ギルと戦ってみた
次の日は通常に起きて、食事をし、マジャルとの魔法の訓練をした。
まぁ、一気に出来るようになるということはないわけだが、仕方ない。
セニアは少しずつストーンスプレッドがきちんとした石榑を形成するようになっていったみたいだし、
リルムも若干魔力が上がっているという自覚があるらしい。
ちぇっ、どうせ俺だけ出来ん子ですよっと。
慣れだ、慣れ。
しかしなぁ、魔法でセニアに負けるとは思わなかった、いやこれは失敬。
その後、ギルと合流し、模擬戦闘をしてみる。
マジャルの訓練が終わった時間、ギルは城の警備に当たっているらしい。
まぁ、近衛兵長だし、そりゃそうだな。
セニアは一回ボコボコにされていたが、果たしてどんな感じか。
セニアがギルに声をかけ、広場に移動しながら話をする。
「ギルさん、今日もお願いします!」
「構いませんが・・・流石ウェアタイガーは勇猛ですね、あれほど怪我したのに、諦めないんですか」
「ワクワクするんです、色々な戦いかたを試せたりしますし、経験を積めば必ず役に立ちます」
「わかりました、ただ、ちょっと立て込んでいまして、あまり長時間を割くわけにいかないのです」
「じゃあ、セニアと俺、一ダウンまでっていう感じでいかがですか?」
「ほう、アレン殿とも戦えると。楽しみですな」
「そりゃどうも、セニアがあれだけやられたのが不思議でして」
「なるほど。それはそれは。リルム殿はどう致します?」
「いえ、私は戦いません、ただ、アレンとセニアと合わせたチーム戦なら参加します、フォーメーションやチームワークを確かめるのにいい機会ですし。今日は様子を見ますね」
「なるほど、では明日以降でしょうか」
「明日以降でも私は戦わない気もしますが、あまり無用な戦闘はする気になりませんし」
「ところでギルさん、立て込んでいるって何かあったんですか?もしかして僕が小屋を破壊したことと関係あります?」
「あ、いえ、そちらは全く問題ありません、よくあるレベルの話です、怪我人も居ませんでしたのでお気になさらず」
よくあるんかい!
やっぱりリルムだけ大惨事だったみたいだ。
「では、なにが?」
「お客様であるお三方にはあまり関係ありませんが、今の時期はオーガーの活動が活発になるんですよ」
「オーガー?」
セニアはオーガーをあまり知らないようだが、リルムの表情は暗い。
「はい、エルガルドから見て北側の森深くに、オーガーの住処がありまして、警戒しているだけです」
確かに、オーガの谷っていうエクストラダンジョンがあったな。
素材か、守護聖霊をゲットするためのダンジョンであり、必須で行くべきところではない。
きっと今回の冒険では行くことになるが、まだまだ先の話だ。
オーガーはレベルが高いし。
「そうなんですね、大変ですね」
「まぁ、例年と変わりません、仕事ですし、皆さんが来られた時期がタイミング的に悪かったとも言えますが、お気になさらず。じゃあ、セニア殿、お手合わせ願います」
広場に着いた。
ギルはどこからか槍をだし、左手に持った。
しかし、構えとは言えない出で立ちだ。
槍の先を天に向け、右手は腰の横に下ろしたままだ。
城の入口で警護してるみたいだ。
「行きますよ!」
セニアは背中からドワーブンメイスを取り出し、ギルの右上面から叩きつける。
ギルは左手に槍を持っているため、右半分は丸腰である。
しかし、一撃目、『ガキン!』鈍い音がし、槍の持ち手でメイスを受けたらしい。
早いな。足は気を付けのまま、ほとんどノーモションで槍だけ右に出した。
セニアだってかなり早い。が、ギルは最小限の動きで防御している。
「ほう、昨日と武器が違うんですね、これはこれは、なかなかです」
表情を変えずギルは静かに評している。
こりゃ、かなり格上だな。
さらに、槍を少し引いてセニアの肩あたりに突き出す。
「っツ!」
クリーンヒットではないが、セニアの肩から血が流れ出た。
あれ?なんで避けられないんだ?いつものセニアだったら簡単に避けるぞ。
何かからくりがあるらしい。
セニアの二撃目。
メイスを遠心力で左右に振るう連続攻撃だ。
あれはメイストワリングという技だ。いつの間に使えるようになったんだ?
