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第12話 里奈がライバルになるかも?

「美鈴ちゃんの友達かな?初めまして」

 すっごくわざとらしいくらいの笑顔で修司さんがやってきた。

「初めまして!」

 真由と里奈が元気にそう答えると、

「紹介してよ、美鈴ちゃん」

と修司さんはにこやかに私に聞いてきた。


 え、嫌だ。修司さんに二人を紹介したくない。今後二人にも近づいてほしくない。そう思い黙っていると、

「私が真由で、こっちが里奈です」

と真由が勝手に紹介をしてしまった。それも真由、目が輝いている。

「真由ちゃんと里奈ちゃんね。可愛いね」

 やばい。目を付けられちゃう。


「修司さんって美鈴の従兄なんですよね?今、神主さんの修業中なんですか?」

「ううん。もう神主だよ」

 うわわ。真由ったら勝手にベラベラ話しかけて!

「あ、じゃあ二人とも、そろそろバス来ちゃうかもしれないし、帰った方がいいよ」

 私は無理やり二人の背中を押して、私は二人を追い返した。真由は、まだバスの時間には間に合うとブーブー言っていたが、

「私も修司さんも仕事が忙しくなるから。じゃあね」

と鳥居まで背中を押し続けた。


 仕方なく二人は帰って行った。修司さんもここまでは追ってこなかったようだ。


 里奈が巫女として働くのか。多分里奈は修司さんみたいなナンパは嫌いだから、修司さんに言い寄られてもはねのけると思う。ただ、琥珀のことを気に入っているから、そっちのほうが心配だ。

 真由はそうそう神社に足を運ぶ感じでもないし、修司さんに会うこともないだろうから大丈夫かな。


 翌朝、里奈が琥珀を本気で好きになったりしないか、そんなことを考え、モヤモヤしながら掃除をしていた。そこに琥珀がいつものようにどこからともなく現れ、

「今日は雨でも降りそうな天気だな」

と突然話しかけてきた。


「うわ!びっくりした。いつもいきなり現れるのやめて。すんごいびっくりする」

 そう言うと琥珀は口元を緩め、

「わざと驚かせているのだ。目をまん丸くして驚いた顔が面白いからな」

と、また憎らしいことを言い出した。


「琥珀って悪趣味」

「悪趣味?」

「そうだよ。意地悪なことを言うのは、どうせ、私の怒った顔が面白いからとかでしょ?」

「ああ、そうだ。むくれた顔も面白いからな」

「絶対悪趣味!意地悪して喜ぶなんて!」

「ははは」


 笑った!たまに声を出して笑うと、八重歯が見えて、目が細くなって、可愛いんだよね。

 あ~~、私のは何?琥珀の笑った顔が見れて喜ぶっていうのは、琥珀みたいな悪趣味とは違うよね。

 きっと、いつもムスッとしているから、たまに笑った顔が見たくなるんだよね。


 あれ?じゃあ、私もいつも怒った顔していたら、琥珀は私の笑顔が見たいとか思うのかな。

 う~~~~ん。琥珀の場合は、笑った顔は見たいとかは思わないか~~。何しろ、意地悪いから。


「ねえ、琥珀」

 空を眺めている琥珀に少し近づき、

「今日から私の友達がバイトで来るんだけど」

と話しかけた。そこまで話しかけて、あとが続かなくなった。


 私、何を言おうとしてた?美人だけど、好きにならないでねとか?あんまり里奈に可愛い笑顔を見せないで…とか?

 うわ~~~~。何それ!うわ~~~~。そんなこと言えるわけないじゃない。私、何様?彼女でもないんだし!!


「その友達にも言っておけ。あまり修司と関わるなと」

「え!?」

 なんて言った?今…。修司?

「あいつは危ない。まあ、俺が一応見張っておくが、用心しろと言っておけよ」

「見張る?」

「友達に修司がちょっかいださないようにだ」


「あ、ありがとう。そうだよね。私も見張るよ。修司さん、本当に見境なく女にちょっかいだすし。それも里奈、奇麗だから昨日も声かけられていたし」

「なんだ。もう修司にターゲットにされたのか」

「ターゲット?」

「それは気をつけないとな」


「……琥珀も会ったよね。昨日…」

「ああ」

「里奈、美人でしょ?美人なのに全然飾り気がなくて、女の子の友達も多くって」

「そういえば、もう一人のほうが、厚化粧で臭かったな」

「真由のこと?」


「ああいう女は好かん」

 ドキ。じゃあ、里奈は?ど、どうする?聞く?でも、好みだとか言われても困るし。

「り、里奈は清楚って感じじゃないよ。けっこう男勝りで、スポーツ万能で。だから、琥珀の好みのタイプとは違うよ」

 はれ?なんだってこんなこと言ってるの?私。牽制かけるみたいな…。


「今の時代、清楚な女などそうそういないのかもしれないなあ」

 ボソッとそう琥珀は言うと、なぜか顔をかしげて私の顔を見た。

「な、なに?」

 まだじっと私を見ている。


「俺の好みの女性じゃないから、どうだと言うのだ?」

 ギク!

