探し物を求めて。その3・・・竜の火酒 前編
ここからしばらく、アレンがいないので語り部がリルムに変わります。
セニア&リルムside
アレンとミチルがサルトベルクに向かったのとほぼ同刻。
リルム&セニアチームはライルエル家でラルバに事情を説明し、
協力を要請していた。
「・・・うん、リルム、話は分かった。ローシュ家にも話はしてみるよ」
「ありがとうございます」
「だがな、かなりの短期間で目当ての物が手に入るかは判らんぞ」
「確かに」
「色々他にもツテを当たってはみるが確約は出来んな」
「それでも仕方ないですし」
「よし、急ごう、今からローシュに行く。アポイントメント無しだから難しいかもしれんが」
父は丁度在宅であり、仕事中でもなかったようで、話もスムーズだったが、
ローシュ家にもこう上手く伝わるかはわからない。
何せ四大貴族中、一番力を持っている上、
貿易の公正性を保つため、他の貴族達との交流も最低限だもの。
私ですら、公に会うイベント以外でローシュ家の当主には会ったことがないし。
最後に会ったのは、ローシュ家で行われた前当主のお葬式だったかしら。
今のところ、ローシュがライルエルのお願いを聞いてくれる義理も義務もないのよね。
ローシュ家はライルエル家から南にメイン通りを抜けた反対側にある。
ローシュ家から南はちょっと怪しい商店もある危ないところ。
逆に言えば、ローシュ家は、そういう場所の管轄もしていることになる。
それだけ力があるのだ。
そっちは家でも行くのは禁じられている。
セニアとアレンには、サキと探索してもらった1日目にそんな説明をした気がする。
最悪、そこに足を踏み入れれば、所望の竜の火酒が手にはいるかもしれない。
だけでそれなりのリスクは負う可能性が高いわね。
『コンコン』
父が先頭となり、ローシュ家のドアノックを叩いた。
反応があるまでの沈黙が重い。
「はい、どちら様でしょうか?」
「ラルバ・ライルエルだ。ローシュ家当主、クリス殿にお目通り願いたい」
「これは、ライルエル様。よくいらっしゃいました。ご主人様ですか、アポイントメントはありますでしょうか?」
「いや、緊急ゆえ、約束はしていない」
「そうですか、確認して参ります。しばし中でお待ちを」
大広間に通され待機。
流石の父も緊張をしているのかもしれない、あまり表情が優れないようだ。
しばらく後、若いがしっかりとしたいかにも貴族な人が階段降りてきた。
ローシュ家現当主、クリス・クリエステル・ローシュ氏だわ。
前当主が亡くなる前にローシュの当主になったはず。
年齢は確か30位だったはずね。
頭はかなり切れる印象だ。
「これは、ライルエル様、わざわざお越しいただき、ありがとうございます、して、私に何か用だとお聞きしましたが?あまり時間がないので手短に願いたいのですが」
「実は・・・リルム、説明を」
簡単にまとめて、話をした。
父よりは私が話をした方が早い。
が、要するに5日以内に竜の火酒がないと、ケリューンが滅びるかもしれないと言った話をした。
詳細は要らないだろう。
「話はわかりました、が、どこに我々ローシュが手を貸す必要が?」
「おっしゃる通りです」
「しかし、一方で今後ケリューンとの貿易で優位に立つ材料とも言える」
「確かに。ケリューンからは良質な燃料や、鉱石を輸入しているはずですからな」
「しかし、それを盾に交渉するならば、ケリューンの外交を担う高官クラスと話をしないといけないですね、今は平等ですが、均衡が狂うのは、お互いに嬉しくないですからな」
「かといって、無条件で助けるわけにはいかんと言うわけですね」
「他の国や国内での立場的な話もありますから」
「では、結論から言って無理だと?」
「ライルエル殿は、聡明でいらっしゃる。そう取っていただいて結構です」
クリスは、そういいながら、手招きをし、小声になった。
