闇取引
なぜ、こうなった…
「ウギャアアァアアア!!!」
「ホンギャアアアアア!!!」
「ウォリャアァアアア!!!」
俺の方に視線をよこし、1つ溜め息をつくレイヤ。
「もう、クロムはいらないでしょ?」
黒髪の弟と、俺と同じ水色の髪の毛の少女を抱きかかえて2人にミルクタイムを与えている。
あれから更に1年が経ち、新たに妹が産まれた。
妹の名はサラ。
俺と同じ魔人であり、マルタは人間であるが、サラは女だからかそこまでミルクタイムを主張しない。
だが、レイヤが1番ミルクタイムを与えようとするのは贔屓目に見なくてもサラである。
俺とマルタは奪われた気分だ。
というか俺はマルタに奪われてから回数が著しく減っていたというのに…
「なあクロム、レイヤに懐いてるのはわかったけど、俺だってパパだぞ?」
俺は腕を組み、鼻で笑って返す。
「もう言葉も理解してるって捉えていーんだよな?」
サイレスがレイヤに問いかけるが、俺が言葉を一言も発さないし聞く耳を持たないからか苦笑いである。
そして、ここ最近はマルタとサラがいるから金の面でもサイレスは休日も返上して仕事に行く機会が増え、レイヤも育児に毎日が追われている。
俺は最近、転移を使える様になって、目を盗んでは色んな所を歩き回っている。
もともと闇魔法使用→異空間→闇魔法で別の場所に視点を動かしていただけなので、今度は視点ではなく本人に代わっただけ。
何も難しい話しではない。
「よ!坊主。今日もなんか持ってんのか?」
彼の名はウォック。厳つい豚魔人だ。
スキンヘッドのお前の方が坊主だろ。
と心の中でツッコミながらも、右腰にぶら下げている袋に手を突っ込む。
袋には別に何も入れてないが、闇魔法を使える事を隠しているだけだ。
「ん!」
俺は無造作に右手を前に出し、握っている物を握らせた。
「ほう、こりゃ本物の魔石だな!ったく、いっつもどこで手に入れてんだか。」
そう言いながら金貨を30枚俺の右手に握らせる。
ここは暗い路地裏の人気の少ない区画。そこでは闇取引が盛んで、俺はクロムeyeで1番有力そうなウォックに目を付けて今では顔馴染みになっている。
因みに、魔界の頃の金貨は全部使えなかったので火魔術で溶かして金としてウォックに売った。
最初は俺が何処かのボンボンだと思い攫おうとしてきたが、土魔術と火魔術で返り討ちにした。
そのおかげか、彼のいるジョーカーという組織は俺の大事な取引相手である。
「ん!」
金貨30枚を数え終え、左の袋に入れてからもう一度右手を差し出す。
「…これ以上は無理だ。」
そう言いながら金貨を10枚握らせてくれた。
金貨は5枚あれば1年は遊んで暮らせる額だ。
だが俺はウォック経由でジョーカーを使う事で、既に資金はかなり貯まってきており、ざっと金貨180枚。
これはもちろん、2歳児が持つような額ではない。
「…それより、ガルさんがお前に会いたいってんだけど、坊主喋れんのか?」
ガルとは、ジョーカーの元締め、要はトップである。
俺は首を横に振り、もう1つ彼に魔石を渡し、深く頷く。
「…わかった。この業界に足突っ込んでんだ、ガキとはいえ世間の渡り方知ってやがる。」
ウォックはニヤリと不敵な笑みを浮かべてから魔石を大事そうに小箱へと入れる。俺の見立てでは魔石は金貨40枚より、もっとするだろう。
しかし、これもまた仕方のない事だ。
俺みたいなガキが魔石を売って金を得るには正攻法では無理だ。彼らを通すしかない。
俺は地面にしゃがみ、土の中級魔法で俺の周りを煙突の様に囲み、中が見られない内に闇魔法で転移する。
黒いフードをかぶり直したウォックは、苦笑いで歩いていった。
今は隣国の、ラースに来ている。
転移だと一瞬だし、先に闇魔法で転移しても良い場所を確認してあるから問題はない。
ここに来るのは2度目で、今日は買い物に来た。
そして、以前ウォックから聞いていたある人物の元を訪ねる。
コンコン、ノックは2回。これはこの人界でも共通である。
中から現れた男は、龍人のいかにも危険そうな雰囲気で、金髪と金色の牙が印象的なザックという男だ。
まぁ魔王様と対等に話していた俺からしたら何て事ない相手だ。
「…この前見に行った家でいいんだな?」
俺は頷いて中に入る。
この前来た際にザック同伴でラースを見て回った。気に入った物件があり指差したらいくらでそこを手にできるか教えてくれ、その金額を用意してやってきたという訳だ。
2歳児の俺に書類を渡して来て、俺はそこに指印をする。彼もこの道のプロだ。相手が変わり者でもキチンと対応する。
おれは約束通りの金額130枚と魔石を1つ握らせる。俺は魔石なら腐るほど持ってる。
因みに、家の相場は100枚だが、俺が買うのはかなり大きな二階建てである。が、ワケあり物件の為格安なのだ。
「…チップか?」
魔石を見ながらニヤけそうになるザックが俺に聞いてくる。彼のニヤけ面は君が悪いな。
俺は首を横に振り、外に向けて指差した。
「…わかった。」
彼は苦笑いで俺と共に外に出た。彼はこう見えて意外と物分りが良い。もちろん何も言葉を喋らない俺相手には充分という意味で、すんなり何でも理解してくれる訳ではないが…
俺はあるスラム街に来ていた。柄の悪さは国の外れにあるせいもあるのだろう。
「物件見に行くんかと思ったら、まさか奴隷市とはな。」
ザックは苦笑いで俺の後ろを歩く。
そう、今日のメインは物件ではなくここである。
中に入ると、檻の中に様々な人種の奴隷がわんさかおり、あちこちで目玉の競りが行われている。
「5枚!」
「いや、俺は6枚だ!!」
「6.5枚!!」
あちこちから飛び交う声を聞きながら奴隷の相場を計算する。
目玉で5枚ぐらい。
1枚あれば俺の買いたい奴隷はすんなり買えるんじゃなかろうか?
というより、金銭感覚が人界で把握していたのも少し誤りがあるのかも知れない。
金貨5枚で1年分遊んで暮らせる額というのは、ウォックの言で、この業界の人間の言葉を鵜呑みにするべきではなかったのかも知れない。
俺はそんな事を考えていると、ザックが手を引いて俺を先導し始めた。
何かと思ってついて行くと、地下に降りたあたりで綺麗な扉の前までやってきた。
「丁度いい機会だ、ガルさんはここにいる。」
俺はその言葉を聞いて、溜め息を1つこぼして扉をノックした。