いきなり勇者になってみる
よし、完成だ・・・我々は自らの世界をゲーム内へ封印、異世界へ送り込むことに成功した。
このゲームを真に考え抜き、我々の世界を救う者が現れることを祈る・・・
誰でもいい、助けてくれ・・・
『勇者の活躍で魔王は倒され、世界に平和が戻りました』
~to be continue~
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幾度となく見ている画面ではあるが、毎回やりきった感と充実感はある。しかし残念な気持ちにもなる。
「・・・終わったけどまたノーマルか」
彼の名前は来栖 漣。17歳の高校生だ。高校生と言ってもそこいらにいる通常の生徒とは毛色が違っていた。
彼はアメリカの超有名大学の試験も既に突破し卒業資格まで持っている。
小さいころから本が好きで、何故か一度読んだ本の内容はすぐに理解し、覚えてしまう。特に星や言語、百科事典、神話などは読み漁った。
運動をさせれば球技や走るのも得意、剣道部の主将でもある。いわゆる文武両道の天才だ。
但し、漣は能ある鷹は爪を隠すを地で行くタイプだった。
小さいころに両親が莫大な財産を残し事故で亡くなってから、
彼は親戚にたらい回しにされ、目立つことにより面倒くさいことが起こるのを経験していた。
親戚とはいえ、財産目当てで近寄る汚い大人ばかりだったので、漣は中学を出る頃には親戚に見切りを着けて、完全に自活していた。あくまでも目立たないように、普通のアパートを借りて。
そんな性格の漣は人を見下したりもしないし、相手がしてほしいことなども考えられていたし、目立つのを懸念し大学ではなく普通に高校に通い、普通に授業を受ける生活をしていた。やりたいことがあるわけでもない、ゆっくり学生のうちに考えればいい。
もっとも漣は教師の説明などは不要ではあるが、サボると目立つのでとりあえず居るだけであり、授業は聞いていないことが多い。
漣には、普通に友人もいたし、女子からの人気、教師からの評判も上々だった。
「ねぇ、漣。まだアレやってるの?」
「あぁ、昨日また全クリした。」
「相変わらず早いね。3日くらいで一周してる?で?エンディングは?」
「ノーマルだよ」
「よく飽きないね~、漣がここまで熱中してるのって珍しいよね」
学校からの帰り道、漣は幼なじみでお隣さんの由美と話をしていた。
天才である漣がハマっているもの、それは、ホワイトクエストというRPGゲームだった
VR技術の先駆者的なこのゲームは発売から数年経っているが、完成度が高くしかもマルチエンディングであり、未だに根強い人気がある。
また、エンディングでto be continuedと出るのもあり、そもそも複数回プレイすることが前提となっている。
ストーリーはしっかりしているのにも拘わらず、エンディングはプレイヤーのあらゆる行動で決まり、現在発見されているだけで100種類以上あり、狙ったエンディングを迎えるのは至難の技だった。また、攻略や攻略サイトにも全エンディングは記載されていない。
というかそれがホワイトクエストの名前の由来でもある。エンディングまでの物語は真っ白であり、プレイヤーが色をつける。変わった色になることもあるだろう。
紆余曲折はあるが、大半のエンディングは魔王を倒し世界を救うパターンであり、それはノーマルエンディングと呼ばれていた。
中には魔王と結婚し平和にするパターンや、勇者が闇に堕ち世界滅亡するパターンなどのレアエンディングが用意されている。
「でもさぁ、激レアエンディングって、本当にあるわけ?ソシャゲの課金ガチャでもないんだし。」
由美が漣に聞いた。
「さぁ?あるかも?くらいしかわからんよね。まぁ普通のプレイで見つかる代物ではないね。」
自分は普通にプレイはしませんと言っているようなものだ、デバッカーとか向いているかもしれない。
《ホワイトクエストには激レアエンディングが存在する》
発売当初からそんな噂が流れてる。to be continuedではなく、Finと表示される、真のエンディングがあると。
しかし、どうすれば激レアエンディングにたどり着けるのか、どうなるのかなど全く情報がなく、眉唾物かもしれない程度の噂である。
そもそも激レアエンディングを見た人がいればなんらかの情報がでそうではあるが、全くといって良いほど情報がなく、発売元が売れるために流したデマという説もある。
漣はそれを探していた。天才の漣は一度見たエンディングとどういう行動でそのエンディングになるかなどが全て記憶している。
そんな漣でもレアエンディングはかなりの数を見ているが激レアエンディングはまだ見ていない。
「まぁ、ゲームとしても面白いし、いいんじゃね?」
「ゲームばかりしてても成績いいからうらやましいわ。あたしは一回で満足したけど、漣は完璧にやり尽くすタイプだもんね」
「まぁね、気になるからなぁ。じゃあ、また。月曜日ね、バイバイ」
「またね」
由美とわかれ、漣も家に入る。
「今日もホワイトクエストやるかな、土日で一周しよう」
ゲームの電源を入れ、プレイを開始する。通常、ホワイトクエストは一周30時間程度と言われているが漣は一周15~20時間程度で終わっている、余計なことをしなければ。
