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(このトカゲ、案外大人しいわね)


不機嫌そう、というのは感じ取れるが相変わらずトカゲは大人しく抵抗の一つもしない。

前を歩くのはおかっぱ頭の小人を肩に乗せた少女と腕に鳥人間を連れた少女の二人。

先頭を歩く上級生は茶色の髪を三つ編みにして眼鏡をかけた生真面目そうな少女だった。

外に出て校舎をぐるりと周りこみ少し歩くと森の手前に童話の建物が見えてきた。

白塗りの建物に見える梁や骨組みは茶色、見える窓枠なども揃えられていて、屋根も同じ茶色、物語や童話に出てくる建物そのものではないか、一つの窓それぞれに住人が自分で育てているのか小さな花壇があり彩を加えている。

あまりそういう乙女しいものは好まないルキアでさえ胸をときめかせ「かわいい」と言ってしまうほどには、この建物は少女好みであった。


「ここが私達の女子寮、男子寮は向こう側」


そう言われて右を見るともう一つ建物があった。

女子寮は童話であるなら男子寮は壮大な美術品だろう。

それは一つの豪邸で、白塗りの壁にはいっぺんの汚れもなく、左右は完全に対称に作られており建物自体が一つの美術品かのよう。

屋根は白く、そこだけだとここがどこなのかわからなくなるようだ。

森の緑と空の青、そして建物の白が見事な調和を果たしている。


男子と女子とでこれほどに趣味に差があるとは思わなかったが、女子寮は女子寮で好みなので構わない。


「ふあ・・・住みたい」

「わかるその気持ち」

「いや、棲むんでしょ、あたし達」

「「「・・・」」」



口をあんぐり開けながら交わされる間抜けな会話。

それに思わず顔を見合わせてしまった。

おかっぱ頭の女の子を肩に乗せている少女は少しくすんだ金色の髪を三つ編みにしておりそばかすが目立つが青い目がとても綺麗な少女だ。

もう一人の少女は彼女の瞳と同じ透けるような蒼の髪をした短髪の少女、少し背が高くて目がきついけれど笑うと意外の幼い。


「私ルキア・トランゼム、これ私のパートナーのルーク」

「わたしはエルゼ・マキシマです。この子がパートナーのノンノ」


くすんだ金髪の子がエルゼ、タレ目がちでどこかほんわりとした素朴な雰囲気がただよっている。

背丈はルキアと同じくらいだろうか、だが全体的に華奢な体つきをしているようで腕はほっそりとしていた。

誓約者は小さな少女ノンノ、肩でノンノは小さな手を振って挨拶した。


「あたしはミアーナ・ミシュラ、この子がリュイーア」


神経質そうな蒼の髪の少女がミアーナ。

目はきつそうだがその中に見える鳶色がなんとも優しかったので生まれつきの目なんだろう。

リュイーアは甲高くピュロロロロ!と鳴く、人の言葉は喋れないようだ。


「君たち自己紹介は終わったかな?寮を案内してもいいかい?」

「はい!どうぞ!」

「お待たせしました!」


エルゼとルキアが口々に謝罪すると上級生は苦笑いしながら寮の扉を開く。

中はさらにおとぎ話の世界だった。

全てが木で作られているのに古めかしい感じが一切しない、寧ろ全てピカピカに磨き上げられた石が貼ってあるのかと思うほどに綺麗に光っており、壁も途中までは木が貼ってあるがルキアの腰の高さから上は全て漆喰で真っ白、上にはむき出しの梁が見えているのが何となく情緒を醸し出している。

目の前には大きな階段があり左右へ伸び、さらに数段真ん中のバルコニーのような踊り場につながりもう一つ扉がその向こうに見えた。

どうやらこの建物は凸型になっており真ん中が三年、右が一年で左が二年となっているようだ。

真ん中の三年の部屋にあたる場所の一階に行く道がないようだがどうなっているのだろうか。


「ここはエントランスだよ。右が一年左が二年真ん中が三年ね。んでこっちが談話室」


右手のすりガラスがはめ込まれた木造のドアを開くと中は絨毯張りになっていて長椅子がいくつかと背の低い机、そして左の壁には大きな暖炉があった。

ルキアの家にも暖炉はあったがこんなに立派でおおきなものじゃなかった。


「遊んだりおしゃべりしたり、んでこの先がお風呂ね」


談話室の奥暖炉の向こう側にまた扉があった。


「入浴は三年二年一年で時間が違うから、詳しいことは部屋にある冊子読んでね。それと反対側が食堂、朝ごはんを食べるところ、開いてる時間が限られてるから気をつけて。それとーああ、洗濯物は寮母さんとお手伝いさんがしてくれるから朝指定の籠の中に入れて廊下に出しておくこと、それから」