「役人としての建前はこんな所です。ここからは流石にローシュ家内では話せないので、場所を変えましょうか、話が漏れないような場所に伺いたく。よろしいでしょうか?」
「わかりました、では、ライルエル家我が書斎にて。人払いはしておきますゆえ。先に戻ります」
「一刻の後、伺いますのでお待ちください」
一時解散となった。
しかし、クリス殿の反応は意外なものだったわ。
もっと頭ごなしに否定されるかと思っていた。
一刻(時間にすると約2時間)の後、平装をしたクリスが現れた。
お付きも一人しかいない。
お忍びという認識かしら。
「こんな格好で大変心苦しいですが、あくまでローシュ家としてではなく、私個人としての話をしに参ったため、どうかご了承を。部下は部屋の外に待機させます」
何か有ったときのためかしら。
伝令係か護衛かと言ったところね。
父に限ってないけど、襲われるとか貴族間ならあり得る話だし。
「いや、我々は大丈夫です。それよりわざわざご足労頂き、痛み入る、なぜここまで協力を?」
「ライルエル殿が謝る話ではありますまい、まぁ、いささかご令嬢に対し甘いのかもしれませんが」
「面目ないですな」
「協力するのは、アルベルト卿もやかましい書簡を送ってきたんで、無視したらまた、あの暑苦しい人を相手にするのが嫌だからですよ」
あの父がタジタジだ。
私としては、娘に甘いと揶揄された父に対し申し訳なくなる限りだ。
しかし、アルベルト卿は苦手らしい。
仕事も早いし、いい人なんだけどなぁ。
「ところで、こちらのウェアタイガーのお嬢さんは?なるべく人払いを。との話をしていましたが?」
「彼女は、私の仲間であり護衛です。何かを吹聴したりする人物ではありませんので、ご了承を」
きっとセニアは話に着いてこれないだろうな。
だけど、それで騒ぐようなバカな子じゃない。
「ご令嬢の?なら、まぁ、いいでしょう、わざわざ自宅に招いた別の貴族に害を為すなど、愚かなことはなさらないと信じることにします」
「ありがとうございます」
「端的に言います、竜の火酒をゲットする方法は2つあります」
「教えていただけるのです?」
「ええ、ただし、ローシュが絡んでいるというのは無しで、あくまで自己責任で。上手くいけば何も無し、失敗すれば多大な犠牲が伴いますが、よろしいですね?」
「構いません、しかし、上手く行った時に何も無しだと、ローシュ家に利がないのでは?」
「表だって分からないような利であろうが、いつか露見し痛い目をみます。それでしたら何もない方が、利になります」
「上手く行けば、今後の有事の際にライルエル家が味方につくと、それだけで十分です」
うわ、何気に辛い条件だわ。
理にはかなっているけど、何を要求されることやら。
どうしょうか・・・
「まぁ、そんな有事が起こることもないでしょうし、あまり気にしないで良いです」
「うーん、分かりました」
渋い顔で父が頷いた。
変なことにならないといいけど。
少なくともゴルドー家と仲良くするよりは遥かにましだけど。
少なくとも、ピエール殿より、クリス殿は変なことにはならない気がするし。
「わかりました。方法は提示します。がどちらもそれなりに大変です、やらないというのであれば、ローシュはこれ以上の手助けは致しかねるが、それも選択肢の一つです、ご自由になさるといい」
「一つ目は闇市です。闇市とは言ってますが、合法的に認められています。いわゆるオークションですな。毎日市は開きますし、竜の火酒自体もたまに出ます」
「しかし、そこに出ている商品を適当に買うならば何とかなるでしょうが、数日でお目当てのものとなると、探すのも一苦労し、かなりの資金を要求されるでしょう」
「何せ必要だと言っているわけですから、幾らでも高くても買い取られる算段がつきますからね、しかも探させたら幾らと言われても絶対買い取るのがルールですから」
「ざっとどれくらいになりますか?」
「竜の火酒が、たまに出るときは10万くらいで動きますが、今回は、軽く見積もっても100万フィルは下らないでしょう」
