火山に行く前の準備その3・・・
修練場に到着すると、木剣を渡され、レイチェルもメガネを外し、木剣に持ち替えた。
メガネ美女だったのに残念。
対峙してみると剣気をきちんと感じることができ、剣の腕前は確かなのがわかる。
が、テッハやオーガーの威圧感に比べると大したことはない。
「アレン殿、技は一つを集中して放った方が良いですか?バラバラの方がやり易いですか?」
「ラーニング出来たら知らせるんで、それまでは集中して一つをお願いします」
「わかりました、では、まずはゾンビ斬りから・・・死なないでくださいね?」
そう言ったと同時にレイチェルは体を深く落とし、間合いを一気に詰めた。
・・・速い。
しかし、セニアの方がまだ速いしアレンでも十分に見える。
レイチェルはそのまま下から剣で眉間辺りを狙って刺突、
手を伸ばしきったところから振り下ろす一連の動きで攻撃してきた。
ゾンビ斬りも悪魔斬りと同様に二連撃のようだ。
ゾンビだからと言って十字を刻む切り方ではないらしい。
まぁ、そもそもゾンビはアフリカにあるブードゥ教にルーツを持つ。
従って十字架を聖なるものと見なすキリスト教ではないので、
十字架の切り口模様がゾンビに有効なのかは謎だし。
そのイメージは日本人だけが持つものだろうな。
代わりに、ゾンビにも確実に効く攻撃として頭を狙う初撃が印象的だ。
頭を潰すのはどの生き物にも有効だ。ゾンビを生き物と言って良いのかはわからないが。
二撃目も急所の多い体の中心線に沿った攻撃だ。
ただ、人型ゾンビには効果高いだろうが、他の生き物のゾンビにも何故効果があるかはわからない。
いやいや、ゾンビじゃなくても食らったらかなり危ない技じゃん?
ゾンビを斬る技なのか、切った相手をゾンビにするのかわからんな。
こんな技を躊躇なく放つレイチェルは頭がどうかしてる。
放てと言ったのはアレンだが、想像以上に危ねぇ。
レイチェルのゾンビ斬りは剣で受けつつ、身を翻して避けた。
しかし、一回でラーニング出来るほど甘くはない。
動きは見えてるが何かが足りないな。
そうこうしているうちに二発目が来た。
なかなかハイペースだ、出来たと止めるまで続きそうだが、レイチェルの体力持つのかな?
今度は腰、足さばきを見る。
初撃は右手に剣を持っているのに軸足が左か、そのままの体制で二撃目。
なるほど、これがポイントか。
通常ではない足の使い方か、勉強になるな、応用も出来そうだし。
アレンも見よう見真似で放ってみるが、足の運び方が上手く行かない。
二撃目で体重が右足に少しかかるのがいかんな。
体の構造的に仕方ないんだが、意識的に外すのはなかなか骨が折れる。
結局、ラーニング出来たのは、17発目だった。
レイチェル、お疲れさん。
一度分かれば大丈夫。
「レイチェルさん、大丈夫、覚えたよ」
「へぇ、意外と早いものなんですね、こうやって技を覚える人、初めて見たんで、もっとかかるかと思ってました、では、私に放ってみてください」
「は?大丈夫ですか?」
「お気になさらず。手加減は要りませんから」
早いのか。結構かかった気がするが。
言われるがままにゾンビ斬りを放つ。
女性に頭を刺突しにいくのはかなり抵抗があるが・・・
しかし、レイチェルは難なく二発とも剣で受け流し、
飛び上がりながらの反撃もしかけてきた。
やはり剣の腕はかなりのものだ。
「今のは・・・ドラゴンキラーですか?」
「よくわかりましたね、それから確かにゾンビ斬りを体得されたようですね、どういう仕組みですか?」
「いや、それは・・・」
説明は面倒くさい。
ラーニング率が高いのが特技を知った上で理論をつけるからと言っても分かってくれるかな。
「続き、いきますよ?」
質問しておいて、あまり回答には興味がないらしい。
何気にSっ気があるな。
反撃もドラゴンキラーを初見で出すとかもう、うん、ドSだわ。
いや、効率重視なだけか?
「俺はいいですが、レイチェルさん、疲れないので?」
「この程度、どうってことはありませんよ、伊達に副長をしてませんから」
まじか、体力もピカ一か。
明らかにレイチェルの方が動いているが。
アレンから『いや、腹減ったんですけど』とは言えない雰囲気である。
そのうち、パーティーメンバーからクレームが入るかもしれん。
特にセニアから。
一方、レイチェルはあれだけゾンビ斬り連発したのに、汗もかいてないし、そもそも息も上がってないわけだし。
くそ、軽戦士じゃなきゃ、仲間にホントに欲しい。
それにしても副長って。
新撰組かよ、心の中ではトシゾーと呼ぼう、ドSだし。
「続き、行きますよ」
アレンの返事を待たず、トシゾー、もといレイチェルの二発目のドラゴンキラーが放たれた。
今回はレイチェルは、かなり分かりやすい動きをした。
剣を前方で横向きに持ち、
飛びはねながら剣を自分の頭上に弧を描くように跳ねあげる。
左手は手工で剣先を支えている。自らの左手を斬ることがないように、右手も左手も横方向には動かさないようだ。
そして、ジャンプが一番高くなったところで突き。
やはり二連撃だ。二撃目を出すには右手のスナップをかなり効かせる必要があるな。
ゾンビ斬りで分かったのだが、ある程度、敵の形を想像するとわかりやすい。
ゾンビなら人型で頭がどこで体の軸がどう通るかイメージすると、放つことが出来る。
ドラゴンキラーも一緒だ。今回の場合、空に浮かぶドラゴンではなく、地を這う形で大型ではないのを想像する。
初撃はちょうどドラゴンの顎の下にある、いわゆる逆鱗の部分へ下から鱗をめくる方向への攻撃、
二撃目はめくれた逆鱗の裏、つまり、肉体への突きだろう。
逆鱗に触れるとキレるドラゴンが多いのは身体的弱点だからだ。
難しかったのはジャンプの一番上で突くことだ。
タイミングもそうだし、空中で何か動作をするのに慣れがいる。
書くと簡単だが、滞空時間も短いし、遅いと突きを出すときには着地してしまう。
とはいえアレンには重力加速度の強みがあるため、
こっちの世界の普通の人よりはやり易いはずだ。
うーん、もどかしいな、ドラゴンキラーも結構かかり、レイチェルに15発くらい放たせてしまった。
「出来たようですね、大体15発くらい必要なんですね?」
「そうみたいですね、少しきゅうけ・・・」
「さ、次はスピリットキラー、行きますね?」
休憩を食い気味に否定された。
やはりトシゾーはドSだった。
休憩しようよ~。
パーティーメンバーは・・・、あれ?リルムしかいない。
遂に愛想をつかされたか?
