家にお呼ばれしてみる
アリアナの村に帰って来てすぐにセニアの家に向かった。
今日は家で朝ごはんを食べたあとからなにも食べていないので流石に腹減った。
これから冒険するのにあたり、食事はどうしようか、一つの気掛かりである。
町にいるときや宿に泊まっていればいいが、野営やダンジョン内ではどうするかな。
当たり前だが、ゲームの中にいても腹は減るし、こっちの人も食事をする。
あまりにも描写されてないゲームが多いが。
勇者一行、餓死。シャレにならない。
あとは装備じゃない普通の着るものとか洗濯とかが心配だなぁ。
まさかずっと着てる汚れた格好で王族への謁見や、新たな仲間との出会いとか悪い印象しかない。
ここらへんは後でセニアに確認しておこう。
「アレンさん、母がご飯作ってまってます。母の料理はとても美味しいですよ」
「そりゃ、楽しみだね。でもお邪魔して迷惑じゃないかな」
「それは昼間に話したとおり大丈夫ですから気にしないでください」
泊まるあてもない、飯もないし、お呼ばれされるのは正直ありがたい。
しかし、ウェアタイガーって何を食べるんだろう?
虎だもんなぁ・・・オール肉とか有り得る。肉は好きだけどオンリーは辛い。
そうこう考えてる間に、セニアの家についた。
「ただいま、お母さん」
「お邪魔します」
「おかえり!無事で良かったよ、心配したんだよ。アレンさんもお疲れ様です、ゆっくりしてください。食事も沢山召し上がってくださいね」
「ちょっ!?お母さん、何、この料理の山は?」
「あら、アレンさん、若いんだから沢山食べるかと思って、張り切って作ったのよ」
「それにしたって、この量はやりすぎ・・・」
確かに大量だ。机の端から端まで料理の山だ。
あ、サラダとか米みたいのもある。肉だけじゃないんだ、良かった。
「お、美味しそうですね、い、頂きます!」
「ほら、アレンさんも食べられるって!沢山ありますから遠慮しないでくださいね、苦手なものはあります?」
「いや、大丈夫だと思います、ただ酒は飲めないです」
アレンは早くから独り暮らしだ。好き嫌いなんかあったら面倒だからそんなものはない。
この世界でどうかは知らないが。
少なくとも今食卓に並んでいるもので食べたことがないものはないように見える。
元の世界と同じようなものが食べられるのは冒険するにあたり安心できる点だ。
保存や持ち運びはまだ気掛かりだが。
ただ、今回は頂くとは言ったが量からして食べきれるとは言ってない。
マーレも自分で言っているが、誰がどう見てもこれは沢山だろう。
3人が食卓に付き、食事が始まった。
「どうですか、アレンさん、お口に合いますか?」
セニアが心細い感じで覗きこんできた。
「う、うまっ!」
「お気遣いありがとうございます」
「いや、セニア、お世辞とかじゃなくて本当に旨いよ」
「ほら、若いから良い食べっぷりじゃないか!」
子羊のロースト、ピラフのような米料理、オレンジ風味のサラダなど、
他にもどれを食べても美味しい。但し、量が多いんだが。
子羊はマーレが『かって』きたらしい。多分『買って』ではなく『狩って』。流石虎だ。
食事中はセニアがずっと喋っていて明るい食卓だった。
今日の出来事を子供みたいにマーレに報告している。
ゴブを一撃で倒したことから、フラワー系との戦い、
ゴブリーダーとの戦闘、他の人より速い動きをするとかまで話をしている。
内緒にする話でもないが、色々広めてもなぁ。
逆に道中でセニアに確認したことなどは全く触れなかった。
セニアにとってはどうでもいいことだったんだろうな。
あまり世間知らずだと流石に恥ずかしいし、助かるよ。
そういえば、食事を誰か他の人が作ってくれるのも
誰かと一緒に楽しく食事するなんていつ以来だろうか。
マーレの作るものが美味しいのもあるんだろうが、雰囲気もあるんだろう。
セニア、マジで良い娘だなぁ。
いつの間にかマーレも敬語がなくなり落ち着いたようだ。
食事が終わり食器などをセニアが片してくれてる間に、
くつろぎながら・・・いや、食べ過ぎで動けなくなっているときに
色々な話をマーレとすることになった。
「ご馳走さまでした、美味しかったです」
「お粗末さまです。ところで記憶無くしてとセニアから聞いてたけど、モンスターについては詳しいとか。それにお強いそうで」
「モンスターはなんとなくです。剣は心得が少しありまして」
「そうかい、ところでセニアもまだまだ未熟だけど、ウェアタイガーとしての動体視力はあるんだよ」
「はぁ」
「そのセニアが速いというのは相当なことだ。旅には何か目的があるのかい」
「いや、その・・・」
魔王を倒すためと答えるべきだが、セニアは魔王が復活すると認識していなかった。
変に混乱させるより、しばらくは記憶喪失のまま通すべきかもしれない。
「覚えてないんです。とはいえ、困っている人の力になりつつ、強くなりたいという想いはあります」
「あぁ、それで危険を冒してまでトヤクソウを取ってきてくれたのかい。本当にありがとう。あれは万能に効くので重宝するんだ」
「トヤクソウはどうするんですか?」
トヤクソウって、ドクダミだが。
「明日、薬に調合して皆に配るよ、病気はそれでよくなるはずさ」
だからドクダミだが!
