~プロローグ~
その華麗な指使いは一流のピアニストを思わせる、そして脳内では数学者の様に刻々と変わる状況を処理し最適解を導き出す。
「はぁーっ」
勝敗が決したのかヘッドセッドを外すと、軽いため息を漏らしコントローラーを近くのクッションに投げつける。
「どいつもこいつも歯ごたえ無いんだよ。ターコ」
モニターに向かって毒づく彼女の名前は高円寺マドカ。
世界的に人気のある数々のMMOゲームで世界のトップランカー入りを果たしている凄腕ゲーマーだ。
まだ14歳なので学校に通う年頃だがゲームが好きすぎてここ数年は引きこもり生活をしている。
先程の試合に勝利したにも関わらず不満そうに顔をしかめる。
「やっぱり野良試合だと、練習にもならないな」
ゲームの腕前を維持するために常に強い練習相手を探し求めているのだが、ランダムに相手が選ばれる野良試合だと彼女と対等に戦える相手は皆無だった。
口こそ悪いが天然で茶色の髪はショートボブに切り揃えられ、目鼻立ちがくっきりとした色白の愛らしい顔立ちと小柄で華奢な体型は、紛れもない美少女である。
服装は上は派手なタンクトップで下はショートパンツのラフな部屋着姿である。
ふとPCモニターーを見ると見知らぬアドレスからメールが届いている。
普段なら気にも止めず無視するが、メールの件名に思わず興味を惹かれメールをクリックする。
メールの件名を再度確認すように読み上げる。
「最新技術の新作MMOゲームのテスター募集・・・か」
うーむ、ゲーマーとしてこれ程そそられる響きが有るだろうか。
多少怪しさは感じないでも無いがメールの文面を読み進めていく。
ゲームの説明があり、どうやら王道のファンタジーMMORPGの様だ。
これ系のゲームは昔ハマってたなー、久々にやるのも良いかも。
長文のメール文面を読むのは面倒だっので下にどんどんスクロールしていくとゲームのタイトルであろう、「ロストエデン」と書かれていた。
ドラゴンと騎士が対峙しているイラストが描かれたバナーがあり、その下に「クリックしてロストエデンの世界に旅立とう」の文字が。
ふむ、バナーをクリックすればプレイできるのな。
今クリックしてあげるから待っててね。
「ほい、ポチッとな」
クリックしたその瞬間モニターから光が溢れ、しかもブラックホールの様な引力が働き出した。
モニターに飲み込まれまいと抵抗してみるが、その引力の前に抵抗むなしく全身が飲み込まれていく。
「なんじゃこりゃー」
思わず素っ頓狂な声を上げるのも無理はない。
飲み込まれ先は周囲が電子世界の様に意味不明な言語、数字が周囲を駆け巡っていた。
そこを自由落下で頭から底が見えぬ異空間を落ちていく。
死を覚悟して目を閉じ自由落下に身をゆだねる内にいつしか気を失った。