「えっと、それはだから、あんまり期待するとがっかりするかもよ?って」

「わけらからん。なんで期待などしないとならない?それより、修司は若い女なら誰でもいいんだろうから、気を付けさせろ」

「う、うん。わかってる」


 琥珀はそのままお社の方へ向かって歩き出した。私は掃除を再開した。

 でも、頭の中ではいろんな思いが巡っていた。それも、どうしようもないことばかりが。


 ため息をつき、なんとか掃除を終わらせて社務所に行った。するとお母さんが一人で、あれこれ忙しそうに準備をして、

「美鈴、遅いわよ。壬生さんがいない分早く来て手伝ってくれないと困るでしょ」

と怒られた。ああ、お母さんは口を開けば小言を言う。


「はいはい」

「はいは一回でいい!」

「はいはいはいはい」

 ちきしょう。なんなら1万回言いましょうか?


 ブッ!

「面白いなあ、美鈴は」

「あれ?!琥珀?お社に行ったんじゃないの?」

「こっちの手伝いに来た」

 いつの間にか社務所に琥珀が来ていた。

「悪いわね、琥珀君、助かるわ。じゃ、私、まだ他の用事があるから琥珀君に任せていいかしら」


「大丈夫だ」

「じゃあ、美鈴、ちゃんと仕事しなさいよね!わかった?」

「は~~~~~い」

「はいは短く!」

「は~~~~~~~~~~~~~~いっ!」

 チッ!「はい」は一回でと言うから、1回にしたんじゃないよ。いちいちうるさいよ。


 お母さんの後ろ姿にあかんべをしてから、琥珀を見ると、くくくと笑っていた。

「なんで笑ってるの?」

「なんでって、そりゃ美鈴が面白いからだ」

「面白くもないでしょ。それよりお母さん、いっつもああやって小言ばっかり言うの」

「面白いなあ。くっくっく」

 まだ笑ってる。


「お母さんが面白いの?」

「美鈴だ。本当にお前は、いまだに子どもだなあ」

 グサッ!

「ど、どうせね。なかなか大人になれませんよ」

「プッ」

 なんなの?笑った顔が好きだけど、こんなふうに笑われているとバカにされている気がしてくる。


「その膨れたほっぺたが面白いよなあ」

 もう~~~~!琥珀にはなんでも面白く見えちゃうわけ?!

「おはようございます」

 社務所の窓から里奈が顔をのぞかせた。うそ。もう来ちゃった。それも、琥珀がいる時に!


「お、おはよう、里奈。早いね。まだ9時半だよ」

「うん。ちょっと早くに来て仕事をちゃんと教えてもらおうと思って」

 そうだった。里奈は時間ギリギリに来ることはなかったんだった。それも、きっと朝からわくわくして、いてもたってもいられず、早くに出てきちゃったっていうパターンだな。


「あ、社務所の横っちょに引き戸があるから、そこから入ってきて」

「うん」

 里奈は私ではなく琥珀の顔を見ながらにっこりと頷いてから、あっという間にガラリと引き戸を開けて入ってきた。かなり急いだようだけど、まだ時間ならたっぷりあるんだけどなあ。


「お邪魔します」

「じゃあ、里奈。まず着替えてもらおうかな。裏に更衣室があるの」

「わあ。巫女の衣装着てみたかったんだよねえ。でも、一人で着れそうもないんだけど」

「教えるね。あ、琥珀、その間参拝客が来たらよろしくね」

 琥珀は何も言わずに頷いた。


 私も一緒に里奈と更衣室に入った。里奈は明らかにテンションが上がっている。

「琥珀さん、素敵だよねえ。あのクールなところが最高。だけど、さっき笑ってなかった?私が来た時、美鈴と笑って話してたでしょ」

 見られたか!!

「やっぱり、笑うよりクールにしているほうがかっこいいよね」

 え?そうなの?笑った顔が可愛いとは思わないの?そうなんだ。


 里奈は着替えながらもベラベラとしゃべっていた。でも、着替えが済むと自分の姿を姿見に映し、

「わあ。コスプレでもしているみたいで楽しい!」

と一回り回ってはしゃいでいる。

 はあ。美人さんだから、巫女の恰好もめっちゃ似合う。こりゃ、若い男の参拝客が来たら大変だ。


 いや、なかなか若い男の参拝客は来ないか。来てもカップルばっかりだし。

 あ、やばい。修司さんが狙うよね。って、それより、こんな姿を見たら、琥珀だって見とれちゃうかも…。


 そんなことをモヤモヤと考えつつ、里奈と一緒に更衣室を出て、

「じゃあ、仕事を教えるね」

と、琥珀のもとに戻った。まだ参拝客は誰も来ていないようだった。今日は天気も悪くなりそうだから、あんまり来ないかもしれないなあ。


「琥珀さん、どうですか?似合います?」

 里奈は琥珀の前でも、一回りくるっと回って見せた。

「……」

 ん?琥珀、無言?!無表情のままだけど。なんで?


