~Stage3 激突!ゲス・プログラマー戦~①
「はい、おねえちゃんこれあげる」
その差し出された手には綺麗な赤いアネモネの花が握られていた。
マドカの目の前にはまだあどなさの残る栗色の髪の毛が可愛らしい男の子がいる。
「しょうらいボクとけっこんしてください」
なんと人生初プロポーズを受けてしまう。
まあ、まだ14歳なので当然と言えば当然の事だが。
目の前にいる男の子はマドカがこの街に初めて来た日に泊った宿屋の店主の子供である。 年は7歳で名前はジジと言う。
マドカを一目見て気に入ったらしく、今はデバッカーギルドの2階に住んでいるマドカを尋ねてこうしてほぼ毎日のように遊びに来るのだ。
毎日ミーアの地獄の様なデバッカーの特訓を受けているマドカにとっては、合間にこのジジと遊ぶ時間が何よりの癒しとなっていた。
一緒に市場に買い物に出かけたり、お手玉を作って遊んだりと、まるで本当の弟のように可愛がっていた。
「あっありがとう、ジジ」
「まだ小さな子供だから10年後もまだお姉ちゃんの事が好きだったらまたプロポーズしてちょうだい」
相手は小さな男の子とはいえ、告白をされるのもも人生初だったマドカは少しドギマギしながら答える。
「そう」
ジジはくりくりとした瞳をふせて明らかにしょんぼりとした様子だ。
ガチャ、扉が空く音がする。
「マドカ、今日の特訓はじめるわよ」
ミーアさんが外出から戻ってきたようだ。
「あらっ、ジジまた遊びに来ていたの」
ミーアはしょんぼりしているジジに笑顔を向ける。
「あなた達は本当に姉弟のように仲が良いわね」
ミーアがその小さな男の子の頭を撫でようとする。
バシッ
ジジは乱暴にその手を払いのける。
ミーアはこの行動に驚いた様子を見せている、優しい性格のジジがこんな態度に出るのはとても珍しい。
「コラっ、ジジだめでしょ」
その行動を見てマドカはつい強い口調になってしまう。
するとジジの目にはみるみるうちに涙がたまっていく。
「ねえちゃんたちの、ばかーっ」
それだけ言い残すと、顔を隠すかのようにそのまま勢いよく扉を開け外に飛び出してしまった。
「ジジ・・・」
マドカは心配そうにジジが飛び出していった扉を見つめる。
勇気を持ってしてくれたプロポーズをやんわりとは言え断られた上に、ミーアさんに悪気が無いとはいえ子供扱いされたのだ。
子供とは言え男のプライドを傷つけられたのだろう、あんな態度をとるのも無理はない。
気持ちを切り替えるようにミーアに振り向くと。
「さぁっ、今日の特訓をはじめましょう」
ジジには悪いけど後で謝ろう、今はデバッカーとして強くなることが一番大事なのだ。
「デバッグモード~【アイテム入手ID:26 プラチナダガーON】!」
なにも持っていないはずのマドカの右手にはいつの間にかダガーが握られている。
「すごいじゃない、マドカ。アイテム入手も完璧に使いこなせる様になったわね」
「マドカ~ほんとうに成長したのう」
完全に孫娘の成長に感動したお爺ちゃんの様なリアクションをするQ爺。
「へっへーん、まあね」
と、得意げな顔でダガーを構えて鼻をこするマドカであった。
特訓前は少しふさぎ込んでいたが今はすっかり元気を取り戻している。
マドカとミーアはいつもの平原でマドカを一流のデバッカーに育てるべく特訓をしていた。
今日はマドカの成長をこの目で見たいのことで珍しくQ爺も特訓に同行していた。
「もうかれこれ特訓を始めて、2カ月近く経つわね。あなたももう立派なデバッカーだわマドカ」
毎日の20キロのランニングを始め、魔物討伐やバグ修正の実践訓練と地獄の様な特訓を積み重ねていたマドカは、デバッカーLV10まで成長していた。
そして初めてミーアに見せてもらった時から憧れていた、デバックモード【アイテム入手】をついに覚えたマドカはこの上なく上機嫌であった。
「アイテム入手を使いこなせるようになったこのマドカ様の前に敵はいない。今ならどんなやつでもかかってきなさいってもんよ」
と、これ以上ないくらい天狗になっていたマドカであった。
すると、急に後ろから緊迫した調子の男の声が聞こえてきた。
「おいっ、あんた達デバッガーギルドの者だろ。」
「街が、ロストエデンが大変なんだ。すぐに戻ってきてくれ」
街から大急ぎで走ってきたのか肩で大きく息をしながら、青年が一刻の予断も許さないとばかりに話す。
「もう少し詳しく事情を聞かせてくれるかしら」
青年のただならぬ様子を見てとったのか、にこやかだったミーアさんの表情が一気に険しくなる。
「ゲス・プログラマーと名乗る軍団が街に攻め込んできたんだ。今は街の警備隊が城門前で食い止めているがそれもいつまでもつか。頼むすぐに戻ってくれ」
「ゲス・プログラマー・・・」
ゲス・プログラマー、前にQ爺とミーアさんがその名前を口にしていた。
この世界のバグを生み出している元凶とも言える存在。
「マドカすぐに街に戻るわよ。あなたにも戦ってもらう事になると思うから心の準備だけはしておいて」
ミーアさんが鋭い目線をこちらに向けてくる、その目には少し複雑そうな気の毒ともいいたげな感情が読み取れる。
「のっ、望むところよ。そいつらを倒せば私は現実世界に帰れるんでしょ、向こうから来てくれて感謝したいくらいよ」
マドカは自らを奮い立たせようとするが、同様は隠しきれないようだ。
手は小刻みにふるえ顔色も青ざめている。
「まさか、こんなに早くやつらと戦う事になるとは。これもまた運命かのう」
Q爺がその小さな体で天をあおぎ、そうつぶやいた。