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エリミリア学園

それからアリアは一人で、ルキアとアルバは二人で取り分を完食してそのホテルを後にした。

ホテルの前には何台も馬車が並んでおり、豪奢というほどではないが一斉に十人は乗せられるであろう大きな馬車。

それとこの街を象徴するような


「見てお姉ちゃん!フォルスがいるわ!」

「はいはい、ユニコーンね」


子供のように袖を引っ張りながら指差す妹を制しながらルキアは故郷にいる無愛想な彼のことを思い出した。

フォルスは父の誓約者だ。馬の何倍もの力を持ち、その足はこの地上でもっとも速いとされる。

美しい白い体毛と鬣を持ち、額には長々とした一本角。

しかし、故郷の気難しい彼はその角がなかった。

父に何故ないのかと聞くと、昔大事な人を救うために折ってしまったのだという。

ユニコーンの角は万能薬だ。どんな病も怪我もその角から生成する薬でたちどころに治してしまえる。

そのため乱獲されることもあり今では保護の対象にも入っている。


「新入生はすみやかに馬車に乗るように!乗り切らなくとも後ろから新しい馬車がくるから慌てないで!」


人ごみでごった返す中で凛と通る声をあげているのは昨日のシェスカだ。

新入生を二列で並ばせてきぱきとさばいていく。

ルキア達もその例にならって並ぶと思ったよりも早く馬車に乗る順番がきた。


「あら、昨日の」

「おはようございますシェスカ先輩!」

「おはようございまーす」

「お早うございます」

「はい、お早うございます。今日がいよいよね!頑張れ、とは言えないけれど、全ては決められた事よ。誓約者がなにものであろうと、あるがままを受け入れなさいね」


え、それどういう意味、と聞こうとしたところへ次の馬車がやってきて扉が開かれた。

なだれ込むように入ってしまったために今のをどういう意図で言ったのかわからず、手を振るシェスカを人の向こうで見ながら扉は閉じられる。

そのまま馬車はガタンゴトンと石畳を踏みしめ出発し始めた。

昨日来たばかりの街だが歩いたことのある道などを通りすぎるとちょっとさみしいものだ。


「ねえねえお姉ちゃん。見てみてあそこのおうち、かわいいわね!」

「そうね。でもちょっと声落とそうか」

「あ、見てお姉ちゃん!」


聞いちゃいねえ。

きゃいきゃいと子供のように騒ぐのはアリアのかわいいところ99のうちの一つではあるがここは狭い馬車内、迷惑行為にもなる、物理的にアリアの口を塞ぐと「お、だ、ま、り」と静かに言った。

こくんと一度うなずけば大丈夫な証拠、昔から止めるにはこれが一番だ。

そして今まで騒いでいた分を誤魔化すようににへらと周りに愛想笑いをする。

一番奥には呆れたような顔をしたアルバ、そして後の面々の表情はなんというか見慣れたものばかりだった。

アリアに見惚れる者、ルキアとアリアが姉妹ということに驚いている者、大体がこの二派で分かれている。


(まあ、これが普通の態度よね)


絵本の中から飛び出してきたと表現しても構わない容姿を持つアリアを見れば誰でも一瞬は目を奪われてしまう。

昔から見目がいいアリアはルキアの自慢の妹だ。

村の男たちはアルバ以外みんなアリアを巡って競い合っていた。かといってアリアは相手になどせず父の仕事を手伝って方々飛び回っていたが。


馬車の窓から外を見るとめまぐるしく見慣れないレンガの家が飛び交い、やがて開けた平原へと続いた。

平原の向こうにはキラキラと光る、おそらくは海だろう。

馬車は静かなまま進んでいく、そして一時停止した。

そしてもう一度出発するときには大きな橋を渡っていた、白い橋でルキアは見たこともない広さの石で作られていた。

これを渡ればエリミリア学院、この世界で唯一無二、召喚師を養育する機関であり国の治外法権区域、この島の中では国の影響力もなく権限も発動しない、ここに入ってしまえば身分の差さえも存在しない。

それを許されているのはこの機関が国にとって大切な場所だからだ。

学院から卒業した者はすべからく国の保護下に入り仕事を請け負うことになる。

もちろん父もその義務をちゃんと果たしていた。

一年に数度ではあったが国から請け負った仕事をしに行っていたのだ。


(ここに入れば将来安泰っ!!)


公務員万歳である。



どんな弱い力を持った幻獣を誓約者にしたとて国家公務員の役職のどれかにはつくことができるのだ。そうすれば将来安泰、結婚なんぞできなくても一人生きていけるだけのお金が手に入れられるのだ。

夢がないと言うなかれ、小さな田舎町の外れに生まれ毎日毎日畑仕事と家族の世話に明け暮れた少女は誰よりも現実を見なければならなかったのだ。


やがて馬車が止まりドアが開かれるとシェスカと同じ黒の服を来た黒い髪の女の人が立っていて「早く降りなさい」と指示した。

シェスカとは別のタイプの女性だが美人だ。右目にホクロがあってとても色気がある。黒縁の眼鏡もださい、というより彼女の色気を倍増させるアイテムに早変わりしている。

ちょっと神経質そうな顔つきに肩口で切り揃えられた髪がとてもにあっていた。


(なんだ・・・召喚師って美人じゃないとなれないのか)


馬車の中を見れば違うとわかるのに今まであってきた人のレベルが違いすぎて絶望する。

なんだ、自分は入れないじゃないかなどとおかしな事を考えながら馬車のステップを踏み降りる。

その瞬間、ルキアの目の中に飛び込んできた景色、それは、きっとこれから先一生忘れることができないぐらいの衝撃を与えた。


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