再び森に行って稼いでみる
コンコン、コンコン
なんだか騒々しいなぁ・・・
「アレンさん、朝ですよ、起きてください」
セニアの声だ。
昨日は色々あった。
異世界に飛ばされて・・・飛ばされて!?
そうか、やはり夢ってわけじゃないんだな。
まぁ、いい。夢であって欲しいとは思ってなかったし。
「あぁ、セニア、お早う。今行く」
「アレンさん、お早うございます。着替え父の服ですが、扉の外に置いておきます。」
「ありがとう」
扉を開け着替えを取り、着てみる。セニアはリビングに戻ったようだ。
サイズは少し大きいが、袖と裾をまくれば大丈夫みたいだ。
動きやすいが硬質ズボンことGパンよりは防御力が低そうだ。
いや、待て、普段着であって装備ではないのか。
昨日セニアは、防具は大体サイズは関係ないと言っていた。
防具扱いじゃないから自動でサイズが変わらないのか。
でも伸びるとかで大きくなるのは分かるが、縮むってことはあるのかわからんな。
まぁ、セニア曰く、巨人と小人は共有が難しいと言っていた。
逆に言えば、小人と人間サイズの種族、または巨人と人間サイズは共有出来るということだ。
なんかわからん力が働いて小さくもなるんだろう。
うん、どうでもいいから考えるのやーめた。
アイテムストア機能を試してみる。
(ストア!)
おお!空中にスペースみたいのが出来た。これ、他の人にも見えるのかな?
腰に下げていた皮袋からゴブ達が落とした草履や棍棒を取りだし、入れてみる。
シュッ!と格納された。
手を伸ばせば出すことも出来る。
ユミルが言っていたように、ストアに入れてしまえば重さは感じない。
歩く倉庫にだってなれる。
我は蔵王なり。
しかし、やはり出し入れには相当スキが生じるな。慣れないと。
戦闘中に使用するのは無理だな。
試しに、さっきまで着ていた寝間着を入れてみる。
やはり入れることが出来ない。
普段着とかの類いはアイテムストアに入れることが出来ないという予想は当たっている。
アイテムではない荷物は自分で持っていくしかないか。
デカい鞄か、馬車が欲しくなるな。もしくは移動手段を得た上で家に置いておくか。
流石に2年の出張で家はないか。帰れるかは知らんけど。
食材などはアイテムなのか荷物なのかわからんな。後で試してみよう。
「あの~アレンさん、起きてますよね?」
「あぁ、悪い、考えごとしていた。今行くよ」
「ご飯、母が待ってますよ。先に行ってますね」
アイテムストアで遊んでいたら、セニアが呼びに来た。
朝ごはんか、コンビニ飯以外は久しぶりだな。
リビングに行くと食卓にはパンとサラダ、卵、何かの肉料理があった。
量も常識的だし、パンとか食べるんだ。虎なのに。まぁ肉があるのは予想通りか。
「お早うございます」
「アレンさん、よく眠れたかい?」
「お陰さまで。寝間着や着替えもお借りしちゃってすみません」
「お似合いじゃないか。気にしないでいいよ、それから昨日のアレンさんの服は洗濯しておいたよ」
リビングの端に綺麗にたたんである服が見えた。ありがたいなぁ。
「さ、ご飯にしようかね」
朝ごはんを3人で食べながら今日の予定やこれからのことを話す。
マーレは今朝からトヤクソウこと、ドクダミを煮たり、煎じたり、潰したり、
色々薬を作っているらしい。昼から各家庭に配るんだそうだ。
セニアは特に予定はないらしい。
「アレンさんはどうするんですか?私も付いていっていいですか?」
「いいよ。ただ、昨日の夜に言った通り、レベル上げや路銀を稼ぐために、もう一度、ゴブリンの巣に行こうかと思っているんだ」
「え?またあそこですか?」
「もう少し奥まで行けば、エリートゴブが単体で出てくるはずなんだ。そこで稼ぐ」
