俺は教育者である
闇魔法により、俺はロールズから北に20㎞程の所へと屋敷ごと転移した。
もちろんここは予めこの屋敷を置く為に地盤は固めてあるし、風の魔道具を使って常に結界を張っている。
今後はここも拠点となるのだ、気合いを入れなくては。
大掛かりな転移ではあったが、この程度なら俺の魔力は全然尽きやしない。転生前は服装を変える魔法3回分ぐらいでばててたのに。
ふと物思いに耽っていた事に気付き、作業に取り掛かる。
先ずは魔法陣を敷き詰めて正方形の立体魔法陣を構築する。幅が約1メートル弱といった所だが、問題はない。
その中に、先ずは金髪の虎魔人の赤子を入れる。
更に俺も入り、魔法陣ごと異空間に入る。
これで少しの間この赤子と俺は2人っきりだが、他のみんなは少し放置になってしまう。
出来るだけ早めに、かつ正確に終わらせなくては…
深呼吸を1つ、気持ちを落ち着かせる。
異空間の中では重力が存在しない為ふよふよと流されてる感覚だが、ここで闇魔法を使って周りの感覚すら消す。
この立体魔法陣は、以前出来たヒマワリの変異種から俺なりに考察して土魔法で繊細に魔法陣を構築したちょっとした芸術作品でもある。
魔力があればこんな事まで出来てしまうのは驚きではあるが、流石に魔術では多少の雑さは否めない為、失敗のリスクがある。
その為に俺も一緒なのだ。
失敗しても多少なら闇魔法でカバー出来るし、そもそも魔法陣はメインではなくサポートなのだ。
俺は闇魔法でヒマワリを変異させたように虎魔人を包みながら質量を上げてどんどん濃くしていく。
深い闇が更に闇に包まれて深くなるようなイメージだろうか?
包まれている虎魔人はもちろん見えないが、闇魔法の感覚でわかる。
今回やる変異は見た目とかではなく、魔力電導率と先祖返りの2つである。
魔力電導率は、魔術を使う際にいかにスムーズに出来るかを表しており、出来るだけ早い方が無推奨が可能になる。
先祖返りは、元々の血が時代と共に薄くなってしまっているのを濃い状態に戻す事で、簡単に言えば見た目は変わらないが能力が上がる。
もちろん理論上でしかないが、俺が思い付いた事だ。期待出来るし成功させなければこの赤子は死ぬだろう。
だが仕方ないのだ、この世は力がなければ生きていけない。力を付けさせるのは教育者の務めなのだから。
この作業を全員分終えた頃には辺りは夕陽が沈む頃だった。
流石に帰らなくてはまずい。
せめてサイレスよりは早く!
俺はその後、13人の子供を闇魔法で異空間の中に入れ、転移で家へと着いた。
「あれ?どこにいたの!?探しちゃったじゃない!!」
レイヤが俺を見つけて駆け寄ってくる。そのまま抱き着かれながら揉みしだいていると、大丈夫そうね。と軽い返事が返ってきた。
まぁ今日はかなり魔力を使ったから正直いつもよりしんどいが、まぁ何とか大丈夫だ。
夕食時になり、サイレスが帰宅し、俺が普段見つからない時があるとレイヤが話題に出したがサイレスは、俺も昔はやんちゃだったからなぁ。と嬉しそうに俺を撫でようとしたので手を振り払う。
あはは、と乾いた笑いではあるが父は愛情を俺やマルタやサラにたっぷり注いでいる。
まぁ俺からしたら20そこそこの青二才が俺の頭を撫でるなんて5000年早いわ!
とか考えながらレイヤが頭を撫でてきたので、胸に顔を押し付けて甘えさせてもらった。
「オギャーーーーーー!!!」
「ブエェェェェェェェ!!!」
「ウラウラウラアアア!!!」
今日もミルクタイム争奪戦は朝から始まる。
惜しくも敗れた俺は仕方ないので小さくなったベビーベッドから降りて寝室へと向かう。
ここにはマルタやサラは知らないが、昨日情事に耽っていた香りが残っている。
洗濯される前にここを占領した俺は敗北感を忘れさった。
そこに、久しぶりの休日となるサイレスが俺の所へとやってくる。
「あれ?もうおっぱいねだりは辞めたのか?」
いやらしい笑みを浮かべてくる人間だが、俺は偏見で人を見下したりはしない。ただ人間としてこいつには劣っていないと思っているから見下しているだけだ。
俺は昨日情事中に闇魔法でこっそり拝借したレイヤの下着を右手に握りしめながら、サイレスを見下したようにふんぞり返る。
「あ、やっぱクロムが持ってたか!ダメだぞ?レイヤは俺の女だ!おーけー?」
2歳児に話すような言い方ではないが、彼はいつもこんなんだ。別に威厳を持てとは言わないけどさ?