ホワイトクエストは勇者を主人公とし名前、性別を決めるところから始まる。性別によりイベントが増えたりするが、エンディングには影響しない。選んだ性別により魔王の性別が勇者と逆になるだけだ。
次に初期メンバーを選ぶ、職業、名前、性別。仲間は後から加入するものもいるが、3人は必須である。
ここらへんはエンディングに影響することもあるが・・・
全てノーマルエンディングの中でイベントが変わるくらいだ。
「さぁ、ニューゲームっと・・・」
「勇者の名前は・・・レンにしよう」
いつもはソルという名前を使っている。ソルとはポルトガル語で太陽を意味しており、勇者にふさわしいと気に入って使っている。今日は気分で自分の名前にしてみる。感情移入しすぎだ、これで変なエンディングだったら気分が悪い。
「戦士は男でテッハ、魔法使い女がルーア、僧侶女がステラ」
初期仲間の名前はいつも通り全て星の名前にする。漣は星が好きだった。
漣はこれまで色々試していた。
ラスボス前に勇者が死んでいたら?
ラスボス前に仲間が全滅し勇者が一人だったら?
初期メンバー以外でパーティー構成にしたら?
全員異性だったら?
仲間がめちゃくちゃ仲悪かったら?
初期メンバーが全員盗賊とか偏らせたら?
などなど。
そもそも勇者が死んでいたらラスボス前の会話イベントが起こらないし、勇者が居ないと魔王にはどうやっても勝てない。
仲間が全滅でもラスボス前の会話が始まらず、ラスボス戦も開始しないため駄目。
初期メンバーか後から加入するメンバーかは関係ない。
全員異性だったらハーレムイベントが追加され最終決戦前にイベントが追加されたりはしたが、エンディングには影響なし。
仲間の仲が悪かったら勇者が闇堕ちしたり、裏切りにより勇者死亡などのバットエンディングにはなったが、激レアエンディングではない。
仲間の職業はあまりエンディングに関係ないようだった。ならデフォルトの戦士、魔法使い、僧侶でいい。変な要素は入れないに限る。
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※魔王城付近 最後の野営場にて※
『なぁ、レン、お前、魔王倒したらどうするよ?』
『さぁ、考えてない、今は魔王に集中したい』
『ルーアは魔術学校の先生になりたかったそうだ、生き返らせずにここまで来たがよかったのか?それにステラだって司祭になると言っていたのにずっと死んだままだ・・・』
『魔王倒したら生き返らせる、そういうテッハこそ、どうするんだ?』
『俺は・・・しばらくはトレジャーハントと賞金首を狩っていくかな』
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ラスボス前の会話である。
今後の生き方を語る名シーンだ。
もちろんここでも勇者には選択肢がある。未定、ゆっくり隠居、諸国を旅する、力を封印する旅に出るなどなど。選択肢はこれまでの冒険の進め方で増えたり減ったりするようだ。
しかしどれを選んでも、エンディング後のエピソードが変わるだけでエンディングその物が変わるわけではない。
「あれ?この会話パターン初めてだ」
ノーマルエンディングの場合、戦士は王国騎士団の近衛兵長になることが決まっている。
それに他の仲間のクリア後の職業も決定ではなく、希望なのも気になった。ノーマルエンディングでは打診されていたりともっと確定要素が強い。
さらに今回は勇者に選択肢がないまま会話が進んだ。
「レアエンディングっほいな、これ。」
今回、漣・・・いや、勇者レンはほぼ一人旅をしている。
最初のイベント戦闘で仲間3人を死亡させ、そのままである。
とんだハードモードだ。お陰でラスボス前の会話までに2週間かかっている。
戦士テッハだけはラスボス前の会話イベントを発生させるため、一時的に生き返らせたが、レベルはもちろん1のままだ。
ゲーム内でもクリア後の職業に関する記述はレベル制限があるのかも知れない
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そのままラスボス戦まで話を進める。戦士テッハはレベル1なのですぐに倒れてしまう。
『勇者よ、よくぞここまでたどり着いた』
『魔王!覚悟!!』
『たった一人で何が出来る?死ぬのは勇者、貴様だ』
勇者と魔王の戦いは熾烈を極めた。
とはいえ漣にとっては何回もやっている戦闘であり、
何ら変化はない。
そのうちに勇者の斬撃がクリティカルヒットし魔王が倒れた。
『終わりだ、魔王!』
『さ、流石だな、ゆ、勇者よ。だ、だが、光あるところに闇もある。束の間の平和を楽しむがよい・・・我はしばし眠りに就くとしよう・・・我が次に目覚めたとき、貴様は年老いて戦いはできまい!』
暗い闇が勇者レンを、漣の視界を襲った
『き、消えた。終わったのか・・・皆を生き返らせないと・・・』
そのままエンディングへと続いていく・・・が何もかも通常と違っていた。
通常は王国に行き魔王討伐の報告になり、その後が描かれているはずが、王国ではなく、とある聖域に勇者が聖剣を封印する場面だけで終わった。
『魔王が倒されて50年後、再び世界が闇に包まれようとしていた・・・』
Can you continue with your life?
