マヨラー
マヨネーズの魅力に憑かれたのはいつの頃だったか。
はっきり覚えちゃいねえ、俺は赤ん坊の時から母親の乳房から、チュウチュウと吸いだされた母乳の味さえ・・・今やまったりとしたマヨネーズの味としてすり替えられて記憶しているくらいだからな。
うはははっ!
俺は物心の付くかつかぬかのガキの頃から、キャベツの千切りが大好きだったよ。
山のようにたっぷりと垂らされた、マヨネーズの塊を勿論マブした千切りがねっ!
はあっ・・・はあっ・・・うめえ~~!!!
マヨネーズといったら何にでも合うからやめられねえんだよ。なあにい、お子様だああ?うるせえ悪りいのかよ、俺はマヨネーズの子宮から産まれた、産まれたての小鹿みたいなもんだぜ!プルプルしてて画面酔いするだと!うるせえ、俺はいつでも酔っ払ってんだ!マヨネーズの食い過ぎでな!!
マヨ中・・・つまりマヨネーズを切らしちまったら最後、幻覚を見て最悪さ!
アル中なんて甘っちょろいね!掛かってこいよ!
俺はマヨネーズプリンスだぜ・・・
つまりだ!
俺はイチゴ味のかき氷の上にマヨネーズを掛けて食す!
マニアックだって?笑わせんな!
そんなの初歩さ!このマヨネーズ初心者が!
そもそもマヨラーってのも俺が発祥らしいぜ、俺が産声をあげたと同時に世界にマヨネーズが誕生したんだ、間違いねえ、俺はマヨネーズ年表の第一子だからな・・・
つまり、俺は、マヨネーズとマヨネーズが交配して産まれた、マヨネーズ試験管ベイビーなんだぜ!知らなかっただろ!このマヨネーズ無頓着め!
俺は何にでも掛ける、だから、俺にとっちゃあ世界の全てがまろやかだぜ!
逆にだ!
世界なんて・・・マヨネーズを掛けなきゃ、食えたもんじゃねえ!!
刺々しくて、すぐにマヨビームを掛けたくなっちまう・・・
人間関係だって同じだぜ?
マヨネーズを掛けなきゃ、人間同士はすぐに角が立つというもの。だからマヨネーズを掛ける・・・掛けなきゃ角が立つ・・・すぐにマヨを追加する・・・角が立つ・・・ああキリがねえ!延々としたループだぜ!
お陰で金がかかってしょうがねえ!
マヨが欲しくて欲しくて俺はウズウズしちまってさあ、非合法マヨの売人だけじゃ金が足りなくて、盗みを働くのがオチよ!
お陰でマヨにパクられちまったぜ!!
俺は高級車が食べたくなっちまったんだ。
盗みで繋がった悪友がさあ、ある時無造作に停められた高級車に目をつけて・・・これを盗んでバラシて、色んな悪党に売りつけたら、大儲けでマヨ三昧だぜと俺に耳打ちする。
実を言うと俺は正直聞いちゃいなかった・・・
俺は衝動的にその停められた高級車に食欲を感じちまって・・・唾液が止まんなかったんだぜ!
ああ・・・掛けてえ・・・パンパンに膨らんだ・・・チューブ入りのマヨネーズ!
その熱いホトバシリを、衝動に任せてぶっ放ちたかったんだぜ!!
ああ・・・
俺の脳内にはグルグルと・・・めまぐるしいコレステロール値が駆け巡り・・・俺は黄卵の幻覚を視た・・・
ああかき混ぜてえ!!
ツルツルに磨かれた、高級車のボディの上で・・・少しずつ穀物酢を足していきながら・・・手作りのマヨネーズを作ってみてえんだ!
そう妄執した俺にはもう、理性なんてものは存在しなかったのさ・・・
俺はバリバリとボディを喰らい・・・マヨをエンジンに挿すエンジンオイルのように・・・膨らんだチューブを逆さにしては・・・一気に押し込んでしまったのさ!
