よくある話?
新人が入ってくる。と職場内での噂を聞いてそんな時期になったのだなと思ったと同時に新人と言っても人気職の女官とか侍女とかで地味できつい私の勤めている部署には今年も誰も来ないのだろうと思いつつも汚れてもすぐに落ちる仕様の制服という名の農耕作業服を着て日が昇り切る前の定時に出勤する。
私が所属する薬師課は王宮内でも一番きつく地味な作業が多いので人気がない。新人と言われる私ですらすでに勤続10年にもなるのだから人気がないのがわかるだろう
早朝の朝日が昇る前に摘まなくては効果が出ない薬草を重点的に採取したのちに担当畑の手入れをする。王宮内の限られた土地で効率的に薬草を栽培・提供するのが私たちの仕事である。個別の畑には各種さまざまな薬草を栽培している。季節限定のものから通年のものまで。王宮で使用される薬という名のものは全てここで栽培され薬師たちの手で調合され提供されているのだ。
栽培する人間の魔力や属性によって効果が多少違う事もあるが効能的に左右されることなく万人に使用できる薬を薬草を作ることを誇りにして仕事をしている
朝から畑の水やり・指定された薬草の採取・雑草抜きなどを終えるとお昼休憩となる。首から下げた汗拭きで顔を拭き日よけをとると涼しく感じる。
薬草に影響が出ない範囲で風の魔法を使いそよ風を発動させているから涼しいのだけれども。
畑1つ1つに結界が張ってあり周りの環境に左右されないようにしてある。担当が自分の魔力を使って薬草の成長に合わせて室温・湿度・風などを調整しているのである。魔力を確保するのも担当者個々の仕事の1つである。
私は魔力が少なめなので畑の隅に太陽の魔力・月の魔力を全体の数%使用して魔石を作る陣を作成して設置している。1か月間設置していると爪の先ほどの約1ミリ程度の魔石が出来るそれに自分の魔力を注ぎこみ5センチ大の魔石を作成している。それを使用して担当畑の調節をしているである。自前の魔力だけで調節するのは難しい人のための抜け道だ。ちなみにその時々の環境に無意識で対応すること自体かなりの調整技術だったりするのだが、私の場合は体で覚えている感じなので言葉では説明できない。ただ、皮膚感覚や些細な違和感を感じて魔力を使っていつもの環境に調節している。
先輩に言わせればそれこそすごいらしい。
先輩たちは何かにつけて調節の魔法を発動して数値を見て対応しているので時々さじ加減を間違えるんだよね。どうやっているの?と聞かれたので
原因は無意識に発動している体に魔力を包み防御しているせいだと思うが無意識のレベルなので何とも言えないし、環境の変化に対応が遅れて自分の体の調子が悪くなったりすることも薬草の効果で変調をきたすこともあるのでおすすめできない。
私の場合はそうなった時に環境を整えた瞬間に回復魔法を微力ながら長時間かけ続けて翌日に影響が出ないように。出ても最小限にとどめるようにしている
と説明したら。それはちょっとと言われたことがあるので本当にお勧めできない事らしい。
さて、昼食は畑作業班専用にラウンジがありそこでご飯を食べることになっている。
畑作業班は畑を耕し薬草を作る人と他の課から薬草の注文を受ける事務的な人に分かれている。事務職の人はどの畑に度の薬草がどうの程度生えているかということを毎日出る日誌を見て把握して注文を受け付けているので頭がいい人じゃないとできない仕事だなといつも思っている。
ラウンジに入りお弁当を取り出して隅っこに座りご飯を食べ始める。おかずは昨日の夕飯の残りと厨房から出る無料スープだ。無料スープとは王族たちに出す食事で出る野菜やくず肉を美味しくスープにしたものだ。素材は私たちの給与では口にできないものなのでくず肉・野菜くずと言っても高級なものだし王族に食事を出すのだから調理人の腕は一流である。ということは普通にお金を出して食べてもいいくらいのスープが無料で出てくるのである。
王宮ならではの贅沢。他にも無料パンとか無料お風呂とか福利厚生がしっかりしているので、地味できついこの仕事をやめようとは思わないのである。
さて、お腹いっぱい美味しいスープと普通のお弁当を食べたことだしとお弁当袋の中から数種類のお茶の葉が入った袋を出す。今日の体調に合わせてお茶を自分で配合するのだ。
簡易的な薬湯というかそんな感じのものを作って食後に飲んで昼の作業に備えるのである。お茶用の発破は市販されている薬草を粉末にしたものである。
ちょっと体力・魔力的に疲労を感じるので体力・魔力を回復する効果がある葉と味がまずくなるのでまろやかになるよう他の葉も調節してお湯を注いで蒸らすこと数分。即席の回復剤とは言わないまでもその効果があるお茶が出来た。それをグッと一気に飲む。
まずいお茶を飲んだ後は口直しの飴をなめながら食後の休憩していると年長の先輩が近づいてくる。にこにことしながら湯呑を持ってきているので何かお茶を所望しているのだろう
「どんな感じで?」訪ねると
「腰痛がな」そう返ってくるので、鎮痛効果があるのと血流を良くするお茶を調合して差し上げる。
「医者の方からは仕事前に準備運動しておけ。と言われるがな」と腰をさすりながらできたお茶をグッと一飲みしている。
苦かったようで眉間にしわが寄っているがそれは致し方ないのはわかっているはずなので何も言わずにお茶セットをしまう。
「効くがうまくないな」と口直しをなめている先輩
「そもそも簡易なものなので持続力は悪いですよ。根本的に直さないと意味がないですから」
「わかっているがな。仕事をやめないとどうにもならないだろうこればかりは」と笑っている。腰痛も畑仕事にはつきものだからしょうがない。と言っている
午後も注文された薬草を採取して届けたら畑仕事を再開する。
ただいつもと違うのは誰かに見られている感じがするのである。
はて、変だなと視線を感じた方に服に忍ばしていた害虫駆除用の(結界を張っているのにガッツで入ってくる害虫がいるのだ。その害虫がいるから薬になる薬草もあるので何とも言えないが)竹串をその方向に飛ばす。
当たった感じがするが変化がないので外したか?でも、視線が感じなくなったからいいのか?と思い作業を再開する。
なんだったのか?
その答えが出たのは仕事終わりの事だ。今日の日誌を書いて何がどのくらい採取可能か記録していると上司が全員に向かって言ったことで納得した。
新人さんを館内の案内をしていたそうだ。だから変な視線を感じたのかと納得していると。
異変に気づいて攻撃したものもいる様だが、今回についてはお咎めはなしということだ。
どこの馬鹿だか知らないが、異変に気づいて竹串を館内案内のために作った魔道具の核にぶっさした人間がいたそうだ。今回ように作り上げた魔道具が一発でおじゃんになったと担当が嘆いていた。と言われて変な汗が出た。
咎めがないから問題はないが。新しい概念の間道具開発なんて結構なお金がかかったのではないでしょうか?それを壊してしまった模様です。請求されたらかなりのお金になったんだよね?
やばかったわ。と内心焦りながら書類を書いている私を見てニヤリとしている先輩方に気づかなかった。