「ひゃ、ひゃ、100万!?」
「大体、最低でも10倍くらいにはなります。竜の火酒自体が生産数が少ないですが、一定数の愛飲家がいますから、高値でならほぼゲット出来るはずです」
「それにしても高いですね」
「竜の火酒は、作るのに時間がかかりますからね。まぁ、高値と言っても、ライルエル家なら用意出来るでしょうが・・・」
「・・・まぁ、確かに、無理てはないが・・・」
「ちなみに、闇市の売上の10%は手数料としてローシュ家の物になりますので、この方法だと、ローシュ家にも利益が出ますね」
「うむ、無理ではないが、流石に金額がな・・・」
「お父様、止めてください、アレンはきっと返すといいます。そんな金額は正直返せないです、しかも確実に得るにはもっと資金がいるのでしょう」
「ん?アレン?アレン・・・まさか、あのバイアール盗賊団を拿捕した青年ですか?」
「そうです、私達はアレンの旅仲間ですから」
「と、なると、そちらのお嬢さんがセニアさん?」
「あ、はい、セニアといいます」
「なるほど、では説明しようとしていた二つ目の話に行きますか、こっちの方がお嬢さんには現実的かもしれないです」
「まさか・・・クリス殿、いやいや、それはご勘弁願いたい!な、な、お金は私が出すから、辞めよう、な?」
「いや、ライルエル殿。それを決めるのは彼女達ですよ」
「お父様、しばし、お静かに。クリス様、その方法とは?」
「その方法は、闘技場クロセウムで勝ち残ればいいんですよ、クロセウムならば欲しいものを確実にゲット出来ます」
「闘技場!?」
「勿論、勝てればですが。ちなみに、セニアさんは勿論、リルムご令嬢も参加出来ますよ、貴族でも、当主、嫡男以外は出場出来ますし、チーム戦もあります」
「や、やはり!いや、それは、辞めよう、ね?」
父が完全に混乱しているわ。
それだけ危険だと言うことなんだわ。
「闘技場クロセウムは、ローシュの南にあるスラム街にあります。あれ自体は非合法だけど、暗黙の了解で摘発はされないんです。ハイリスクだが、勝ち残れば確実に欲しい物が手に入る」
「いやいやいや、駄目だよ、闘技場クロセウムにリルムやセニアさんが行くくらいなら私が100万でも200万でも出すから、辞めようよ、ね?」
「むしろ、戦いで獲得出来るなら願ったりです」
あ~、駄目だ。セニアの目に戦いの火が灯ってしまった。
難しい話が続いたし、戦闘民族の血が騒いでるのかな。
「お父様、戦闘民族のウェアタイガーにそういう逃げの説得はむしろ逆効果ですよ」
「クリス様、負けたらどうなるんですか?」
「良くて死ぬ、悪いと奴隷にされ、あんなことやこんなことされて捨てられる、内臓取られることもあるみたいだね」
良くて死ぬ?
生かされた方が地獄ってこと?
でもそんなことでセニアが怖じ気づくわけがないわ。
「セニアさんなら、魅力的な体してるし、喜んで相手になるバカがいっぱいいると思う、行くかい?」
「魅力的って・・・でも戦いなら、望むところです」
「待って、セニア、私も行く。2人チームで行こう」
「リ、リルム!何を言ってるんだ、辞めなさい、闘技場クロセウムがどんな怖いところか知らないからそんなことを言えるんだ」
「お父様、ごめんなさい、でも、セニアにだけ危険な目には合わせられないよ」
「うん、リルム、いいの?」
「セニア、友達で仲間でしょ、回復や補助はいるでしょ」
「よし、決まり!じゃあ、連れていこうか、ライルエル殿、このことはどうか内密に」
「ところで、クリス殿、闘技場クロセウムは、ローシュが取り仕切っておられるのですか?」
「いいえ、取り仕切っているなんてとんでもないですよ。ですが、あそこは犯罪者も刑を軽くするためによく来るです。だから貿易に必要な奴隷はよく調達できる。多少顔が利くくらいですよ」
「ルールとかは道すがら話しますから、気をつけて行きましょう」
まずはローシュ家に戻ろう。
ただ、まだ一人、父はおろおろしていた。




