歩き方と防御の仕方を学んでみた
次の日の朝、目が覚めると両腕をそれぞれリルムとセニアに抱きつかれて固められていた。
うん、嬉しいけど全然疲れがとれないな。
と思って二人の顔を眺めていたら、セニアがぱっちり目を開けてニンマリしている。
あ、計られた!
「ふふふ、おはようアレン」
「お、おはよう、セニア」
セニアたん、胸当たってるからね、いや待て、当ているんだな?ちくしょう。
「あぁ、二人とも早いね、おはよう」
しばらくするとリルムも目が覚めたようだ。
リルムの方はバカでかくはないが柔らかく形の良い胸が当たっていた。
こっちは多分当たっていたで正解なはずだ。
「リルム、おはよう」
「リルム、朝起き苦手だったっけ?いつも早起きなイメージだったんだけど」
「元々あまり夜更かしをしないのよ、でもリズムが狂うと駄目だわ」
サラリーマンかよ。
まぁ、これから冒険を始めたら夜更かしできないとかは言ってられなくなる。
慣れは必要だ。
「あのさ、二人とも、とりあえず離してくれ、嬉しいけど動けない」
「あ、ごめん」
「リルム、今何時?」
「10時くらいね、アルベルト卿達はもう起きているかしら」
「身支度してリビングに行ってみるか」
「そうね、リルムは?」
「私は二人が出てから着替えて追い付くね、ごめんね」
「あ、あぁ、大丈夫さ」
と言うわけでアレンとセニアがまず着替えてリビングへ。
程なくリルムも追い付いてきた。
「3人とも、おはよう、よく眠れたかな?」
「あ、テッハさん、おはようございます」
「アルベルト卿、今日は城には行かないのですか?」
「ああ、今日は休みを取ってあるよ。俺がしばらく居なくとも仕事は回るわけだよ、とりあえず、まずは朝食だ、腹が減っては戦はできんよ」
「いただきます」
「どうぞ、沢山召し上がって」
メアリーが用意してくれた朝食は焼き立てのパン、ハム、スクランブルエッグなど、普通の洋朝食だった。
しかし、見慣れないものもあった。
食べてみると葉物野菜を細かく刻み、酢のようなもので淡く漬けてある。
爽やかに広がる風味がここちよく旨い、ハムが意外と脂っぽいため、相性が抜群だ。
言うなればザワークラウトだな。
ただ、現実世界のものより旨い。
「食べ終わったら時間あるかね?」
「ええ、ブラミスと会うのは明日なので、今日は暇ですね」
「そうか、じゃあ、アレン君とセニアさん、二人とも俺と修行がてら戦わないかね?」
「ぜ、是非!」
「お願いします!」
「アレン君、あれだけ負けても戦うと言うのは凄いな、気に入ったよ、セニアさんもなかなかだそうだな、だがまだまだだろう」
「いや、勇者パーティーのテッハさんと戦えるなら経験になりますし」
「いいだろう、知っているだろうが、俺は重戦士だ、君たちは軽戦士であるが、簡単な体捌きや、剣術などは見せてやることが出来る、盗めるなら盗んでみなさい」
「あの、私はどうすれば・・・」
「リルム殿はすまないが、魔法がメインの君には私では教えられることが無くてだな、お使いを頼まれてくれないか」
セニアとリルムの戦い方などはアレンがテッハにボコボコにされて気絶しているときに話したと言っていた。
初めからこういうつもりだったらしい。戦いが好きなおっさんならそう言うもんかもしれない
「構いませんが、どうすれば良いでしょう」
「ふむ、この書簡をラルバに届けてくれないか」
「ええ、父にですね、わかりました」
「ちなみに内容はどんなですか?」
「いや、君たちが現れたのでな、しばし城を離れることになるんでな、引き継ぎと、長期休暇の話だよ」
「長期休暇は、カッシームとかに渡るから取られるのですね、なんかすみません」
「いや、それだけではないがな、君たちが悪い訳じゃないし、俺の役目だから気にするな、それに今すぐではないだろう」
「わかりました、ついでに家の者達に出立を伝えてきます」
「馬車はいるかね?用意するが」
「大丈夫です、一人だったら飛んでいった方が早いので」
流石フェザーフォルク。どれくらいの距離飛べるんだろう?