「すりつぶして塗り薬にすれば怪我にも効果ありますよ」
「そうなのかい、物知りだね」
何度も言うがドクダミだが!!
「とは言え、病気はともかく怪我してる人はすぐには治らないですよね?動ける若い世代も少ないようですし。盗賊は今大丈夫なんですか?」
「今は落ち着いているという感じだね。捕縛されたわけじゃないが、この前攻められたときにあっちも痛手を受けているはずだよ」
安息だが長続きはしないと。
出来れば片付けておけた方がいい。
それに盗賊は人間だろうか、亜人だろうか、少なくとも人型なはずだ。
これから冒険していけば、人型と戦うことにもなり、必要なら殺すこともあるだろう。
アレンは今までは勿論人を殺したことはない。
いざというときに躊躇していたら一発退場という話になったら困る。慣れが必要だ。
盗賊なら明らかに悪人だ。殺すのに正当な理由がある。
「盗賊のアジトなどは分かるんですか?」
「北にある隣町のイレインの方から来るとしか・・・ってアレンさん、まさか行くつもりかい?」
「いや、そんなつもりはありません。ただ、少し情報を集めておけば危険が回避できることもあるかと」
「なら、いいけど、あまり無茶はしないでおくれよ、私は自分より若い世代の人が死ぬのは見てられないよ」
行く気はあるが、何も知らずに行くつもりはない。
多少の時間的余裕もあるようだ。
イレインで聞き込みとかするかなぁ。
「母さん、片付け終わったよ?」
「あぁ、セニア、ありがとう。次はアレンさんにお風呂案内しといで、もう沸いているから」
「はい、アレンさん、こっちです」
「あぁ・・・」
ま、まさかセニアも一緒に?
マジかー頑張った甲斐があったな。
と思ったが、セニアは風呂の使い方などを説明して
「ごゆっくり」
と戻っていってしまった。残念。
あぁ、あの柔らかそうな胸、拝めると思ったのに。
でも流石に実家じゃまずいか。
いや、待て、そういう問題ではないか。
まぁいいか。
とにかく風呂文化があって、しかも湯船があるのはありがたい。
自動マイコンまではないが。
湯加減も抜群だ。
湯船でゆっくりし、色々な疑問点を整理していたら、壁からセニアの声だ。
「アレンさん、熱かったりぬるくないですかぁ?」
「あれ?セニアか?どこにいるんだ?」
「外で湯加減調節してます」
薪の風呂だったらしい。
電気がま風呂に慣れたアレンに取っては新鮮だった。
「いい感じだよ」
「そうですか、では私は行きますね」
「ああ」
マーレのところに戻るらしい。
と思ったらしばらくしたらセニアが風呂にやってきた。
「アレンさん、背中流します」
「うぉ!?」
入ってきたセニアは下着なのか水着のような格好で胸と下を隠してはいたが、
それはそれは魅力的だった。
隠しきれていない胸と、キュッとしまったウエスト、肉付きのよい太ももは反則だ。
しかも見るからにスベスベだ。
湯気で見にくいけど。
「あ、あのぉ、アレンさん?そんなに見ないでください、恥ずかしいです」
「ご、ごめん。凄く綺麗だったし、スタイル良いなぁって」
「ふぇ?そ、そうですか?ありがとうございます、嬉しいです。さ、背中流しますよ」
「ありがとう」
お姉さん、前はいいです、今、息子がちょっと大変ですから。
とは言わないが、セニアも背中だけのつもりらしい。
しっかり洗ってくれたが、セニアは風呂場から出ていかない
「どうした?」
「いえ、このまま私も入ってしまいます。でも一緒だと恥ずかしいので」
「ああ、ごめん、先にあがるね」
「はい、タオルや着るものは用意してあるので使ってください」
風呂場から出て、リビングに行くとマーレがお茶を飲んでゆっくりしていた
「お風呂、先に頂きました、ありがとうございます」
「いえいえ、すぐに寝るかい?布団は敷いてあるよ」
「あ、セニアさんがお風呂に入ったので待ってます」
何時だがわからんが、そこまで遅くはないだろう。
「そうかい、じゃあ、お茶でも飲みながら少し話をしないかい?」
「はい、頂きます」
マーレがお茶を注いでくれる