「えっと…。似合っていないですか?」

 不安そうに里奈がそう聞くと、

「ああ、別に、いいんじゃないのか」

と、とっても適当な感じで琥珀は答えた。そのあと、なぜか困惑したように眉をしかめ、

「今日は参拝者も少なそうだから、俺はいなくてもいいな」

と、さっさと社務所を出て行ってしまった。


「美鈴、クールなんじゃなくって、もしかして私、嫌われているの?」

 里奈が顔面蒼白で聞いてきた。ああ、里奈に対して男性ってみんな優しいから、あの塩対応はきつかったのかな。

「違うと思う。誰にでも愛想ないし、言ったでしょ、性格悪くて意地悪だって。無表情はいつものことだから」


「それなのに、美鈴は好きなわけ?もしかして、ドM?」

「え?!違うよ!」

 そういうことで、好きになったわけじゃないもん。なんだかわからないけど、意地悪なこと言うけど、安心できて、それにドキドキしちゃうんだもん。


「顔はいいけど、いつもあんなふうに冷たいと、私、堪えちゃうなあ。今まで周りにいないタイプだから興味持ったけど」

「興味持ったの?!」

「あ、別に好きとかそういうことじゃなくて」

 嘘だ。じゃあ、どういう興味よ?


「もし、それで好きになっていたらどうしていたの?」

 思わずそんなことを聞いてしまった。

「美鈴とはライバルになるね」

 え~~~!

「でも、今のところ好きになりそうもないから安心して」


「好きになる可能性もあるってこと?」

「う~~~ん。これから、琥珀さんのことを知っていって、好きになる可能性はあるよね」

「私が好きな人なのに?」

「そんなの関係ないよ。誰かが好きだから、私が諦めないとならないっていうのはおかしいでしょ?」

 里奈はそんなやつじゃないと思ってた。男より女友達をとる人だと思っていたもん。


 でも、そうじゃなかったんだ。私は別に彼氏もいなかったから、里奈と男関係でもつれることはなかったけど、そう言えば、クラスメイトで里奈に男を取られたって、里奈を嫌っている子がいたっけ。そんなの、勝手に男のほうが里奈を好きになったんだからしょうがないじゃんって、私も真由と話していたっけ。


 だけど、琥珀が里奈を好きになっちゃったら、しょうがないじゃんで済まされないよ。里奈のせいにするかどうかはわからないけれど、だけど、少なくとも里奈がここでバイトしなければこんなことにはならなかったって、それは絶対に思うよ。


 やばい。里奈は親友だと思っていたのに、そんな関係すぐに壊れそうだ。琥珀と里奈が付き合いだしたら、私、それを祝福したり、見守ることなんてできない。


 う~~わ~~~。これが男が絡んだ時の女友達のもつれなのか。いや、まだ、里奈が琥珀を好きになっていないんだから、もつれてもいないんだけどさ。


 悶々としていると、

「ねえ、さっさと仕事教えてよ」

と、里奈は平然と言ってきた。ああ、里奈のこういうサッパリしたところが前は好きだったんだけどなあ。今は、こんな状況なのになんでそんなにあっさりしているの?とか思っちゃうよ。


「おはよう、里奈ちゃん!」

 そんな時に、修司さんがやってきた。やばい。修司さんからは絶対に守らなくちゃ。

「今から仕事を教えるんです。邪魔だから修司さんは出てってもらえますか?」

「なんで?せっかく新しい巫女さんと仲良くなろうと思ったのに」

「仲良くならなくてもいいです。修司さんには壬生さんがいるじゃないですか」


「壬生ちゃんは彼女でもなんでもないよ」

「デートしたくせに」

「そんなの、友達とだって遊びに行くでしょ。ねえ?里奈ちゃん」

「え?あ、はい。でも、私は行かないですよ。男友達と遊ぶより、女友達と遊ぶ方が楽しいし」

「僕はその辺の男と違うよ。絶対に楽しい思いさせるけど?」


 修司さんは里奈の近くに来て、そう言うとほほ笑んだ。やばい。阻止!

「いいから、修司さんは出てってください」

 そう言って、修司さんの背中を両手で押した。すると、なぜかわからないけど、クラっと眩暈がした。

「じゃあ、またあとでね、お昼にでもね」

 修司さんは里奈にそう言ってウィンクすると、ようやく出て行った。


「あれ?」

 なんだか、まだふらつく。

「どうしたの?美鈴」

「あ、ちょっと立ち眩み」

「大丈夫?どうした?貧血?」


「わかんないけど」

「今、生理中?」

「ううん。違う。ごめん、椅子に座って仕事説明するね」

 椅子に腰かけ、里奈に仕事を教えていった。なんとか椅子に腰かけている間は大丈夫だった。でも、立ち上がるとまだふらついた。


 なんなんだろう、これ…。



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