食事を終えると、リルムがもう出発するらしい。仕事人間だな。
「では。夕方には戻ります」
「ああ、気をつけて、夕食はまた皆で食べようか」
「アルベルト卿、ありがとうございます、ではまたお邪魔いたします」
リルムが左手にしたスカイリングに魔力を込めると、スカイリングが淡く光だし、心なしか翼が大きくなった。
そしてそのまま飛んでいった。
想像以上に早かった。
「リルム、飛ぶの早いね」
「なるほど、スカイリングは翼を制御したり、開放したり、封印したりのスイッチなんだな」
「ふむ、フェザーフォルクは皆持っているようだよ、あれによって飛ぶ時にゴーグルなど要らないんだそうだ。昔知り合ったフェザーフォルクが言っていた」
「そうなんですか」
「さて、じゃあ、俺たちも始めようか、手加減はいらないから全力でやろう、そうだな、まずセニアさんからにしよう」
そう言いながら、テッハは木刀のような物を武器として持ち出していた。
まぁ、アレン達は普通の武器を使う。
それでもテッハの方が強いだろう。
うん、マジで、稽古の感じだな。
「はい!」
「え?俺は?」
「アレン君は一旦見学だな、まぁ、よく見ておくんだ」
「では、失礼します!」
まずはセニアがビーストネイルで下から上に切り裂いた。
テッハは木刀の腹で受け流し、そのままの勢いでセニアの肩に向かい一撃!
しかし、セニアは身のこなしで躱す。
「ほう、素早いな、だが、元々鈍い重戦士は早い敵との戦い方は基本なんだ」
そのままセニアの後ろに回り込み、上段から木刀を振りかざした。
が、セニアはこれも避ける。
「身のこなしはピカ一だな、なら次はどうかな?」
そう言いながらまた、テッハは同じ斬撃を繰り出した。
難なくセニアは避けたが、
さっきより早く後ろにまわり込まれて、2撃目は避けきれなかった。
咄嗟に吹っ飛ぶ避け方をしたせいでダメージは減ったが一撃入った。セニアは肩で息をしていた。
「くっ!」
何が起きた?
普通なら、セニアが避けられる早さの攻撃を食らった。
あんな遅い攻撃がセニアに当たるはずないんだが。
そう言えばアレンも城でボコられたときにも、最後の一撃は見えていたのに避けられなかった。
「これが『めくり』だ。『めくり』は技じゃなく、基本的な戦闘歩法の一つ、まぁスキルと言うやつだな。
もう一回ゆっくり見せよう、セニアさん、もう一回攻撃してみてくれ」
「はい!」
「まずは普通の回り込みからだ」
そう言って踏み込んだセニアの横をテッハは急いで回り込んだ。
しかし回り込んだときには既にセニアも後ろを振り向いていた。
正直鈍い。
これではセニアはテッハの一撃を受けることはない。
そして、セニアはそこで一度止まった。
「よし、良い子だ、そのまま2撃目に行かなかったのはなかなか冷静だな」
「教えてもらうのに殴れません」
「まぁ、それは置いといて、次は『めくり』ありだ。アレン君よく見ていなさい、セニアさん、もう一度頼むよ」
「はい!」
全く同じように切りかかるセニアだが、
テッハはセニアの方に体を少し傾け、流れるような動きで後ろに回り込んで見せた。
セニアはまだ元の方向を向いて、視線と首だけを辛うじて振り返っている途中だった。
そうか、歩数と重心か、横に重心を上手くずらすのか。
一度目はセニアの後ろに回り込みまでに四歩あるいていたが、今回は一歩半。
その差は時間にして1.2秒ほど。
その分対応が早くできなかったからセニアも完全に反応できなかったわけだ。
「どうだ?アレン君、見えたか?
