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第19話 GWに突入

 自分の気持ちが琥珀にばれているかもしれない。ますます私は琥珀を避けるようになった。

 神出鬼没の琥珀も、なぜか最近は突然現れることもなくなった。もしかして、琥珀の方も私を避けているのかもしれない。


 あ、やばい。無になって掃除をしよう!邪念があると境内が穢れる。


「ねえ、美鈴ちゃん、今度はいつ真由ちゃん来るの?」

 社務所に毎日来ては、修司さんが同じことを聞いてくる。

「真由は週1回くらいしか来ません。まだまだ来ないです」

「なんだ~~。ライン交換しようねって言ったのに、できなかったんだよね」

 へえ、そうなんだ。真由も心入れ替えたかな。


「残念なことに真由ちゃんの携帯、充電切れてて。この社務所って充電器なかった?」

「ないですよ。勝手に充電されては困るので」

「使えない社務所だな」

 はあ?なんか、色々とムカつくんですけど!


「真由のことは諦めて下さいね」

「じゃ、美鈴ちゃんがデートしてくれんの?」

「私のことも諦めて下さい」

「ふうん。そう言えば、美鈴ちゃん最近琥珀のこと避けてる?」

 ドキ。

「べ、別に、避けていませんけど」


「じゃあ、琥珀に避けられているんだ。ははは」

 ムカ。なんでそこで笑うわけ?ああ、もう!この人と話していると嫌な思いしかしない。

「美鈴ちゃん、僕は美鈴ちゃんがデートしてくれたら、それが一番うれしいんだけどな」

 修司さんが私の頬を触ってきた。うわ!ゾゾ~~!

「ちょっと、勝手に触らないでください」


 ガラっと引き戸が開き、突然琥珀が来た。

「修司、何をしているんだ」

「なんだ、もう琥珀は美鈴ちゃんに飽きたのかと思っていたのに」

「何?」

「美鈴ちゃんにアプローチしていたんだ。いいだろ?別に」


「前にも言ったが美鈴は龍神の嫁になる女だ。勝手なことは許さん」

「はははは!やばいよ、琥珀。美鈴ちゃん、こんなやばい奴、ここで手伝わせていいの?」

「修司さんこそ、神主なのにチャラチャラして!もっと真面目に修業したらどうですか?」

「修業?もう僕は神主だよ?」

「どこが?!どっからどう見ても、チャラい奴にしか見えません」


「は~~あ。ほんと、美鈴ちゃん、うるさいよね。もっとおとなしくなろうよ」

「おとなしい人が好みなら、他の女性を探してください!」

 フン!と顔を背けると、修司さんは舌打ちをして社務所を出て行った。

 最近、修司さんの態度、コロコロ変わる。


「………」

 なんだか、隣から無言の圧を感じる。じっと琥珀がこっちを見ている気がする。

「な、なに?」

 圧に負けて琥珀の方を見た。

「修司にどこか触られたか?」


「ほっぺた」

 そう答えると琥珀は私の頬の近くに手をかざした。あれ?あったかくなった。

「修司さんに触られるだけでも気を取られたりするの?」

「気を取られることはないかもしれないが、修司の低いエネルギーにやられる可能性はあるな」

「低いエネルギー?」


「あいつのエネルギーは低くて強い。冷たくて周りにその冷気を放っている。倒れた参拝客がいただろう」

「うん」

「あいつとちょっと話しただけで、その冷たいエネルギーを受けたのかもしれない」

「そんなことってあるの?」


「あったかくなったか?」

「うん」

「顔色良くなったな」

「顔色まで悪かった?」

「少し…」


 琥珀はそれからしばらく黙って私を見ていた。そして、なぜか安心したような顔になり、

「もう大丈夫だな」

と社務所を出て行った。


 何が大丈夫?あ、私の気?それを心配していたの?