そうなっちまったらもうオシマイだ!
俺は無心でそのエンジンルームへとカブリつき、内側から迸るマヨネーズのスプラッシュ!!
ああ・・・たまんねえ!
マヨネーズinエンジンルームfrom高級車!!
ああ、胃袋が喜んじまってる、これまで生きてきた中で、最高の気分だった・・・
すると!
「何なの!アナタ、よりにも寄って高級車なんて食べてるなんて・・・!」
妻だ。
・・・はあ~、夢がねえ・・・オンナってヤツはどうしてこういつもいつもロマンのカケラもねえってんだ!
現実主義にも程があるぜ!
俺は今、無心でエンジンにカブリついてんだ!!
オンナごときに邪魔はされたくねえぜ!
「いつもいつも・・・マヨネーズばっかり掛けて!わたしが丹精込めて作った手料理に、何の敬意も払わずに・・・それでもお金の為に我慢してきたというのに・・・」
金?・・・ああ、金なら山ほどあるんだ、なにせ俺は大富豪だからな!しかも、マヨネーズ好きの大富豪だぜ!!
俺に敵うやつなんて、神でもいねえ!
俺は世界の頂点だ、マヨネーズの頂点、つまり、マヨネーズは山のてっぺんだ!!
俺は神を冒涜した!何故ならマヨネーズを振り掛けるからだ、そうだ、どんなに丹精込めて作った料理でも、ひとたびマヨネーズを振り掛けちまったのなら、マヨネーズの味しかしねえ!!
金?金が欲しいのか!ならくれてやるよ、いくらでももってけってんだ・・・俺はマヨネーズが食いてえ、それしかねえんだよ!
ジュエリーだ?
そんなもん食ってやるよ!ブチュ~~・・・
そうそう・・・こうしてジュエリーに垂らし込み・・・そしてそれをまぶして・・・ぐちゃぐちゃになったジュエリー・・・これは・・・テメエに買い与えたジュエリーだったよな!!
「はっ!!何をしてるのよ!わたしの大事なジュエリーボックスに!よりにもよってマヨネーズをまぶすだなんて!!もう使い物になんないじゃないの・・・!!!」
はっ?
何を言いやがる・・・これは使いもんじゃなく、単なる食いもんだろうが!
ムシャムシャバリバリ・・・は~、うめえ~~・・・
「やめて、やめて、やめて~~~!!!」
何泣いてやがんだ!テメエも食ったらどうなんだ、マヨネーズをまぶしたジュエリーは、サイコーにうめ~んだぜ!!!
「もう我慢できない!!こんな横暴な牢獄、わたし、出ていきます!!!」
・・・何だ!
ビビッと来ちまったぜ・・・
テメエ・・・今、なんてった?
出ていく・・・だと?
こんな衝撃10年来なかった感覚だぜ。
出ていく・・・
「アンタは狂人よ!さよなら・・・」
出ていく出ていく出ていく出ていく出ていく出ていく出ていく出ていく・・・・・・
はあ~~~~~~~~!
うまそおじゃねえかあああ!!!!!
俺は産まれて以来の衝撃を受けて!
無心でマヨネーズを『出ていく』に振り掛けて、それをまぶして、ムシャムシャと食べちまった・・・
はあ~~~~うんめぇ~~~~~
「あれ・・・どうして・・・さっき・・・出ていったはずなのに・・・・・・」
何を言ってやがる・・・
テメエの『出ていく』は、今しがた俺が喰っちまったばかりだよ!!!
テメエは逃げても逃げても逃げらんねえぜ!
何故なら俺が『出ていく』を食っちまった以上は、テメエはここから出ていけねえんだから・・・・・・
こうして男の妻は、取り憑かれたように無心で舞い戻っては家出を繰り返し、延々とループして、そして男は、無心でマヨネーズを掛けながら、取り憑かれたように妻の『出ていく』を食べ続けるのであった・・・・・・