流石に緑茶ではないようでハーブティーだろう。
「アレンさん、今日は本当にありがとうございました」
「いえ、トヤクソウのことはもういいですよ、食事とか頂きましたし」
「いや、それだけではないのよ、セニアのことよ」
「セニアさん?」
「私達、ウェアタイガーは16歳になったら一人立ちして、親元を一度離れて、旅に出るのが普通なの」
「はぁ」
「あの子は明るいし、優しいから故郷に残っているんだが、内心は悩んでいるんだ」
確かセニアは17歳だ。色々な事情あって旅立ててないのか。
「盗賊に襲われたり、流行り病とかでなかなか旅立たせてあげられてなくて、私も申し訳なく思っていたんだよ」
「そうですか、それで僕と出たのが旅立ちになったんですかね、近いですが」
「いえ、日帰りではダメだね、足りないんだ。大体は旅先で新しく住んでしまうか、年単位よ」
「大変ですね」
「アレンさん、一つ、私のお願いを聞いてもらえませんか?もし、アレンさんの迷惑にならないなら、セニアをアレンさんの旅に連れていってくれませんか」
「え?それはこちらも願ったりですが、村は大丈夫でしょうか」
「トヤクソウがあれば大丈夫です、大変でも村に残った人で頑張ります。いつまでもあの子に甘えてばかりではダメですし」
「そうですか。セニアさんはどうしたいんでしょうか、聞いてみてからですが」
「あの子がアレンさんのことを話しているとき、あんなにワクワク楽しそうに話すのは久しぶりに見ました。多分、本人も付いていけたらと迷ってるはずです。わがまま言ってすみません」
セニアが一緒なら心強い。
正直、ゲームと違うところがわからないし、食事や洗濯や色々問題もある。
それに、美女との二人旅だ。
仲良くなれればいいなぁ。
困難でも頑張っていけそうだ、願ったりだ。
まぁ、仲間はじきに増えるだろうが。
「危険な旅になるかと思います、大丈夫でしょうか」
「大人になるには必要なことです、それに、ウェアタイガーは戦闘力高いのできっとアレンさんの役に立ちます。セニアをよろしくお願いいたします」
ただの旅ではすまない。魔王討伐だ、特別危険だが、
深々とお辞儀された。ここまで言われたら断る理由は全くない。
お母さん、娘さんをください!
なんちゃって。
危険は他にもある、俺だって男ですから。魅力的な女性がいたらさぁ!あ、危険なのは俺か。
「こちらこそよろしくお願いします、とは言え、セニアさん次第ですが」
「私から少し背中を押しますので大丈夫です」
ばたん、とは扉が開き、セニアが出てきた。
「母さん、お風呂上がったよ」
「じゃあ、私も入ろうかね。二人ともお休み、ゆっくり休みなさい」
「はい、お休み、母さん」
「お休みなさい」
「アレンさん、考えてみてね、よろしく」
マーレが扉の向こうに歩いていった。
セニアと二人きりだ。
お風呂でほほが赤くなって、湯気を出してるセニアはかわい可愛い。
パジャマもだぼっとしていてやはり可愛い。
「何を話していたんですか」
「いや、世間話だよ」
「そうですか、もう寝ますか、アレンさん、今日は疲れたのでは?」
「結構ね、でもまだ平気だよ、セニアは?」
「私もまだ体力的には大丈夫ですね」
「でも寝ようか、明日も動かないといけないし」
「明日からはどうするつもりですか?」
「少しお金集めたり、レベルあげしようかと思っているんだ。その後はイレインに行って盗賊の情報集めかな」
「まさか、盗賊達と戦うつもりですか?」
「うん、ただ、すぐじゃない。あ、お母さんには内緒な」
「はい、でも盗賊は強いですよ?懸賞金懸かってるひともいます人もいますし」
「そうなのか、まぁ、また詳しく教えてよ。今日は寝ようか」
「はい、こちらです」
セニアが案内してくれた客間のような部屋には布団が一枚敷いてあった。
「それではまた明日。お休みなさい」
そう言って出ていってしまった。
うーん、一緒に寝てはくれないか。ま、会って初日じゃ無理だな、実家だし。
布団に入ったら、直ぐに眠ってしまった・・・