 じゃあ、特にヤキモチを妬いて…とかじゃないわけね。


 それもそうだよね。さっきも私は龍神の嫁になる女だって言っていたもんね。


 あ~、また凹んだ。この繰り返しだ。


 真由と修司さんがデートをすることもなく、GWがやってきた。それまでに残念ながら新しいバイトの子も見つからず、前にバイトしてくれていた人に声をかけ、GWだけ出てもらえることとなった。それといつも手伝いに来てくれる親戚の子も来てくれる。


 そのうちの一人は笹木彩音ささきあやねちゃん。私より1個上。確か誕生日は3/31だから、生まれた日は5日しか違わないけど、1学年上なんだよね。


 もう一人の子は高校2年の水上綺羅みずかみきらちゃん。お母さんの妹の子。つまり従妹なんだけど、とっても変わっている子。お母さんの妹の暢子のぶこおばさんがすでに変わっている人で、若い頃は少しの間、アイドルをしていたらしい。


 綺羅ちゃんも子どもの頃タレントをしていた。とはいえ、CMに出たりする程度。綺羅ちゃん自身が小学生になって、タレントはやめてしまった。自分がアイドルを追っかける立場になったらしい。いまは親子そろってアイドルの追っかけをしていて、たまの休みにうちにもバイトに来てお金を稼いでいるというわけだ。


 この綺羅ちゃんは、修司さんに言い寄られても大丈夫だろう。なんとかってアイドル一筋だし、何よりも超変わり者だから、修司さんですら相手に出来ないと思う。なんていうか、俗世界からかけ離れているっていうのかな。浮世離れしているっていうのかな。きらきら星に住んでいる綺羅ですとか、平気で言ってくるくらいだから。


 もう一人の彩音ちゃんは、とっても奇麗でおしとやかだ。私も神楽を習っているが、彩音ちゃんは子どもの頃から日本舞踊も習っているから、私よりも上手に神楽を踊れる。隣で踊るのは毎年引け目を感じている。


 ん?

 修司さんの好みかもしれないけれど、もしかして琥珀の好みそのもの?!


 いや、待って。琥珀が狐で神使だったとしたら、琥珀のお嫁さんも狐ってこと?だったら、彩音ちゃんになびくことはない?


 あ~~~、待って、待って私。なんか思考がヘンテコになってる!とりあえず、彩音ちゃんに修司さんが言い寄らないように気を付けないと。



 GW1日目。最近の神社ブームと龍神ブームで、山守神社も参拝者が増える。朝から気合を入れて掃除をしていると、

「美鈴」

と琥珀が久しぶりに声をかけてきた。


 最近は私からも琥珀からも話しかけることもなく、掃除の最中に琥珀が来ることもなかったからびっくりした。

「何?」

 思わず態度が悪くなる。顔も引きつったかもしれない。


「参拝者が多くなる。悪い気にあてられるかもしれないから、その前に強化するぞ」

「強化…って何を?あ、お清めとか?」

「加護だ」

「龍神の?」


「そうだ。邪気が入らないようにな」

 そう言うと琥珀は私のことを引き寄せた。

 ドキ!え?なんで?

 そのうえ、私のおでこにキスをした。


「何?今何をしたの?」

 びっくりして飛びのくと、

「だから、加護だ」

と琥珀はすんごく冷静に答えた。


「加護?これが?」

 おでこを手で押さえてそう聞くと、

「そうだ」

とまたクールに琥珀は答えた。


「………」

 なんなんだ。真面目な顔をしているから、本当にこうして守ってくれるっていうことなのかな。

「以前も印はつけて置いた。だが、修司とかの悪い気も最近あてられていたからな。その効力も薄れてきたのかもしれん。今一度印をつけた」


「印?なんの?」

「美鈴はわからなくてもいい。掃除は邪念を払って掃除しろよ?」

「わかってるよ」

 琥珀はスタスタとそのままお社のほうに行ってしまった。


「印?なんの?龍神の?ん?」

 よくわかんない。よくわかんないけど、何か守ってくれるものってことだよね。


 掃除をし終え社務所に行った。お守りなども整頓していると、

「おはようございます」

と彩音ちゃんと綺羅ちゃんがやってきた。


「おはよう。またお手伝い頼んじゃってごめんね」

「ううん。大丈夫。GWはいつも予定入れないし、どこに行ってもどうせ混んでいるもの」

 彩音ちゃん、天使?いつも優しいんだよね。

「私もしっかりと稼いで、チケット買うから。GWはなんのライブもないし暇なんだ」

「綺羅ちゃん、まだ友達と遊びたい盛りじゃないの?」


「ううん。みんなバイトしているよ。高校生でバイトって、たかだか知れているし、バイト代も安いけど、ここのバイト代って高いからありがたいよ」

「そうなんだ」

 なるほど。高校生だと最低賃金とかになったりするのかな。


「おはよう、美鈴ちゃん。それから巫女さんのバイトさん?初めまして」

 そこに修司さんが来た。綺羅ちゃんは私の従妹だけど、母方の従妹だし、修司さんとの面識はない。彩音ちゃんも遠い親戚だから面識はないはず。


「修司さんですか?」

 あれ?彩音ちゃん知ってるの?

