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第14話 告白もできないかもしれない

「やっぱり、そう思う?」

 傷つきながらも、私は里奈に聞いてみた。ああ、こんなこと聞いて、傷の上に塩でも塗りたいっていうの?私。でも、里奈は私の顔をジロジロと見て、

「今日もしかして、メイクしてる?」

と聞いてきた。

「うん。してみた」


「薄くファンデーションした?」

「わかる?」

「なんとなく。でも、目とか眉毛とかはそのまんま?」

「うん。だって、どういじっていいかわかんないし。ファンデとリップクリームだけだよ」

「それだけ?まあ、いいんだけど。でも、眉の形揃えるだけでも変わるよ」

「そうなの?」

「雨で今、あんまり参拝客も来ていないみたいだし、あとでやってあげるよ」


 2時になり、さっさと亘理さんはいつものごとく帰っていった。そのあともポツリポツリと参拝客がやってくるだけでとても暇だった。それも、外はけっこう雨が降り出している。


「八乙女さん、今日3時まででもいいわよ。この分じゃもう参拝客も来なそうだし」

 お母さんが顔を出してそう言ってきた。

「わかりました~~。かえりま~~す」


 3時になる5分前だったというのに、八乙女さんはさっさと更衣室へと消えていった。天気が悪い日は参拝客も来なくなるから、早めに八乙女さんは帰ることも多い。バイト代が減るのにも関わらず、彼女にとっては早めに帰れる方がありがたいらしい。帰ってから多分彼氏とゲームでもするんだろう。同棲もしているかもしれないんだよねえ。


「里奈ちゃんもそろそろ上がっていいからね?」

「はい。ありがとうございます」

 里奈はそう明るく挨拶をして、

「参拝客来ないんでしょ?化粧してあげるから更衣室おいで」

と私に小声で言ってきた。


 一応呼び鈴を置いて、私と里奈は更衣室に入った。

「目、つむって」

 里奈の言われたとおりにした。そして、数分後、

「開けていいよ」

と言われて、鏡を見てみた。


「おや?なんだか、眉毛変わるだけで、垢抜けた」

「でしょ?」

「私、本当にやぼったかったんだ」

「基はいいんだからさ、眉整えたり、この辺のそばかすファンデで消したり、リップで唇のガサガサおさえたら、変わるんだよ?肌だってきれいなんだからさ~~。それにもう少し色のあるリップ塗ったら印象が明るくなるよ」


「リップクリームじゃなくて、口紅のほうがいい?」

「うん。私の貸してあげるよ」

 里奈の口紅を塗ってみた。あ、結構赤くて目立つ色だな。


「まあ、私は真由みたいに、派手に化粧して化けろとは言わないけどね。ああいうの、本当言うと好きじゃないし」

「里奈は素が奇麗だもの。整った顔しているんだから、化粧しなくてもいいじゃん」

「え~~?私は私の顔嫌いなの。デカい目も、それに引き換え唇だけは薄っぺらくって。真由は目の細さや唇の太さを気にしているけど、真由の素顔のほうが可愛らしくて恨まやしいよ」


 私は?とは聞けなかった。確かに真由は化粧を落とすとかなりおとなしめになるけど、でも可愛らしい。私は何よりも、地味っていうか、目立たない顔をしている。印象が薄いらしく、一回会っただけじゃなかなか覚えてもらえない。