_
Y or N
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「あれ?倒したよな?消えたとか初めてだ。それに魔王のセリフもおかしいし、最後の文・・・命をかけてって。初めてだ、最後の文がto be continued以外なのは。しかも入力待ち・・・」
遂に激レアエンディングか?
胸をドキドキさせながらキーボードのYを叩く。
そのとき、まばゆい光が漣を襲い、漣は気を失った
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小鳥のさえずりが聞こえる
目が覚めたとき、漣は森の木漏れ日のなかに倒れていた。
「ここは・・・どこだ?」
明らかに自分の部屋ではない、さらに身に付けていたゲーム用VRゴーグル、コントローラなどもない。
「ようこそ、勇者レンの意思を継ぐものよ。」
頭の中に優しい女性の声が響く
「誰だ?そしてここは一体?」
「ここはあなた方の世界では『ホワイトクエスト』と呼ばれている世界です。私は統治している女神でユミルといいます。目を閉じてみてください」
ゆっくり漣が目を閉じてみると、神々しく美しい女性の姿が脳裏に浮かんだ
「え?由美?」
「由美とは、誰でしょうか。私はユミルといいます。」
由美にそっくりだったが別人のようだ、確かに由美はこんなに巨乳じゃない。
「驚きました。まさか、本当にあのエンディングにたどり着くものがいるとは。」
「やはり、あれが激レアエンディングだったのか?実在した・・・」
「はい、但しエンディングではありません。あれは始まりです。条件を揃えることが出来る頭脳の持ち主だけが、勇者の意思を継ぎ、勇者となれます。」
「条件とは?俺はどうなった?」
「まだそれは話せません。私からは、本当の魔王を倒すためにこちらの世界にお連れしたとだけ、言っておきましょう」
「いやいや。そんなことが現実に?ありえない!」
いや、待てよ、だからか。
激レアエンディングの情報が極端に少ない理由はこれか!
激レアエンディングを見たものは軒並み異世界、つまりはホワイトクエストの世界に飛ばされるから情報残せないということか!
そもそも軒並みというほど経験者が居ないのかもしれない。
「今はあなたがプレイヤーだったホワイトクエストより48年後で
す。今から2年後に魔王が復活します。しかし、勇者レンや他の仲間たちも歳をとり、魔王に戦える状態ではありません。」
「子どもとかは?ホワイトクエストには平和にその後を暮らす勇者たちが描かれていたエンディングがあったはずだ。」
「詳しくはまだ言えませんが、勇者はとある事情で子どもを残していません。あなたが言う他のエンディングについてもいずれ説明しますが、今は知らない方が良いです」
「俺は元の世界に戻れるのか?」
「・・・」
「元の世界の俺を知ってる人は?俺は失踪したことになるのか?」
「・・・あなた次第です。今言えることは、『あなたが勇者レンです、2年で魔王を倒せる人材になってください』ということだけです。」
ば、馬鹿な!?
そんなことが現実にあるのか?
この女神を問い詰めて聞きたいことが山のようにある。
出来ればそのまましっぽり・・・
いやいや。まずは状況把握だ!
「すみません、時間です。あまり長時間話すことは出来ません、また話をする機会があることを祈ってます」
「ちょっと待って・・・」
ユミルは消えた・・・
なんてことだ、これからどうすれば・・・。