「……え?」

 修司さんの方はわからないようだけど。

「どこかで会ってるっけ?こんな美人さんなら覚えているはずなんだけどなあ」


「私が中学生の頃だから、修司さんは高校生だったと思うんですけど」

「あれ?そう?」

「私が沢森神社で、一回だけ神楽を踊ったことがあるんです」

「え?まじ?そうか。覚えていないはずないよねえ」

「修司さんとはあいさつ程度しかしなかったから、覚えていないのかもしれないですけど」


「ごめんね。美人さんだったら覚えているはずなのになあ」

「私、もしかして印象が薄かったのかもしれないですね」

 そう彩音ちゃんは言うと静かにほほ笑んだ。ああ、同じ年とは思えないようなしとやかさだ。


「そうか~~~。あ、名前は?」

「私は笹木彩音です」

「……笹木?」

「はい」

「へえ、そうなんだ」

 修司さんの顔色が少し変わった気がする。


「そっちのかわいい子は?」

「私は水上綺羅です。美鈴ちゃんの従妹なの」

「あれ?僕も従兄だよ」

「お母さんが美鈴ちゃんのお母さんの妹なの」

「ああ、母方の方の従妹なんだ。綺羅ちゃん、よろしくね」


「はい。きらきら星に住んでいる綺羅です!よろしくね!」

「………ん?きらきら?」

「修司さん、今日は忙しいんです。油売りに来ないでくださいね!」

 私はさっさと修司さんを追い出した。


「おはよう!」

 修司さんが去ってから真由が来た。あ、良かった。修司さんとかち合わなくて。そのあともう一人頼んでいたバイトの子が入った。今日は私も合わせて5人。


 いつもは事務員さんだけで事務仕事は足りるが、忙しい時期はお母さんも手伝うし、御朱印を押したりするのは、お父さんと悠人お兄さんが事務室で交代ですることになる。まあでも、GWはまだましな方。お正月や七五三の時期は、お守りを売る場を別にも設置したりするし、お正月明けは厄払いなどで、お父さん、おじいさん、悠人お兄さんが大忙しになる。


 早速参拝客がやってきた。GWは朝早くからやってくる。朝早い人は年配者が多い。こんな山のてっぺんまで足を運んでくれて、ありがたいと思う。


 あれ?そう言えば琥珀は何をしているのかな。境内が汚れないよう清めたりしているのかしら。


 修司さんも琥珀も一回も社務所に来ることはなく、午前中は終わった。順番にお昼を休憩室で取り、午後の仕事が始まる。私も忙しい日は面倒だから、休憩室でお昼を取る。バイトが多い日は仕出しのお弁当をお母さんが頼んでいて、山のてっぺんまで届けてくれるのだ。


「疲れた~~。前よりも絶対に参拝者増えているよね」

 私がそう愚痴をこぼすと、

「龍神ブームだもんねえ」

と一緒にお昼に入った彩音ちゃんがほほ笑んだ。


「ここのお守り、かっこいいもんね。龍神の刺繍がしてあって。私も一つ買って帰ろうっと」

 真由がにこやかにそう言った。

「真由、今日は修司さんと会わずに帰るんだよ」

「また、そういうこと言ってる」

「ライン交換しなかったんでしょ?」


「そうなんだよ。あの日充電なくなってて出来なかったの。そのあとも美鈴がうるさいから、修司さんとも話す機会すらなかったよ。今日いるんだよね?」

「会うのよしなよ。関わるのもやめたほうがいいよ。あ、彩音ちゃんも気を付けてね。修司さんって女ったらしで誰にでも声かけてるから」


「…なんで修司さんはここにいるの?」

「大学卒業して、自分の家の神社で神主するまでに修業に来たって言ってたよ」

「神主の?でも、神主になるのを嫌がっていたけどな。私が沢森神社に行った時も、私が挨拶をしてもまともに返事もしてくれず、ふらっとどこかにいなくなっていたし」


「それで彩音ちゃんのことも覚えていないのかな」

「そうかもしれない。別に神楽も見て行かなかったし…」

「ふうん。大学出て心入れ替えたとか?いや、神主をやりたそうには見えないけどね」

「そうだよねえ。確か、大学を出てすぐにニュージーランドに行ったって話も耳にしたんだけど?」


 ニュージーランドに?え?じゃあ、なんで山守神社にいるの?




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