~Stage2 デバッカーギルド~③
「マドカー遅れてるよ」
キツいはてしなくキツい。
颯爽と前方を走るミーアさんの後ろで横腹を押さえながらヨタヨタと走る。
しかも、ミーアさんギルドで話していた時はあんなに優しげなお姉さんだったのに今はまるで鬼教官ではないか。
遅れるたびに前方のミーアさんから喝が飛んでくる。
「ぜぇっ、ぜぇっ。なんでデバックモードは使っちゃダメなんですか?」
「そもそもデバックモードがあれば基礎体力はいらないんじゃ」
前を行くミーアさんはこちらを振り返り。
「そうね、デバックモードを使うと確かに身体能力は大きく向上する。でも、そもそもの基礎体力がないと追い込まれたときに底力が発揮できず命を落とす事もあるわ」
「過去にこの力を過信しすぎて命を落としてしまったデバッカーを何人も見てきた」
過去に思いをはせているのかミーアさんは遠くを見ている。
なるほど、この厳しいトレーニングは過去にそういった人たちを見てきたからなのか。
「ぜぇっ、ひーっひーいっ。ダメ吐きそう」
マドカはなんとか20キロを走り抜き街の外にある草原の上に大の字に倒れ込んでいた。
「マドカよく頑張ったわね。エラいエラい」
鬼教官からいつもの優しい雰囲気に戻ったミーアさんはマドカの顔を覗き込み頭をポンポンなでてくる。
そして竹筒に入った水を差し出してくれた。
「ふぃーっ生き返るー」
グロッキー状態だったマドカは水を飲んで生命力を取り戻した。
今日はめちゃくちゃ頑張ったな。
自分で自分を褒めてあげたいなどと、一人今日の特訓は終わりモードに入っていると。
「さてっ」
ミーアさんは両手をパンっと打ち合わせ、こちらににっこり笑顔を向けている。
「休憩おわり。トレーニングの続きしましょ!」
まだ、続きがあったんですか・・・
マドカはがっくりとうなだれる。
「さあっ、お次はお待ちかね。実践的な戦闘訓練よ」
まったくお待ちかねではないのだが、ミーアさんがノリノリなので黙っておこう。
「デバック~~」
ミーアさんが何やら唱えだすと、何も持っていなかったミーアさんの両手に一瞬の内に木刀が2本現れたではないか。
「おおっー」
一瞬の奇跡的な出来事に思わず歓声をあげてしまい、マドカは両目をキラキラと輝かせていた。
ミーアさんはニコリとこちらにウィンクをしてみせ。
「これもデバックーモードの一種で【アイテム入手】というの。マドカあなたも経験を積めば使えるようになるわ」
「カッコいい~バトル漫画みたい。はやく私も使えるようになりたい~」
先程の落ち込みはどこへやら、マドカは特訓へのモチベーションを高めていた。
カンッ、カンッ。
木刀同士がぶつかり合う音が響く。
「そうっ、そこではこう捌く。飲み込みが早いわねマドカ」
ミーアさんと木刀を構えて向かい合い、攻撃や防御の基礎の動きを一通り教わっている。
現実世界では剣道や武道の経験などないが、
なかなかセンスがあるらしくミーアさんの教えを直さま自分の物にできた。
「うんっ、すごい上達ぶりねマドカ」
「ここからは少し【デバックモード~倍速スピードON~】を使用してみるわよ」
マドカはまだデバッカーに成り立てだから数分程度しか力は使えないだろうけど。今はデバックモードを使用した戦闘に少しでも慣れてもらわないと。
「りょーかいです。それでは【デバックモード~倍速スピードON~】っと」
すると、ドクン・・・っと心臓が脈打ち神経が研ぎ澄まされていく。
この感覚まだ慣れないな。
「うん、うまく入れたようね。【デバックモード~倍速スピードON~】」
ミーアさんも倍速スピードを使用する。
「それでは打ち合いはじめ」
カンッ!カンッ!
激しく互いの木刀がぶつかり合う。
ミーアさんの掛け声で先程の攻撃、防御の動きを互いに繰り返していく、
先ほどと違うのは動きのスピードが恐ろしく早い事だ。
脳が命令を出した瞬間にもう反応している。 反射的に打ちこみ
そして攻撃を防ぐ
十分程続いたのだろうか、攻撃を捌いたミーアさんが声をあげる。
「はいっ、ここでやめっ」
ふーっ、マドカは一息つきリラックスした姿勢になる。
「マドカあなたすごいじゃない。デバッカーに成り立てですぐに10分以上も能力が使えるなんて」
ただここら辺が今は限界だろう、なんといってもデバッカーに昨日なったばかりなのだ。
するとマドカは木刀を軽く振りながら、
「まだまだ行けますよ、昨日も覚えてすぐにぶっ続けで3時間弱も能力を使ったし」
と驚くような事を口ばしった。
「なんですって、3時間も連続で能力を・・・」
強がって無理して言っているようにも見えない、改めてマドカを見てみると確かにまだまだ余力がありそうだ。
私でさえこの倍速スピードの能力を連続で使えるのは1時間弱が限界。
ギルド内でも3時間連続で能力を使える者はいない。
なのに、この子はデバッカーに成り立てのその日に。
「マドカお疲れ様、今日の特訓はここまで。ギルドに帰りましょう」
「やったーっ、早く帰ってシャワー浴びたい」
「さぁ行くわよ、帰りももちろん20キロのランニングよ。」
ミーアさんはこちらに笑顔を向ける。
「そうでした・・・」
「Q爺~、今帰ったぞー」
と、ギルドの扉を開くとマドカは息も絶え絶えでよろめきながら入ってきた。
「お前さん、その様子じゃ初日から相当しごかれたんじゃな」
「ええ、もう一生分の運動をしました。足の痙攣が先から止まらないの」
マドカはソファーにどかっと腰を降ろしうつむき気味に話す。
すると後ろから入ってきたミーアさんに肩をポンと叩かれいつもの笑顔で、
「なに言ってるのマドカ、明日からさらにハードな特訓をするのよ」
と、死刑宣告を受けさらにうなだれるマドカであった。
「とりあえず今日はお疲れさまでした。シャワーでも浴びてゆっくり休んでちょうだい。」
ミーアはマドカをシャワールームに案内し戻ってくる。
そして窓際にある観葉植物のお世話をしているQ爺に対して口を開く。
「あの子、昨日デバックモードを覚えたばかりで直ぐに3時間連続で能力を使ったと言っていたのだげど、本当なの」
Q爺は手を止めミーアの方に振り返ると、
「本当じゃ、凄まじい才能の持ち主じゃと思っておったが想像を遥かに上回っておった。」
「やはり本当だったの。少なくともこのギルドの中では飛び抜けた才能の持ち主のようね。」
「昨日の事で確信した、マドカはこの世界を救うデバッカーになる。」
「なるほど、まさにこの世界の希望ね。それなら、なおさらしっかり冒険者として独り立ちできるよう指導してあげないと。」
「うむ、頼んだぞミーア。この世界の未来がかかっておるのじゃ」
二人は顔を見合わせたまま無言で頷いた。
一方その頃マドカはというと。
「ふん~、ふふ~ん♪うーん、シャワー最高」
のんきに鼻歌を歌いながらシャワーをあびているのであった。