と、つらつら寮での決まりを話された後上級生から部屋の鍵を渡された。

どうやらここにいる全員相部屋のようで、鍵は一つずつスペアに一個、もし無くしたらクレアードの鍵屋に行って自分で作ってもらうよう言われた。

鍵は謂わば職人芸といってもいいだろう。なので一個つくるのに結構なお金がかかる。

ルキアにいた島には泥棒もいなかったから家を長期間空ける時以外鍵なんてしなかったがここではもしかしたら、だが寮生が犯人でということもありえる。自衛はしなくては。


「あの、寮母さんはどちらに?」

「んあ?ああ、いないわよ。少なくとも起きてる時間にはね」

「えっと、どういうことでしょう?」


いるのにいない?これはいかに。


「起きてる時間には、ということは寝静まったときに活動しはじめる・・・もしかして?」

「リアーナだっけ?」

「ミアーナです」

「ああ、そう。正解よ。寮母はシルキーなの」

「「シルキー?」」


エルゼとルキアが小首をかしげた。ついでにノンノも一緒にかしげているのがかわいい。


「シルキーっていうのはね。家に住み着く妖精種の幻獣でみんなが寝静まったときに家の仕事をしてくれるの。ただ、気に入らない主人だと追い出してしまうそうだけど」

「え、追い出されちゃう?」

「先輩」

「大丈夫、よっぽどのことがない限りはそんなことしないから」


つまり、過去そのよっぽどをした人間が少なくとも一人はいたわけだ。


「寿命のある幻獣もいるけれど、明確な寿命がない幻獣もいるの。その時はどうしても召喚師の方が先に逝ってしまう。召喚師を失った誓約者は悲しみのあまり人を襲い出す事が少なくないの、もしくは人恋しさに犯罪に利用されたりね。

それを防ぐためにも出来うる限りこの学院で保護をしているのよ。もしかしたら新しい召喚師にめぐり合うかもしれないし」

「そうか妖精種のほとんどは寿命がないんですものね」


ミアーナは納得しているようだ。

どうやらミアーナは事前知識が豊富なようでうんうんと頷いている。

そんな彼女たちを見て複雑な表情を浮かべているのがルキアとエルゼ。


(そっか、召喚師と誓約者はどんな形であれ関わりあうんだもんね、そんな人に先に逝かれたら辛い、よね)


「まあ、そんなわけでこの学院の警備や世話なんかは保護された幻獣でまかなっているっていう状態よ。だからこそ安全でもあるんだけどね」


おそらく誓約者となった時点で感覚は野生の幻獣となにかしら違うのだろう、今もこうして複数の幻獣がそばにいるという状況はありえないのだ。


「ここのシルキーは元々この寮全てを取り仕切ってたお爺さんの誓約者だって話だわ。だからこそこの寮に思い入れが強いのね。あ、でもあんまり好き勝手なことやったり物を壊したりしたらたたき出されるから気をつけて」

「え、何それ怖い」

「ちなみに男子寮はブラウニーなの」

「・・・ぴったりですね」

「まあ、男子がよりあつまれば汚くならないはずがないからねぇ」


何の話なのかさっぱりついていけないが、とりあえず男子寮はブラウニーという妖精が、女子寮はシルキーという妖精が管理しているということだろう。


(シルキー、家事をしてくれるのかー。何かいいなー、シルキーがよかったなぁ)


シルキーがいたら家事をしなくてもいいじゃないか、と考えているとじろりとルークの金色の瞳が不機嫌そうに光った。

そして長い尻尾でバシンッとルキアの右尻をぶっ叩く。


「いったっ!!ちょっとあんた何すんのよ痛いじゃない!」

「ルキアどうしたの?」

「こいつ私のお尻叩いたの!」


えー、というエルゼに上級生とミアーナは苦笑いする。


「もしかしてシルキーだったら家事手伝いしてくれていいのになーとか思った?」

「う・・・思いました・・・」

「あっははは、だからだよ。誓約者はね基本的に召喚師を裏切らないけど浮気も許さないもんなのよ」

「浮気って・・・」

「その子も自分じゃ不満なのかって思ったんじゃない?」


(いやいや、不満もなにも私こいつが一体何者かも知らないですから!)


じとりと肩を見るとそっぽ向いたルークの金色の目が見えた。

幻獣というからにはこいつもまた何かしらの幻獣だ。しかし、今見ている限りではただの大きなトカゲにしか思えない。


「そういえばルークって何て言う幻獣なんだろう・・・」

「・・・そういえばノンノもなんなのかしら・・・?」

「リュイーアはセイレーンかハーピィだと思うけど」

「ああ。それそれ、それ課題ね。一週間後までに自分の幻獣についてレポートを書いてきなさい。それ最初の課題だからー」

「「「・・・え?」」」


突然言い渡された課題に三人は目を見開いた。


「構内案内はお昼食べたらあるからそれまでは自室で休んでなさい。これ鍵、君たち三人は同室だよ。鍵が多いのはスペアだから大事にしまっておいてね」


呆然とするルキア達の手にぽいぽいと投げ込まれる小さな鍵。


「あ、じゃあ私はこれで、また後でね」



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