俺は下着をひと舐めしてから仕方なくサイレスに返すと、嬉しそうに俺の腕を掴んだ。
「やっぱクロムは俺に似てる!!ちょっと見せたいのあるから、行くよ?」
そう言って俺を肩車して一階へと降りて庭へとやってきた。
乗り心地は安定しており悪くなかったが、何を見せようってんだ?
俺は降ろされて腕を組んで見守る。
するとサイレスは、落ちていた木の枝を拾ってから、木を揺らす。
あーあー、あんな揺らしたら上から葉っぱ落ちてきちゃう…
そう思っていると、サイレスが真剣な表情を見せて、枝をスッと上に向けて動かした。
凄く速かったが、俺には何とか捉える事が出来た。
「…っ!」
俺は思わず生唾を飲み込む。
ヒラヒラと舞い落ちる木の葉は、全てが真っ二つに割れていたのだ。
「どう?パパはこう見えて強いんだよ?」
そう言っておちゃらける彼はいつものサイレスだが、さっきの映像が脳裏に焼き付いて離れない。
「…すげぇ。」
思わず口にして父親の背中を見ていると、思わず彼が振り返った。
「あ!今すげぇって言った!言ったよね!?レイヤ!レイヤー!!」
トタトタと走ってくるレイヤが、なにー?と忙しそうにしながらもやってきた。
「いま!クロムが、すげぇ!って喋ったよ!すげぇって!!」
それを聞いたレイヤは、面白くってクスりと笑った。
「ええ、それは良かったわ。寝言でミルクタイム、て言ってたから多分喋れるんだろうなって思ってたけど。」
「…そういえばマルタもママとかちょうだいとか、喋ってるからクロムも喋るか!」
そう言って2人して笑いあっていた。
俺としては弟であるマルタが自分の母親に興奮を覚える変態児である事に将来の不安を感じていた。
すると笑いあってたサイレスが、真剣な表情で俺の方を見た。
「剣技、覚えたければ教えてあげるよ?」
素直にかっこいい、そう思ってからハッとした。サイレスって見下して見てたけど、意外と凄いんじゃないか?
今度仕事してる所でもクロムeyeで見てみよう。
俺は魅力的な誘いをどうするか腕を組んで考え、強く頷いた。
剣ならまだしも、枝で葉を切るって、相当なんじゃなかろうか?
戦闘経験の浅い俺からしたら、凄い大きな背中に見えた。
俺はその日から、闇魔法で屋敷へ転移する頻度を増やした。
毎日2〜3時間転移してみんなの成長を見守っていたが、このペースでは遅いと考えた。
強くなるのに、時間をかけるのは得策ではない。いつ何があるかわからないのだから。
少し焦りすぎな気もするが、13人の中から3人選抜して俺の教育を1日中叩き込んだ。
虎魔人の女の子。狼魔人の女の子。鮫魔人の女の子。
何故かみんな女の子で固まったが、選んだ理由は元祖魔術で判断している。
虎魔人は結晶、狼魔人は銀、鮫魔人は氷。
戦闘においてこの3つは圧倒的に強い。
戦闘要員を育てる為の選抜のようになってしまったが、強くするには即戦力という大きな安心が欲しいのも事実だ。
幸いにして2歳頃に思える彼女らなら、今から始めればスピードは速かろう。
もちろん他の子にも魔術は早い内から使える様になり次第ガンガン使って貰うが、まだ誰も使えない。
だが、この3人には闇魔法を使って無理やり魔術を使わせる。
まず異空間へと2人で入り、闇魔法が使いやすい環境で身体の中に直接闇を送り込んで無理やり魔術を発動させる。
こんな事が出来るのに全員に使わないのには理由がある。
1つ目は、本人への干渉が大きい分、闇の影響を受ける可能性がある事。
望まぬ状態で闇が入って来れば精神への異常や、身体そのものへ異常を来たす場合が考えられる。
2つ目に、元祖魔術は覚えてしまえば手足の様に使えてしまう。そうなれば分別のつかない子供が扱うには危険だからだ。
そして3つ目、魔力滑稽に陥って死に至るケース。俺が制御すれば問題ないが、いつ使って魔力滑稽が起きるかわからない赤子には13人もいると無理だ。
そこで選抜した3人。
本当は他にもダイヤの原石揃いだから即戦力として安心はしたいが、俺自身の限界がある。
これは大きな課題かも知れない。
それになりより、奴隷を買ったが、俺は奴隷として扱うつもりはない。
こいつらは、可愛い教え子となるのだから…