めくりは相手の側面に、相手に近い側の足を出す。
その足、特に爪先を起点に相手から遠い手を回り込ませるように回転させる、
その反動で体ごと後ろにまわり込むんだ、
確実に成功させるのは俺でも無理だが、非常に役に立つ。
特に自分より早い相手や、正面に立ちたくないときにはな。
苦手なのは自分の歩幅よりデカイ敵との場合と、手数で稼ぐ連撃ヒット中は使いにくいことだ」
「私も見たいです」
「セニアさん、後で幾らでも見えるし、めくりは君はあまり役に立たないから後にしよう。次はアレン君。セニアさんは見学だ」
「はい、わかりました」
「お願いします」
「次は、練気を披露しよう、その方がセニアさんには良いだろう」
練気?知らない技だ、それも技ではないのか。
「練気は、ダメージを受ける部分に意識を集中して防御力を上げる技術だ、これも技じゃない。」
意識を集中して硬くなる。
海綿体に血液を集中させると硬くなる。何がかは言わないが。
一緒のことだ、下ネタか。
いやいや、テッハはそんなつもりがないのは分かってる。
「俺も痛いのは嫌だから、さっきみたいに練気有り無しで傷を見比べるわけにはいかんが、アレン君、切りかかってみてくれ」
「はい、行きます!」
テッハは指先に意識を集中しだした。
だが力を込めているわけではないようだ。
指先がぼんやり光っている気がするが。
構わずバゼラートを上段から切り下ろす。
ガキン!
テッハの指先に当たったはずだが、少し鈍い音がした。
切った手応えはあるが、肉を切った感じではない。
「と、まぁ、こんな感じだ」
テッハは手をヒラヒラさせた。
小さい傷はあり出血もしている。が、バゼラートで全力で切った傷には見えない。
言うなれば彫刻刀で切り傷を付けたみたいな。
「テッハさん、怪我してるじゃないですか」
「まぁ、気にするな、これくらいは軽症だ、すぐ治る」
「そうですか、なんかすみません」
「いや、大丈夫だ、分かったろう、練気はダメージ軽減であって、0には出来ないんだ」
「なるほど」
「今回は分かりやすいように、指先に意識を集中してみせた。だが、慣れてくれば実際はほとんど無意識でやれるようになる」
「凄いな。かなりダメージ減らせるわけだ」
「まぁな、ただ、難しいのは敵の攻撃する場所をピンポイントで察知することだ、しかもかなり早めにだ」
「あと、魔法に対しては効果がなく、斬撃や打突などの物理攻撃にだけ効果がある。しかし自分の体のどこでも良い訳じゃなく、筋肉や太い血管があるところだ。指先はかなり熟練しないと出来ない、だからそもそも全身にダメージを与える攻撃や、致命傷や一発殺し技には効果がないのも弱点だ」
タンスに小指をぶつけると凄く痛いわけだが、それは不意に訪れる激痛だからだ。
分かって気構えていたら痛さも減るのでは?
いや、分かっていてする怪我ってどんな怪我だよって話だが。
「まずはこの二つを覚えておくんだ。ダメージがぐんと減るはずだ。
相性や戦い方からはアレン君はめくり、セニアさんは練気からだな」
「元々身軽なセニアはめくりのような方法があるのを理解した上で、覚えるのは防御力を上げる練気と言うことですね、あくまで元から避ける前提で、当たったときの保険ですね」
「そういうことだ」
「アレンは当たることは多いけど防御力が高い装備出来るしね」
「そうだ。とりあえずは今日はお互いにめくりか練気を使えるようにしよう、それ以外はまたにしよう」
また?気になるなぁ。
「アレン君、まずは余計な力を入れないよう、ひたすら疲れてみよう」
え?マジで?
「ちょうど良いから二人で休み無しに戦いなさい、
セニアさんは練気の練習も兼ねてだから、回避禁止ね。
イメージは生命力自体を集中させることだよ。
後、二人とも武器はこれね」
木刀のような棒を渡される。
え?このおっさん、マジで言ってるの?
セニアと戦うの怖いんだが。
「えっと、アレン、じゃあよろしくね?」
「あ、あぁ、でもセニア木刀で?」
「まぁ、棍として使ってみるね」
怪我させないように、じゃないな怪我しないようにしないと・・・
先にへばるのは俺だろうし。
と、とりあえず昼まで頑張ろう!




