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第11話 里奈と真由が来る

 翌朝、修司さんは元気はつらつの顔で朝食を食べていた。昨日は遅くに帰ってきたようで、お母さんが文句を言っていた。合鍵を持っていないから、帰ってきて鍵を開けてあげるのは1階に寝ている誰かになるが、おばあちゃんやおじいちゃんは寝るのが早いから、結局お母さんが開けることになる。


「修司君、もう少し早くに帰ってきてれない?帰ってくるまで起きて待っていないとならないんですからね!」

「はい、気を付けます」

 修司さんはそう言ったが、顔は全然反省していない。

「だったら、どこかアパートに部屋でも借りて、通ってくればいい。こっちも迷惑かけられないで済むし、修司君も遅くまで遊んでも文句を言われないよ。まあ、翌日ちゃんと仕事をするという条件付きだけどね」


 悠人お兄さんが、クールにそう言った。人が良くていつも優しいお兄さんにしてはめずらしい塩対応だなあ。

「これからは気を付けますって言いましたよね?」

 あ、修司さんの顔色も変わった。


 琥珀はこんな時、まったく我関せずって顔なんだよねえ。黙々とさっきからご飯を食べている。そしてお箸を置くと、

「修司とやら。随分と今朝は顔の血色がいいな」

と唐突にそんなことを言い出した。


「そうねえ、髪の艶も出たんじゃない?」

 お母さんの言葉に修司さんは笑いながら、

「たまの息抜きは必要ってことですね」

と、そんなことを言って、すぐに立ち上がりその場を去った。


「壬生さんとデートだったんでしょ?よほど、女の子とデートするのが嬉しかったのかしらね」

「女好きそうだからの」

 お母さんの言葉に、ひいおばあちゃんはそう答え、漬物をバリバリと食べだした。


「さてと、トイレにでも入るか」

 ああ、お父さん、それをわざわざみんなの前で報告しないでも黙っていけばいいのに…。

 私は心の中でそうつぶやきながら、お茶をすすっていた。なぜか食べ終わったのに琥珀は隣に座っている。いつの間にか琥珀の座る場所は私の隣に決まったようで、毎回隣にいる。


 それが私には嬉しい。ちらっと琥珀を見た。すると、

「美鈴、修司には気をつけろ」

と耳打ちされた。

 ドキ。顔が近づいて、びっくりしたと同時に心臓が早くなった。顔も赤いかもしれない。


 それを目の前に座っている修司お兄さんに見られてしまった。うわ。顔が赤いのばれたかな。

「琥珀君、僕も気を付けて見るようにするけれど、君も修司君が美鈴に近づかないよう、見ていてくれないか」

 あれ?なんだ。悠人お兄さん、私の顔が赤いことなんて気にしていないわけね。


「悠人は、そこまで修司君のこと敵対しないでも…。従弟なのよ?」

「関係ないよ。どうしても僕は、修司君のことが気にくわない。神主の仕事だって適当だし、本気で神主としてやっていく気があるかもわからない」

「わかった、ちゃんと美鈴のことは俺が守る。だから、安心しろ、悠人」

 クールに、でもすごく真剣な目で琥珀がそう言った。


「あら…」

 その言葉にお母さんが一番驚いていた。もしかして、琥珀を見直してくれたとか?

 もうお母さんも、私と修司さんをくっつけようなんて思わないよね?琥珀のほうがいいって思ってくれたよね?