 里奈は私に化粧をし終えると、着替えて帰って行った。このあとの時間なら、私一人でも十分だ。

 ボケッとしながら社務所にいた。すると、窓から琥珀が顔をのぞかせた。

「あ、琥珀」

「他のやつは帰ったのか?」

「うん。帰ったよ」


 琥珀はそのまま姿を消したかと思ったら、横にある引き戸を開け社務所に入ってきた。

「今日は参拝客もほとんどいなかったから、暇だな」

「うん。里奈も暇すぎてびっくりしてた」

「ん?」

 うわ!何?突然私の顔の真ん前まで、琥珀が顔を持ってきて覗き込んできたけど。


「どこか変わったな」

「私?え?わかる?ちょっと暇すぎて、里奈が眉毛とか整えてくれたんだ。どう?」

「…似合わん。今までのほうがいい。化粧もしているのか」

「少しだけだよ」

「なんで口が赤いんだ」


「口紅だってば。いつもはリップだけど、今日は里奈の口紅塗ってみたの」

「似合わん」

「何度も言わないでよ。私にはこういうのがまだ早いってこと?」

 いきなり琥珀は私の顎を持って、じっと私を見てきた。


 な、な、なに?まさか、キスとか?え?なんで?

「い、いたたた」

 キスじゃなかった。琥珀は自分の懐から手ぬぐいを出し、私の口をゴシゴシと拭きだした。

「ひどい、何するのよ!」

「似合わないことをするな」

「だからって、拭きとることないじゃない!痛かったよ」


 なんか、泣きそう。そんなにも変だった?鏡見たけど、そこまでひどくないと思うのに。いつもより赤いけど、そこまで真っ赤じゃないと思うし。そこまで厚化粧じゃないじゃないよ。


「美鈴は目立つことをしちゃだめだ」

「…なんで?化粧が目立つってことなの?私、化粧したって平々凡々な顔をしているから目立つわけないじゃないよ」

「はあ?本気で言っているのか」

「本気だよ。私の顔なんて、1回見ただけじゃ覚えてもらえないくらい、どこにでもいる普通な顔なの!」


「美鈴、それは龍神の加護がついているからだ」

「何それ。なんの関係があるのよ」

「目立たないよう、誰かに見られてもすぐに忘れられるように、龍神の力で抑えている」

「なんで?なんでそんなこと龍神がするわけ?」

 まさか、今のうちに私の印象を薄くして、この世から去っても誰にも気づかれないようにとか?


「美鈴は霊力が強いからな。それを抑えているんだ」

「霊力?!」

 なんだ?思ってもみないようなことを言われたぞ。どういうこと?何よ、霊力って。

「美鈴は生まれつき、他のものより霊力が強い。エネルギーも高い」

「高い?」


「神門家の人間は、みな霊力が普通の人間よりもあるが、特に龍神の嫁に選ばれた美鈴はその力が圧倒的に強くて高いんだ」

「私が?!え?私、霊感なんてないけど?幽霊見たこともないし、直感もないし、透視とかもできないし、物覚えも悪いし、スポーツも勉強もいまいちだし」

「直感や、人外のものが見える力はもともと人一倍ある。それに、その霊力を他のものに知られると、それを横取りしようとする輩や、利用しようとする輩もいる」


「…横取り?利用はなんとなくわかるけど、横取りってできるの?私からその力を奪うとか?」

「そうだ。美鈴の霊力を自分のものにしようと企む低次元の妖もいるのだ」

「………まじ?」

 どうやって奪うの?とは怖くて聞けなかった。だって、もしかして喰われちゃうとかかもしれないし。


「だから、その力を封印するためにも、龍神の加護がついている。だから、今の美鈴は人外が見えないのだ」

「人ではないもの?幽霊とか、妖怪とか?」

「そうだ。もちろんそれだけじゃない。妖精とか、神使とか」

「紳士ってジェントルマン?え?関係ある?」


「そっちではない。神の使いだ」

 ああ、神の使いの神司。

「あ、狛犬とかもそう?」

「そうだな」

「……え?実際、目に見えないけど、狛犬とかいるの?」

「ああ。本当は美鈴は見えるのだ。その昔小さな頃は見えていた。龍神の加護がつき、力を封印されてから見えなくなっただけだ」


「……そうなんだ。そっか。子どもの頃、犬だか、狐だか、タヌキだか、そのへんと遊んだ記憶があって、でも犬なんて飼ったこともないし、山にいるタヌキでも遊びに来たのかと思っていたんだけど」