「記憶無いわりによく知ってますね」
「なんでかそういうのはわかるんだ」
なんでって、やり込みましたから。やり込むと攻略チャートから外れることするもんだ。
特にホワイトクエストは行動によってその後が変わるわけだからさんざんやりこんだ。
そう言ってもセニア達にはわからないだろうが。
普通のプレイでは、ゴブリンの巣奥地に行くのはもっと冒険が進んでからになる。
理由はエリートゴブが強くて危ないから。
だから序盤のエリートゴブ狩りはゴブリーダー戦ごと繰り返すのだが、
火炎撃を使えるならその限りではない。
ラーニング確率が少ないゲーム内では火炎撃を使えるようになるのは大分先だが、
アレンはラーニングできている。
これを利用しない点はない。無茶苦茶奥に行くとヤバイだろうが、
エリートゴブが出始めるくらいなら大丈夫だろう。
気掛かりは自分の魔力値がわからないため、何発火炎撃を放てるか。やってみないとわからない。
とはいえ、エリートゴブは経験値、ドロップ、金のどれを取っても美味しい。
さらには弱点もわかりやすい上、必ず単体で出現する。
ドロップの鉢金は売っても400フィルになる。アイテムストアが使える今、稼いでおいて損はない。
ちなみにレアドロップはダガーナイフ。
アレンもセニアも装備できないだろうが、こちらも売れば580フィルになる。
「じゃあ、お弁当を簡単に包んで上げるから気をつけて行っておいで」
「母さん、ありがとう」
「すみません」
「夕方には帰るんだよ」
「はい」
食事を済ませ、準備をしている間にマーレが昼の弁当を作ってくれた。
流石に借りた着替えを汚したり破く訳にいかないから、自分のシャツとGパンに着替えた。
とりあえずステータス確認しよう。鏡がないからなぁ、自分のはしにくいが、
川で顔を洗いながら見てみる。
アレン・クルス 17歳 ヒューマン 男
Lv9 シーカー☆2
主属性 無
銅の剣☆1 鉢金☆3
革の鎧☆1 革の盾☆1
硬質ズボン☆1 革のグリーブ☆1
うあ!シーカーになってる。
もはや勇者のかけらもないな。
まぁ、お人好しよりはジョブっぽいが。しかもいきなり☆2か!
シーカーって探索者だよな。
アールブを探せと言われたからか、ドクダミ探ししたからか?
あ、そうか、ゴブ達とのエンカウント減ったのはシーカーになったからかもしれないな。
シーカーはジョブスキルのダンジョンウォークが使え、
敵に見つかりにくいように移動出来るようになるはずだ。
ジョブスキルは一度覚えてしまえば、ジョブが変わっても使用が出来る、覚えていて損はない。
(ダンジョンウォーク off)と念じてみた。
エンカウントが変わればよし。レベル上げに行くのに、今は要らん。
それにLv9か、一気にあがったな。
セニアのステータスも確認しておく。
セニア 17歳 ウェアタイガー ♀
Lv8 村人☆2
主属性 土
大木槌☆1 ヘヤバンド☆1
革の胸当て☆1 革の手袋☆1
革のスカート☆1
革の靴☆1 木の腕輪☆1
セニアもレベル上がってるし、村人の習熟度があがってる。
あとは昨日はしてなかったが、ヘヤバンドをつけてる。
昨日の初めよりは強いのは間違いない。まぁ、村人だが。
程なくして、セニアと二人で出かけた。
アールブさがしもしないといけない。
道すがら、セニアとかなり身近なこれからの話をする
「大きなリュックサックとか売ってるところないかな?アイテムじゃない荷物入れておきたい。後普段着とか下着とかも買わないと」
「両肩掛け鞄ですか?それならイレインの雑貨屋にあります。服もイレインで買うのがいいかと」
「歩くとどれくらいかかる?」