 朝食が終わり、境内を掃除していると、修司さんがニコニコ顔でやってきた。

「美鈴ちゃん、今度の休みはデートしようよ」

「また、壬生さんとデートしてください。壬生さんとお付き合いもしたらどうですか?なんなら、そのまま結婚しちゃってもいいですよ」

「壬生ちゃんと?それはないなあ。僕が結婚したいのは美鈴ちゃんだから」


「修司!」

 いつの間にか琥珀が、修司さんの後ろにいた。

「美鈴に手を出すな」

「……面白いことを言うね。美鈴ちゃんは別に君のものでもないんだし、僕とデートしようが結婚しようが関係ないと思うけど?」

「関係ある。美鈴は龍神の嫁になる女だ」


「ははははは。本気でそれ言ってるの?そんなこと信じてるわけ?で、それと琥珀がどう関係しているんだ?」

「龍神の嫁に手を出そうとしてみろ。龍神の怒りをかうぞ」

「へ~~。どんな怒りなんだろうな?楽しみだね。まあ、何も出来ないと思うけどね?」

 嫌味ったらしく修司さんは笑うと、お社のほうに歩いて行った。


「琥珀…」

 すぐに琥珀の近くに駆け寄った。

「あいつ、美鈴と結婚するだなんてとんでもないことを言い出したな」

「この前も言ってたよ。それで、この神社を継ぐんだって」

「そんなことを修司が?」

「うん」


「この神社を継ぐのは悠人だ。悠人だから許したんだ。修司が継げるわけがない」

「許すって誰が?あ、お父さんとか、おじいちゃんとか?」

「龍神だ。龍神の意志により、次にこの神社を継ぐ者が決まるんだ」

「え?長男じゃないの?」

「長男だ。長男として生まれるものは、ちゃんとこの神社を継げるように受け継がれて生まれるんだ」


「受け継がれる?何を?」

「血。細胞。資質。すべてだ」

「だから、悠人お兄さんはあんなに真面目なの?」

「そうだ。美鈴の父親もそうだろう?」

「うん。そのことも、琥珀のお父さんが教えてくれたの?」


「そうだ」

「琥珀のお父さん、物知りというか、この神社のことに詳しいんだね」

「ああ、詳しい」

「下手すりゃうちのお父さんより詳しいかも」

「そうかもな」


 ああ、困った。琥珀の声も顔もクールそのものだし、口数も多い方じゃないし、言い方はぶっきらぼうだし。それなのに、話していると胸が弾んでしまう。私、にやけていないよね。


 今日は琥珀も嫌味を言わない。嬉しいなあ。

 でも、何かが引っ掛かったような…。


 あ、龍神の嫁に手を出すとっていう言葉だ。それ、琥珀もっていうこと?私がもしかしたら龍神の許嫁だから、私のことを好きになったりしない?付き合うことも結婚もなしってこと?


 うわ。浮かれていたのに、一気に沈んだ~~~。


 と、沈み込んだ時にお母さんが私を呼びに来た。こんな時に何?またお小言?

「美鈴、今日壬生さん具合が悪くて休むって。3日くらいお休みしたいんだって」

「え?壬生さんが?」

「まったく、昨日修司君が遅くまで連れまわしたんじゃないの?まさか、未成年の壬生さんにお酒飲ませたのかしら」


「壬生って、あの臭い巫女か?」

「臭いって…。まあ、そうね。香水臭いから、私も注意したのよね。でも、これはコロンで、香水じゃないですとか言って、やめてくれなくって」

「休みなのか?」

「そうよ。今日は土曜日だから参拝客多いかもしれないし、壬生さん一人かけても大変なんだから、美鈴頑張ってちょうだいよ」

「じゃあ、俺も手伝おう」

「琥珀君が?助かるわ」

 お母さんはそう言ってから、私に「掃除を早く済ませてよ」ときつく言い、社務所に戻っていった。


「もう~~。修司さんがきっと1日引っ張りまわしたんだよ。それで疲れちゃったんだ。壬生さんも壬生さんだよ」

 ぶつぶつ言いながら掃き掃除を再開すると、

「あいつは元気そうだったな」

と琥珀はぼそっと呟き、お社の方へと行ってしまった。


 私が社務所に行ってすぐに琥珀もやってきた。午前中のほうが参拝客が多い。10時からバイトの子が二人入ってくれるけど、早くから参拝客がやってきてしまった。

 だけど、琥珀がテキパキとこなしていってくれるから、私はそんなに忙しい思いもしないですんだ。琥珀って案外頼れるんだなあ。やっぱり、神主修業中の身で、社務所での仕事もしていたんじゃない?


 10時ちょっと前、バイトの二人がやってきた。バイトの一人は今年高校3年の真面目な女の子、亘理わたりさん。眼鏡をかけていて、とにかく真面目。琥珀に会ってもペコリとお辞儀をしただけで、一切無駄話をしない。いつも仕事だけこなして、私語も慎み、2時にはさっさと帰っていく。


 もう一人のバイトの子は今年大学2年生。彼氏持ちの八乙女やおとめさん。アニメやゲームが好きで、コスプレにもハマっている。彼氏も同じようにコスプレが好きらしい。巫女のバイトをし始めたきっかけも、巫女の恰好を彼氏が喜ぶからという、なかなか不純な動機。でも、けっこう真面目に働いてくれていて、1年以上も続いている。


 修司さんのことが心配だったけれど、亘理さんは何を言われてもスルーしていたし、八乙女さんも修司さんのようなチャラい男が嫌いらしく、(何しろ彼氏はかなり真面目な人だから)言い寄られてもうざいと言って、遠ざけていた。さすがの修司さんもそこまで無視されたり、うざがられると近づけないようだ。


 お昼は琥珀と分かれることとなった。2時に帰る亘理さんは昼休憩を取らない。琥珀と亘理さんを残して、私は12時に八乙女さんと昼休憩を取った。多分、修司さんは13時になるとふんだのだが、甘かった。


