしいじゃないの。あんたの顔色は全然悪くないし」

今日こそ病院へ行けと念を押され、母はまたパートへ行った。

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