「アリアナからだと、朝から歩き続けても1日では無理ですよ。
大変なので、アリアナとイレイン間では定期馬車が朝、昼、夕方に出ていますよ。」
「じゃあ、夕方イレインに行ってみようかな。戻ってこられる?」
「それは無理です、イレインに泊まりになりますね」
「じゃあ、明日かな?」
「そうしましょう、でもアイテムはどうするんでしょうか、流石に腰に着けてる皮袋だと量が入らないです」
「あぁ、アイテムは・・・」
ストアの説明を一からしておいた。
凄いと感動しているが、理屈はわからないだろう、俺もわからない。
セニア曰く、ある程度経験を積んでいる冒険者だと使える機能らしいが、
どうするかはわからないらしい。
そうこうしてる内にゴブリンの巣に来た。
やはりゴブリーダーを倒したからかあまり戦闘にならなかった。
ただ、昨日の帰り道よりは多い。やはりシーカーの影響か。
道中、前回拾わなかったアイテムなども回収した。
傷薬に、毒消し、皮の盾など。
うーん、しけてやがるぜ。
前回、ゴブリーダーを倒した道とは違う方角に森を抜けていく。
「セニア、あそこの茂みを抜けて洞窟入ると、そこらへんからエリートゴブも出るはずだ。他の敵も少しレベル上がってるはずだ」
「はい、頑張りましょう!」
それでもエリートは数が少ないのか、他の敵と遭遇することも多い。
大芋虫 Lv8
グレーバットLv7×2
空中からの攻撃をするグレーバットはセニアが素早く叩き落とす。
やはりセニアは身軽でいい。
大芋虫は体当たりをしてくるが、当たらなければ大丈夫。
なんら苦労せず勝利。
芋虫のキバ
こうもりの羽×2
35フィル
ドロップは素材だった。今は要らないが取っておこう。
金は、しけてやがる。
ここは他にもブルーフラワー、ブッシュベイビーという枝みたいな魔物、定番のスライムが出る。
そしてエリートゴブ。Lvは大体8~9、エリートゴブはLv10~12。
エリートゴブ以外はドロップも金も経験値もしけてる。パサパサや。
戦闘もあっという間に終わる。
数時間がたったのだろう、腹減ってきた。
当たり前だが、傷薬を使っても腹は膨れない。
マーレが用意してくれた弁当を食べながら、休憩をした。
セニアとは他愛ない世間話をしながら、自分の旅についてくるか探りを入れてみる。
迷ってるという印象だ。
無理もない、目的もはっきり言ってないし、男女二人旅だ。
何か間違いがあるかもしれん。
俺としては大いに間違えるつもりだし。
ところで、飯を食っても傷は癒えないのがわかった。
流石にエリートゴブからは一撃もらうこともあったが、
結局、飯では元気になる、腹は満たされるだけだと気付いた。
また、魔力も戻るのかが不明だ。
よく考えてみると、飯食って、傷がみるみる癒えたらそれは気持ち悪いか。
途中一度セニアが毒にかかったが毒消しは常備してあり問題ない。
戦闘も結構して、エリートゴブも18匹を狩った、鉢金12本、ダガーナイフ2本。
なかなかいい稼ぎだな。
火炎撃は大体一発だが、たまに倒し損ねてしまい、23発を放った。
ちょっと疲労感がある。魔法力=精神力だからか。
エリートゴブ19匹目、火炎撃を一回放ったが倒し損ね、
もう一発!と思ったが発動しなかった。
魔力切れだ。
とはいえ、エリートゴブはかろうじて生き残っただけで、あとはタコ殴りで大丈夫だった。
火炎撃24発分が今のアレンの魔力ということだ。
MPにすれば48~49ポイントだ。
とはいえMPとしては見れないから数値にする意味はない、HPも同じだが。
ある程度力の限界がわかったのは、非常に有意義だった。
「セニア、帰ろう。」
「はい、大分、戦いましたね、でもまだ、夕方には早いですよ」