「ああ、タヌキや野ウサギとも遊んでいた。動物とも会話ができるし、動物に好かれるからな」

「え?!そうなの?!」

「だが、境内で遊んでいたとしたら、それは狛犬だな」


「狛犬と遊んでいたの?あんな固い石と?」

「あほか。あれは単なる石像だ。実際の狛犬はもっとふさふさと柔らかい」

「え~~!そうなの?会ってみたい!」

「はははは。そうか。会ってみたいのか」

 いきなり笑い出した。


「とにかく」

と、突然琥珀はまた無表情に戻ると話を続けた。

「目立たないようにわざとしているんだ。そんな化粧などするな。男が言い寄ってきたらどうするんだ。修司だって、もっと迫ってくるかもしれないんだぞ」

「それは困る」

「じゃあ、もうそんな化粧なんかするなよ。わかったか」

「う、うん。わかった」


「素直だな。いつもそうだと美鈴も可愛いんだけどな」

「可愛い?私が?」

 ドキ。そうなの?じゃあ、いつも素直になればいい?!

「さて、もう4時だ。もう参拝客も来ないだろ」

 琥珀はそう言って社務所を出て行った。


 うわ~~。ドキドキした。私、可愛いのかな。本気にしていいかな。だったら、本当にいつも素直でいるんだけどな。


 ああ、琥珀の言葉に一喜一憂していて、ドキドキしたり落ち込んだり、恋ってなんで心が忙しいんだ。

「は~~~~~」

 琥珀は私がすっぴんでもいいってこと?化粧とかしないでも、素直でいるのが一番なのかな。


 いつかちゃんとこの気持ちも告白できるのかな。琥珀を好きだって、そう告げる日が来るのかな。そうしたら、どうするのかな。



「美鈴は龍神の嫁になるのだ。俺とは結婚できない」

「え?琥珀、本気で言ってるの?私、龍神の嫁になんてならないよ」

「龍神の怒りをかうぞ。ここいら一帯が焼け野原になるのだ。大事な人の命も失うかもしれない。それでもいいのか?」

「大事な人の?」


「家族や友達の命より、自分を取るのか?美鈴」

「琥珀。だって私は琥珀が好きなの。自分を犠牲になんて出来ないよ」

「両親や兄弟、おじいさんやおばあさん、ひいばあさんの命をないがしろにするのか」

「違うよ。そんな両天秤にかけられないよ。どっちを取るか選ぶなんて出来ないよ」


 私は泣きながら目を覚ました。


「夢、夢だったのか」

 良かったと思いきり胸をなでおろした。でも、なぜかそのあと、涙がどんどんあふれてきた。

 琥珀に告白して、もし、今見た夢みたいなことを琥珀に言われたらどうしたらいいの?


 自分を犠牲にするなんてナンセンスだと思っていた。だけど、もし私が龍神の嫁になることを拒んで、家族のみんなが火事にあって、逃げ遅れでもしたらどうなるの?


 私のせいで、大事な人の命を奪うことになったら…。そんなの耐えられないよ。


 涙は止まらなかった。実際に琥珀に言われたわけでもないし、本当に龍神がいるかもわからないのに。


 だけど、琥珀は私が龍神の嫁になると本気で言っているみたいだった。それに、龍神の加護がついているって、本気でそんなことも言っていた。


 それに、そういうことになぜかとっても詳しい。

 それなのに、琥珀に、私は琥珀が好きなんですなんて、そんなこと告げられないよ。


 どうしよう。どうしたらいいの?こんなこと誰に相談したらいいの?ひいおばあちゃん?里奈?


 里奈になんて言えるわけないね。だって、龍神の嫁になる話なんてまともに聞いてくれるわけないだろうし。だからって、ひいおばあちゃんに琥珀のことを言ったら、狐に騙されているとか言いそうだ。


 ああ。どうしたらいいんだろう。




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