『ボコッ!』という音が2回、これは当たっている。
音はかなり痛そうだ。
しかし、ギルは涼しい顔をしている。全くダメージを受けていないみたいだ。
外皮がかなり丈夫なんだろうか。それだったら、さっきみたいな音がするかな。
その後も同じようなやり取りが繰り返される。
見ていてまずは、セニアが避けられない理由がわかった。
セニアが攻撃してる間にリルムに説明しておくかな。
「・・・間合いだな」
「え?」
「さっきのギルさんの攻撃をかわせなかったのは、間合いが違うからだ」
「アレン、どういうこと?」
「通常、槍はミドルレンジの戦い方をする。それがセニアは無意識で分かっているんだ」
「うん、そりゃ、槍ならそうだよね」
レンジとして、衝撃波のようなものや、攻撃魔法、弓、投げ槍、ブーメランなどはロングレンジになり、
鞭や槍は長尺刀はミドルレンジ、
剣や棍やナックルはショートレンジである。
完全に飛び道具がロングレンジ、相手と武器の接触はあるが武器のリーチで体が離れるのがミドルレンジ、
完全に相手との距離が肉薄するのがショートレンジと考えると分かりやすい。
「ギルさんは槍をショートレンジで使っているんだ」
「え?そうなの?全然わからないわ」
「ギルさんは左手に槍を持って構えてはいるが、実際に攻撃をするときは必ず右半分を前に突く。左手は実は軸になっているだけだ」
「攻撃前に上手く体を半身だけ反転し、左手側から右手側に槍を渡している」
「そうすると槍自体には遠心力が働き、槍を使うときに引き溜めをする必要がなくなる」
「結果として速度は上がり、右手で持った部分から先の長さレンジになり、ショートレンジになる。あれは槍に見えて使い方は片手剣に近い」
日本刀で戦うと思っていたら小太刀だったとかでも同じ錯覚を起こすらしい。
中條長秀だったか、そんな剣士が日本史にもいたかと思う。
しかし、小太刀は特化した流派があるかというとそうでもないからな、微妙に違うか。
「セニアは気付かないの?」
「かなり癖のある戦い方だから、対峙したら無理かな、セニアも言っていたように、何時の間にか見えないところから槍が突かれる感覚になるだろうな」
「それは予想している使い方と異なりすぎているからだ。セニアみたいに、戦闘センスが高いとやりにくい相手になっちゃうな。まぁ俺も観戦してるから分かる。セニアも端から見ればわかるはずだ」
「ふーん、なんかさ、アレンってそういうの分かるの凄いけどやっぱり普通じゃないよね」
「そりゃ、どうも。まぁ、そもそもセニアはギルさんみたい待ち型の戦いする相手は苦手だろうな」
セニアはどちらかというと特攻タイプである。
敵が手を出す前に先手必勝タイプ。
敵がそもそも後攻が得意だとなかなかやりにくいだろう。
っと、そうこうしているうちに、セニアがダウンした。
まだやる気はあるらしいが、ダメージが蓄積しているみたいだ。
「リルム、悪いが、セニアの治療を」
「わかったわ」
セニアはリルムに回収させて、アレンが対峙する
「ギルさん、面白い戦い方をしますね」
「仕組みがわかったのですか?」
「まぁ、槍の使い方が特殊だとわかりました。しかし、ギルさんがダメージを受けない理由はわかりません」
「・・・あ、それですか、それは、魔力ですよ」
「え?教えちゃっていいんですか?」
「構いません、あなた方は私の敵にはなりえませんし、そもそも教えたところで、打ち破られるとも思えませんし」
「面白いですね、それ以上はいいです、自分で考えてみます!」
そう言ってアレンはギルに向かっていった。
結果はほとんどセニアと同じ。
だが、アレンはセニアと違い、何となく攻撃の出所が分かるので、
そこまで虚に囚われはしなかった。
まぁ、小手で受けてもダメージは残るし、どうしようもないんだが。
ブラミスも言っていたが、盾を考えてもいい時期かもしれないな。攻撃魔法の使い手が欲しいな。
戦い自体はアレンもギルにダメージを与えられずに、疲労でギブアップとなった。
「いやはや、アレン殿、私の槍攻撃を結構防御しておられた、なるほどなかなかですな」
「いや、やはり決定打が出せないから勝てないですよ」
「ならば、明日もやりますか?」
「是非とも」
「わかりました、では私はこれで」
ギルは城へ戻っていった。
ちなみにアレンとしては、最強の技である一人合技の属性付与攻撃は出すつもりはない。
出したとしても、ギルにダメージになるかわからない。
奥の手は簡単には使わない。
それに、もし効いたとしたら今度は殺さずだ。
一人合技は威力がかなり高い、基本殺さないつもりの戦いで放つには色々な覚悟がいる。
魔力の暴走で小屋を壊すのはよくあることでも、近衛兵長が殺されるのは滅多にないだろう。
それこそ大惨事確定。
せめてダメージにならない構造がわかればな。
ダメージが0なのか、小さすぎて分からないのか、まずはそこからか。
なんだろうな、魔法か。うーん、また明日戦うまでに考えてみるか。