「いや、もう魔力がないから火炎撃が放てない」
「なるほど、でもどれくらい戦ったんですかね?」
「エンカウントは64回だ、エリートゴブは19匹だ。なかなか割合がいいな」
「数えていたんですか?」
「まぁな、自分の魔力がどれくらい持つかを計るためにな」
「余裕ですね」
「セニアが一緒に来てくれたからさ、ありがとう」
「いやいや、こちらこそ色々勉強になります」
「鉢金とかを売って、日用品買ったり、イレインで装備整えられるくらいは稼いだかな」
ゴブリンの巣奥地から出ると、かなり日がまだ高い。
セニアの言うとおり、まだ夕方まで時間があるみたいだ。
「少し寄り道していいかな」
「はい、大丈夫ですが」
初めて自分が飛ばされてきた森に行ってみる。
アールブがいるとしたらあそこが一番可能性高いはずだ。
森を見渡すと、やはり自分が来たところにある岩がぼんやり光っていた。
ユミルが近くって言っていたからな。
「アールブか?」
話しかけるとぼんやり光っていたところが、妖精の形になった。
羽がある、手のひらより小さいサイズ、耳が長い、
茶色の巻き髪の裸の女の子みたいだ。ただ胸はない。
(ワタシが見えるってことはアレン?)
音ではなく、意識に直接語り掛けられてる
「ああ」
(遅いわよぉ!)
「一応、昨日の夜に、君の存在を聞いたんだ、どこにいるかもわからんし」
「アレンさん、誰と話してるんですか?」
そうだった、セニアにはアールブが見えない。
セニアからすれば突然岩に話しかけた変人になっちゃう。いやだー。
「あ、いや」
(ねぇ、アレン、あなたの仲間?ちなみにワタシとは声にしなくても話せるけど?)
(彼女はセニア。仲間だけどまだ一緒に冒険するかはわからない)
本当だ、意識にすればアールブとの会話は成立している。
でも、考えごともアールブには筒抜けか、いやだー。
(ワタシと話すときはワタシのことを念じてからね。それ以外の考え事とかはワタシに届かないから)
杞憂だったみたいだ。でも今考えたことは筒抜けだったじゃないか。
(彼女にワタシ、姿見せようか?)
(出来るのか?)
(ずっとは無理。悪人相手じゃなければ少しなら出来るよ)
(紹介だけはしておこうかな)
(分かった)
一瞬アールブが光ったと思ったらセニアがびっくりした
「うわ!可愛い。妖精さん?」
「ワタシはアールブ。これからアレンに付いていくわ、よろしく」
「セニアといいます、よろしくお願いします。アレンさん、凄いですね」
それからアールブが自分についての説明をしていく。
曰く、エルフではなく、アールブという魔法生命体であり、性別はないこと、
戦闘は出来ない、あくまで冒険のサポート役であること、
物に触れることは出来るがあまり重いのは持てないこと、
普段はアレンの意識内にあり姿は見せないため、あまり存在を気にしないでよいこと、
食べ物はいらないことなどなど。
聞けば聞くほどヘルプコマンドの代わりみたいだ。
「じゃあ、また、用があったら呼んでね」
「あ、待って」
「なーに?」
「アールブって種族名なんですよね?名前はなんですか?」
「名前?無いよ?アールブってワタシだけだから」
「じゃあ、アレンさん、私達で名前つけてあげましょうよ」
「おお、いいな、流石セニア、よくそんなこと思いつくね」
「え?ワタシに名前?いいの?」
「もちろん!」
色々話し合った結果、セニアが何案か可愛らしいのを出し、アールブの名前が決まった
「アレン、セニア、これからよろしく、名前ありがとう」
「こちらこそよろしく」
「よろしくお願いします、フラウ」
新たな仲間、アールブ改め、フラウを加え、帰路に就いた
魔王復活まで残り798日・・・