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中国旅行記 リニアモーターカー

作者: 土車

  バスが停車した。

私は空港に着いたのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。ガイドの説明によると、ここはリニアモーターカーの駅だという。

リニアモーターカーに乗るとはスケジュール表には載っていなかったが、ガイドは「これで空港まで行きます。これで行くと予定より早く、空港に着くことになると思いますけど、みなさんその方がいいでしょ」と言うところを見ると、早くこの仕事を終わらせて帰りたいのだろう。無理もない。案内をしている間ずっと、永遠、四六時中、文句しか言われないのだから堪ったものではないのだろう。

 その時、私はガイドの「予定より早く空港に着く」という言葉を聞いて、心の中で喜びの声をあげた。空港に着けば、最初は手続きなどで一緒に居なければならないだろうが、その手続きさえ終われば、この訳のわからないツアー客連中とは付き合わないで済む。そう考えるだけで心が踊る。しかも乗ったことのないリニアモーターカーにまで乗れるとは、一石二鳥と言えるだろう。

 実に素晴らしい。

 するとガイドが「このリニアモーターカーに乗るには百元いります。皆さんよろしいですか」と尋ねたのでツアー客は全員、首を縦に振った。私もそれに習う。

 それを確認するとガイドは前の座席のお客から順番にお金を集めていった。ガイドはお金を集め終えると、「それではこれから案内します」

 ツアー客は皆バスを出て預けていた荷物を取り出し、駅に入っていった。

 ガイドは駅に入って最初に時刻表を確認した。どうやら時間帯によって、このリニアモーターカーは走る速度が違うようだ、三百キロで走る時間帯と四百三十キロで走る時間帯の二つに分けられている。どうやら私たちが乗るのは時間帯的に三百キロのリニアモーターカーのようだ。

 ガイドは「せっかく上海に来たのだから四百三十キロの方に乗って欲しかったです」と言っていたがツアー客全員、早く空港に行きたかったのか、「別に三百キロでも構わない」という事で、三百キロのリニアモーターカーにそそくさと乗り、進行方向から後ろから二番目の車両を日本人ツアー客十人で占拠した。

 私は荷物を座席に置き、他のツアー客がいるのを見て、一番後ろの車両に移動して無人の操縦室を窓越しに見た。操縦室には四角い扇風機が置いてあり、ゲームセンターに置いてありそうなリニアモーターカーの操縦台を見て、なんだかちゃちいなと思いながら、車両が左右に揺れるたびに「ガタッガタッ」と音を立てて、操縦台に勢い良く激突する回転式の操縦席を眺めていた。

 見飽きて席に戻ることにした。

 席に戻る途中、他の国の乗客が同じ方向を見ている、写真を撮っている者もいるので、視線を追うとそこには電光掲示板があり、「300」の数字を表示していた。この電光掲示板はリニアモーターカーの速度を表示しているようだ。

 電光掲示板は「300」と「301」の数字を行ったり来たりしている。

 それを見ていると何だか歯痒い気持ちになったので見るのを止め、足早に席に戻った。

 すると坊さんがガイドに何か言っている。どうやらスケジュールを勝手に変えた事について文句を言っているようだ。今更言っても遅いだろうと思ったが、どうやら旅行約款の方に「スケジュールを変えてはならない」と書いてあったようで、これは契約違反だそうだ。私はちゃんと旅行約款を見ていなかったので、初めてその事に気付いた。

 しかもこのリニアモーターカー、坊さんの話ではエコノミークラスとビジネスクラス二つのクラスが在るようだが、エコノミークラスは五十元、ビジネスクラスは百元だそうだ、しかし私たちが乗っているのはエコノミークラスで五十元の方に乗っている。つまり私たちはガイドに五十元をぼったくられている事になる。

 坊さんは「一応ね君が全部悪い訳じゃないとは思う、こちら側にも被はあったと思うよ。だけど何故、五十元余分にとっているのか説明する義務があるよね。ガイドとしての責任だよ」と責めるようにではなく、諭すように言っているが、如何せん坊さんの顔は厳つい。ガイドの顔は青くなったり赤くなったりと忙しそうだ。

 「えっと、そのですね。これはですね、必要な経費でして・・・あのそのバスの運転手のお礼に・・・」ガイドがしどろもどろに説明を始めたが要領を得ない。

 こうも動揺しされたら、騙していますと言っているのも同然だ。するとガイドは「お金を返します」と言ってきた、ばつが悪そうに坊さんにお金を差し出しているが、当の坊さんは「要りません」と突き放す。これに困ったガイドは今度は私に「返します」と言ってきたが、私は「取っといてください」とだけいい後は無視を決め込んだ。ガイドは困った感じで他のツアー客を見たが、受け取りそうな雰囲気ではない。

 ガイドに「返します」と言われる前に、黒豚メガネのおじさんやブルドッグ顔のおばさんは「取っといてよ」とガイドに言い、その他のツアー客も同様に「取っといて」の流れで話は治まった。

 まあ、あれだけガイドに無茶苦茶を言っていたら、謝礼としてお金を出しておいても不思議ではない位だ、私からは空港に早く着けるようにしてくれたお礼ということで、取っといて欲しいと思いながら、窓の外を眺めた。

 しばらくボーッと外を眺めていると、空港の駅に着いた。降り際に黒豚メガネのおじさんが、ガイドに千円札を後ろ手に渡していた。渡した後、黒豚メガネのおじさんはガイドの両肩を後ろから「ポンポン」と叩いて、「ありがとう、ありがとう」と上辺だけの礼を述べていた。

 私は呆れながらリニアモーターカーを降りて、空港に向かった。

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