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鳩時計の裏っ側シリーズ

5.鳩時計の裏っ側

作者: 三の木

「1.鳩時計の裏っ側」からの続き物です。シリーズ一覧をご確認ください。

 


 今日も今日とて12回目の鳩の鳴き声ーーではない声で目が覚めてしまった。外がやけに賑やかーーというかアオ君の怒鳴り声が聞こえて来る。


「ゴラァ! このネズミ野郎がぁ! 起きやがれ!!」


 なんとアオ君から僕に用があるらしい。ぐっと伸びをしてあくびをひとつ。チョッキに着替えると、のそのそと歯車の隙間を登り鳩に挨拶をする。アオ君のことも詫びて扉を開けた。そこには鳩時計に向かって牙を剥き出しているアオ君がいた。


「どうしたんだい、アオ君? 君から僕に用なんて珍しいじゃないか?」

「ごちゃごちゃ話してる暇はねぇ! 小娘がやばい!」

「なんだと?」


 切羽詰まった様子でミオお嬢さんのがやばいと言う。これはただ事ではないと急いでアオ君のところへ行く。頭にかぶらされた赤と白のボンネットをからかう暇もない。


「ミオお嬢さんがどうかしたのかね?」

「説明は苦手だ! 乗れ!」


 アオ君がなんと背中を差し出してきた。驚きで思わず固まってしまったが、再び急かされてその背中に飛び乗る。


「振り落とされんなよ!」


 そう言うと、アオ君は飛ぶように走り出し階段を駆け上がって開いたままになっていた扉の中に入った。


 そこはミオお嬢さんの部屋だった。そのままミオお嬢さんのベッドの上に飛び乗る。


「ミオお嬢さん!!」


 思わず名前を呼ぶ。ミオお嬢さんはベッドで顔を真っ赤にして苦しそうにしていた。


「なんかやべぇだろ?! 朝までは平気だったんだが、さっきからこの様子だ!」

「ご両親は?」

「父親は仕事! 母親はちょっと出るっつって帰ってこねぇ!」

「ふむ」


 アオ君の背中から降りてミオお嬢さんの額に触れる。


「熱い……。かなり熱がある……」

「それはやべぇのか?!」

「良くはないね。とにかく冷やしてあげよう。アオ君手伝ってくれ」


 アオ君の背中に乗って1階へ降りる。


 取り込まれた洗濯物の中からハンカチを拝借し、キッチンのシンクまで運んで水で濡らす。2人でハンカチを畳み、端を持ってひねる。余分な水分が絞られると、それをアオ君の背中に乗せてミオお嬢さんのところへ。


「本当は氷があればいいのだが」


 流石に冷蔵庫は開けられない。ミオお嬢さんの額に濡れたハンカチを置く。


 すると、ミオお嬢さんと目が合った。


「起きていたのかい、ミオお嬢さん。気分はどうだ?」

「ありがとう。気持ちいい」

「すぐに母上を探してこよう」

「うん……。アオも、ありがとう」


 所在なさげに視線を彷徨わせていたアオ君にもお礼を言うミオお嬢さんは健気だ。アオくんは「うるせぇ!」なんて返していたが、素直じゃない。


「さあ、アオ君。母上を探すぞ」

「どうやって?」

「ここは2階。遠くまで見渡せる。窓まで運んでくれ」


 アオ君の背に乗って窓から外を眺める。果たして母上は家の前にいた。ただし、もうひとりのレディとなにやら話し込んでいる様子だ。


「あんなところでなにしてやがる!」

「井戸端会議というやつだな」

「んだそりゃ!?」

「世のレディたちはああやって情報を集めるのさ」


 隣でアオ君が喚いているが、ここから聞こえるはずがない。


「アオ君、鍵を開けよう。ここから母上のところまで行けるかい?」

「屋根をつたって行けばなんとかなる!」

「よし。鍵は僕が開けよう。アオ君、君の背中を借りるよ」


 アオ君の背中に乗り、半円形の鍵の上部を掴む。腰を落として全体重を乗せながら下へ思い切り引いた。


 ガチャリと音を立てて鍵が開く。アオ君がすかさず、肉球で窓を押さえてスライドさせる。窓が開いた。アオ君の背から飛び降りると叫んだ。


「行け!」

「任せろ!」


 アオ君は屋根に飛び移り、木に乗り移り、塀をつたい、母上の足元へ飛び降りた。流石の身体能力だ。


 アオ君に気づいた母上が驚いている。アオ君は母上のスカートをくわえ、必死に家の方へ引っ張った。


 しばし抵抗していた母上だったが、アオ君の勢いに負けた様子で話し込んでいたレディに別れを告げた。


「よし、母上が帰ってくる」


 すばやく部屋の片隅に身を隠す。ややあって、階段を登ってくる足音が聞こえてきた。


「ミオ?!」


 母上が慌ててミオお嬢さんに駆け寄る。


「おい、お前は親に見つかったらやべぇんだろ?」


 母上がミオお嬢さんに手をとられている間に、アオ君が僕を見つけて背を差し出してきた。


「乗れ。1階まで降ろす」

「助かるよ。まさか君がここまで気の利くネコだったとは思わなかった」

「うるせぇ、今回は特別だ」


 アオ君の背中に乗り、1階へ。


「ここからは帰れるだろ」

「ああ。ありがとう」


 アオ君の背から降り、感謝のハグを前足にする。速攻で蹴りが返ってきたが、当然予測していたので躱すのは容易い。


「ミオお嬢さんの容体はまた夜に教えてくれ」

「わかった」


 アオ君はそれだけ言うとさっと背を向けた。ミオお嬢さんの部屋に戻るのだろう。


 その日の夜、鳩が鳴く前に扉から顔を出すとアオ君が待ち構えていた。


「小娘は大丈夫だ!」

「それは良かった!」


 話は終わりとばかりにアオ君が去っていく。僕も鳩時計の中に戻った。徹夜だったため、さすがに眠い。


 ミオお嬢さんの危機ではあったが、泥棒事件以来の協力プレイは悪くなかった。


 さあ、今日はゆっくり休もう。




 おわり





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