「あ、美鈴ちゃん。今日は一緒にお昼食べられるね」

「私の隣は琥珀の場所です」

 隣に座りそうになったからそう言うと、

「いいじゃない、琥珀来ないんでしょ?」

と、勝手に座り込んだ。


 それにしても、私も亘理さんや八乙女さんと同じように修司さんを邪険に扱っているのに、なんだって私にはしつこく絡んでくるのかなあ。


「ちょっと修司君、困るわよ。壬生さんのこと遅くまで引っ張りまわしたんじゃない?」

 お母さんは自分の場所に座るや否や、修司さんを責めだした。

「え?そんなことしていないですよ?なぜですか?」

「とぼけないで。壬生さん、具合悪いって、ぐったりした声で電話してきたの。3日くらい休むって。すぐには回復しそうにないって言ってたわよ」


「あれ?そうなんですか?風邪でも引いたのかな?」

「別にデートするなとは言わないけど、次の日が仕事の時には、早めに帰らせてくれない?突然休まれるのが一番困るの。代わりはいないんだから」

「はいはい。気を付けますよ」

 ああ、まただ。反省の色が見えないよ。


「修司君、美鈴のことは連れ出さないでね。デートも誘ったりしないで頂戴ね」

 あ!お母さんも、ちゃんとそう言ってくれるんだ。よかった~~。

「……」

 お母さんの言葉に修司さんが何も答えず、黙ってご飯を食べだした。


 13時、社務所のほうに行くと、里奈と真由がすでに来ていた。そして、どうやら社務所にいる琥珀と話しているようだった。

「あ、美鈴!」

「里奈、真由、来てたんだ。ごめんね、昼休憩だったの」


 バタバタと、すごい速さで里奈が私のもとに駆けてくると、

「琥珀さん、めっちゃイケメンじゃん。想像以上だよ」

と、飛び跳ねた。その後ろから真由も小走りでやってきた。

「琥珀さん、イケメンだけど、目が怖い。いつもあんなふうに冷めた感じなの?」

 あれ?真由は里奈みたいな反応じゃないんだな。


「うん。いつもクール。時々笑うけど、あんまり笑わない」

「優しい人がいいって言ってたよね?」

「私?えっと、そうなんだけど、たまに優しいんだよね」

 あ、顔赤くなっているかも。なんだか照れる。


「ツンデレってやつ?いつも冷たい人がたまに優しくすると、好きになっちゃうよね」

 里奈がまたそう言いながら、飛び跳ねた。

「里奈、まさかと思うけど、横恋慕はダメだよ」

「目の保養だけだよ~~。ね、巫女のバイト募集していないの?休日だけなら来れるんだけど」


 そんな話の真っ最中にお母さんが声をかけてきた。

「里奈ちゃんと真由ちゃんよね?」

「あ!そうです。お久しぶりです」

「また、夏休みにでも泊まりに来てよ」

「はい、ぜひ。それからバイトとか募集していないですか?」


 里奈、マジでバイトする気?

「里奈ってば、新歓で忙しいんでしょ?それに、サークルも入るんでしょ?」

「そうだけど、新歓は夜だけだし、サークルもそんなにしょっちゅう出る気はないし。平日の夜とか、たまの土曜くらいで」

「そうなの?」


「バイトも探していたところだったんです!」

 里奈は元気にお母さんにそう訴えた。本当に里奈って行動的。思ったら即行動なんだよね。

「そう。よかったわ。今人が足りなくて、壬生さんに週6日も入ってもらっていたのよ。それに、しばらく壬生さんもお休みだし。いきなりで悪いんだけど、明日の午前中とか出られない?10時くらいから、午後の3時くらいまでは参拝客も多いのよね」

「あ、ちょうどその時間なら大丈夫です。用事があるのは夜からなんで」

「じゃあ、お願いね」

 うわあ。簡単に決まってしまった。どうしよう。絶対に琥珀狙いだよね?


「お参りしてから帰るから、美鈴、付き合って」

「え?私も?」

「いいじゃない、少しの間だけ。ね?」

 里奈と真由にそう言われ、社務所にいる琥珀にもう少しだけお昼休憩に入るのを後にしてもらった。琥珀はクールに、「別に構わない」とだけ言ってくれた。


「琥珀さん、私明日から巫女のバイトしますので、よろしくお願いしますね」

 横から里奈がそう言って、琥珀ににっこりとほほ笑んだ。ああ、里奈、ずるいよ。里奈の笑顔は破壊力があるんだもの。美人さんだから、その笑顔でほとんどの男がなびいちゃう。


 あ、でも、琥珀はクール。顔色も変わらないし、笑顔にすらならない。っていうか、うんともすんとも言わず、だから、どうしたっていう顔つきだ。


「ひょえ~~。返事もしなかったよ。あの人」

 真由は社務所から離れると、嫌そうな顔をした。真由にとっては嫌いなタイプなのか。

「かっこいいじゃない。変に女に愛想振りまいているよりずっといいよ」

 里奈がそんなことを言っている時、女に愛想振りまいている修司さんがお社からこっちにやってきた。


 あ~あ。まさかと思うけど、里奈や真由にまで言い寄ったりしないよね?



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