食事に行かないからか、エッチな目で見ていたからか・・・
確認にいきたい。しかし、そんな時間的猶予はトシゾーは許してくれない。
「ただ、私はスピリットキラー使えますが連発はそこまで出来ないですね、10発が関の山です」
「えっと、それは?」
「スピリットキラーは魔力を消費します、魔力に関しては最低限しか持ってないので・・・」
確かに。スピリットキラーは多少魔力を食うな。MPにして4。
ん?レイチェルはMP40しかないのか、それは雑魚っ!
そこは勝ったな。
まぁ、剣が中心だからか。
魔力を消費する、と言うのもヒントだな。
「行きます!」
レイチェルが放ったスピリットキラーは今までの二つとは毛色が違っていた。
まずはどうみても普通の薙ぎ斬りを一回だけ。
違いとしては、剣が淡く光っていたくらいだ。
物質ではないものを斬る、さらに魔力を消費する。
なんてことはないな、剣を魔力でコーティングすればいい。
属性付与攻撃と本質は変わらないのではなかろうか。
念のため、もう一度確認してみる。
やはり剣に魔力を通しているらしい。
今のアレンにそれはお手のものではなかろうか。
ただし、属性を帯びていない魔力を扱う必要があるのが変化点ではある。
試しにやってみると、案外すぐに出来た。
「ふぅ、終わりました、ありがとうございます」
「え?まだ、2回ですよ?」
「大丈夫です、多分出来ます」
「あきれました、まさか、スピリットキラーは2回で見切り、覚えてしまうとは」
「スピリットを斬るなら、物質である剣ではなく、魔力などを込めた刀身が必要では?と考えていたのですよ」
「それにしても、凄いです。正直、ゾンビ斬りやドラゴンキラーは剣術と体捌きの部類ですからなんとかなると思っていましたが」
「スピリットキラーはそうじゃないと?」
「はい、私の中では簡単な技から難しくしていったつもりでしたが・・・」
「なんか、すみません」
「いえ、スピリットキラーは剣術と魔法のような使い方がいるのでにかなり練習が必要かと思っていました、正直私も体得するまでかなりかかっていますし」
「レイチェルさんは魔法も使えるので?」
「いいえ、魔法として発現することはないですんですよ、アレン殿は?」
「魔法はまだ使えませんが。実は、俺は今まで属性付与攻撃をメインにしてきていて、最近、属性強化攻撃を使えるようになったんで、その応用ですよ」
「それにしても、凄いです、逆に私はスピリットキラーは使えますが属性剣に応用しろっていわれても出来ないですから」
「まぁ、得手不得手がありますよね」
「本当に1日で覚えてしまいましたね、びっくりしました。ところでお腹すきましたね、今日は皆さん、私がご馳走しましょう」
「なんかすみません」
「いえ、騎士たちにはいつでもシェフが料理を作ってくれるので、皆さんも一緒がいいかと」
薬師ルルからそのまま修練場に来たせいでかなりの時間になった。
と言うが夜だ。
食堂は閉まっているらしいし、宿屋でも食事の時間は過ぎたらしい。
うわ、昼ご飯食べてない、腹も減るわけだ。
今日はレイチェルのお誘いに甘えよう。
「あれ?そう言えばリルム、セニアとディアナは?」
「ウィリアムに買い物よ、すぐ戻るはずだわ」
エスパシオで飛ばさせたのか。
「ん?何かあったっけ」
「ルルさんへのお菓子と、バトスへのお使いをね。私は離れられないから頼んでおいたの」
流石やな、明日ルルから薬貰ったらお礼に置いてくるお菓子か。
バトス側はわからんが。
リルムはそういうケアが完璧だし、任せとけば問題ないだろう。
セニア達はすぐに帰って来た。
手にはバスケットと、なんかよくわからんお菓子を持っていた。
バスケットはバトスからのサンドイッチ詰め合わせが入っており、
ご飯を食べれてないからリルムが用意させたのだろう。すげぇな。
お菓子はドラヤーキと言っていたが、まぁ、どら焼きだろう。
ツッコむ元気はない。
とりあえず、レイチェルの部屋に向かう。
「ケリューンにいるときは、執務にいることもあります。ご用のときにはいつでもお越し下さい」
レイチェルはルドルフの部屋の左隣の部屋を指さした。
さ、とりあえず飯にしよう。




