3
二人で並んで少しばかり薄暗い中へ入ると、はめ込み型の窓から漏れる光以外に小さな松明のような光りに照らされた空間が見えた。
(これが石煌って奴なんだわ)
炎系の精霊石を使った照明、松明なんかとは違い風に左右されることはなく精霊石の大きさにもよるがその寿命は何十年といわれており密かに欲しいと思っていた品の一つだ。
じっとそれを見ていると、いきなり石煌が消えた。
「あ、消えちゃった」
「ごめんなさいね。誰かが間違って消しちゃったみたい。貴方達新入生ね」
右側に立っていた女の人が話しかけてきた。
「あ、はい」
その女性はブロンドの髪をした、目元の凛々しい人でどこか図書館の司書さんのような雰囲気をただよわせていた。
青色の瞳も冷静さを強調していて綺麗だ。
大人の女性というのはこういう人のことを言うのだろうか。
「私はシェスカよ。一応貴方達の先輩にあたるわ」
「え?先輩?」
「そう、毎年新入生の受付はここの3年生が担当するの。ここにいる人は先輩よ」
言われて辺りを見回すと、同じ服装をした人がカウンターに座って何かを操作していたり子供達と話をしていたりしていた。
黒を基調とした金縁の服はとても高そうで、きっとルキア達が必死に働いても買うのが馬鹿馬鹿しくなるような値段をしているんだろうなということぐらいはわかる。
みんなが同じような格好をしているのでおそらくは制服なのだ。
改めてシェスカを見ると彼女は同じ服に下はタイトなスカートをはいている。
司書さんのような雰囲気はこれも原因かもしれない。
「下は結構自由なの」
かっこいいな~と見ているとシェスカに付け加えられて自分が不躾に見ていたことを知らされて顔を真っ赤にさせて「ご、ごめんなさい!」と謝った。
「いいわよ。さ、こっちで受付してね」
それでもシェスカは優しく案内してくれる。
(これぞ大人の女性!カッコイイ・・・)
きっと仕事とか完璧にこなして、そう、秘書とかしちゃうタイプなんだ。
勝手にシェスカの想像が膨らんでいく。
「さ、ここで身分証明書を出してね」
案内された一番奥のカウンターに座っていたのはめがねをかけた男の人だった。
切れ長の瞳に色素の薄い灰色の髪、目の奥に映る色は更に薄い銀灰色をしていて余計に冷たい印象を受ける。
(こ、怖い)
第一印象、怖い。
まるで手厳しい先生の前に突き出されたかのような空気になってしまった。
「身分証明書は」
「はーいこれでーす」
アリアが身分照明の紙を出すのを横目で見て、心底この子の空気の読まなさ加減を羨ましく思った。
「君も身分証明書を」
「は、はい!」
「慌てなくてもいいのよ?この子、実は2年だから」
「・・・へ?でもさっきお手伝いしてるのは3年って」
「この子魔導器の扱いに長けてるから助っ人してるのよね~」
「先輩、御託はいいですから早く身分証明書」
「はい!」
精霊石を用いた道具をまとめて魔導器という。
さきほどの石煌も、今彼が身分証明書から何かを打ち出している魔導端末も全て魔導器である。
こうした魔導器はドゥーラと呼ばれる者たちが設計し、魔技師と呼ばれる人たちによって作り出されるのだ。
内部構造はよくわからないがこうした街ではよく活用されている。
ルキアはいそいそとバッグの中から身分証明書の羊皮紙を出し彼の前へ出す。
すると、彼は何かを操作する。
「あの鏡を見て」
親指で後ろにかけられていた大きな壁掛けの鏡をさされてそちらを見る。
「背筋伸ばして、顎ひいて」
なんだかよくわからなかったがとりあえず言われたとおりにすると、真上からいきなり強い光が襲い、思わず目を瞑る。
「よし」
(何がよしなんですかーーー!)
やがて四角い箱のようなものから二枚の板切れが出てきた。
それを取り上げて二人の前へ出す。
そこには右上に二人の顔と【ルキア・トランゼム】というフルネームと出身地などが記載されていた。
これが入学許可証ということか。
「うっわ、見て顔が映ってる」
「写真みたいね」
「理論的には写真と同じだがこれは雷と光の精霊石の力を使っ」
「いいから、薀蓄はいいから」
「・・・」
何か説明しようとしたのをぶった切ってシェスカが言う。
なんだか不満げだったが先輩に逆らおうとは思わなかったらしく何も言わなかった。
「これを持って明日の朝、西門に来てちょうだい。そこに向迎えの馬車が来ているはずだから」
「わかりました!」
「はーい」
「あ、とりあえず言っておくとこいつの名前、フィンドルだからよろしくしてやって」
「先輩私は」
「はい!じゃ、今日一日この街を楽しんでね!その許可書見せれば割引効くから!」
「本当ですか!?」
「・・・」
(じゃあ、今日泊まる宿とかも割引きくってことよね!素敵だわ!)
割引、値引き、おまけという言葉が何よりも大好きな15歳。
「あ、ありがとうございました!ほら、アリアも」
「ございました~」
「ああ」
色々とぶった切られたフィンドルはとても不機嫌そうにさっさと行けといわんばかりの表情で二人を見送った。