第伍話 晩飯攻防戦
ベタなネタを
夜、広間に集まり食事をとる。
ぎりぎりで入って来た百鬼に土方は何か言いたげにしているが、それより先に自分の所定の位置へ座り、閉口した土方を見て内心舌を出してみた。
「百鬼ッ手前ェ、また俺の魚取りやがったな!」
「はあははん、ほうほああい。」(原田さん、防御甘い。)
「何!百鬼、表出ろ!」
ゴクッ
「原田、五月蝿ェよ。喧嘩なら外でしろ」
今晩の晩御飯である『みそ汁・白飯・焼き魚・漬物・煮物』をめぐり、毎日恒例のこのやりとりをする。土方が怒気を含んだ声で制してくるが、これは別問題と言わんばかりに原田と俺は一匹の魚を巡って争う。
原田は俺の知ってる限りじゃ、この戦争において毎回俺と同等、またはそれ以上の力を見せてくる。我ながらしょうもないことをしている自覚はあるが、これは楽しいのだから仕方ない。
「百鬼!次から次へと・・・俺の分までとるなよっ、お前の分はここにあんだろうが!」
「おい待てっ、それ、俺のだぞ!おい、乙夜っ」
原田の皿へ手を伸ばし、乙夜が百鬼に差し出す
「てか、百鬼自分の分どうした!何で食べ始めて一分と経ってねェのに人の皿に手ェ出してんだよ?」
「・・・。」
黙々と焼き魚を食べていると原田が隣でわいわいと何かを叫び始めた。
うるさいな。
「原田さん、無駄ですよ。百鬼は飯食うの早いんすから。ほら」
俺の手元から何も乗っていない皿一式をを乙夜が手に取るとしらっと原田の前へと差し出してみせた。
「・・・だからって俺の皿に手出すなよ。ほら、高杉の分やるから、な?」
原田が隣に座っていた高杉の皿を百鬼に差し出し、魚を奪い返す。
少し減ってしまった身に悲しく思いながらほくほくと食べていると今度は高杉から声が上がった。
高杉晋作は会津・長州・薩摩・土佐の協力体制になり『新撰組』が『いろは四十七隊』と名を変え再編成された際に桂小五郎、坂本龍馬、武市、岡田らと同期に入隊(というより合流?)した長州の藩士だ。奇兵隊と呼ばれる組織を『いろは』内に持っており、幹部の一人、ろ組組長を務めている。
「待てよ。なんで俺の皿なんだ、桂ので良いじゃねェかよ。ホレ」
高杉は更に隣に座っていた桂の皿を差し出してきた、目の前で皿が何度も入れ替わるのは流石にうっとおしいのだが・・・
「高杉・・・俺のでは無く、坂本の皿にしろ。」
桂も慣れた風体でひょいっと隣に座っていた坂本の皿を俺の方へ差し出してくる。
もう慣れというか、冷静だ。
「なんで、ワシなんじゃ、ホレ、百鬼。これでも食いとおせ」
坂本も爽やかに笑いながら隣に座っていた久坂の皿を差し出す。
「あ、ちょっ・・・しょうがない、百鬼。この斉t「ギロリッ」・・・じゃ、じゃあ、沖田s「何か言った?」ひ、土かt「あぁ?」・・・」
久坂は『いろは』内でも長身で目立つ男だが、もともと遠慮めな男で、高杉や桂と同じ長州藩士で頭も良い。だが、先に述べた通り遠慮しがちで彼を表す言葉として『いいえ、と言えない日本人』というやつがいろはでつけられている。
それ故か、何時もこのような場面になると損をする。
「どうしろってんだよ!」
久坂が理不尽さにブチ切れて茶碗を投げようとするまで後、5秒程。
俺は久坂を見ないように回ってきた魚に手を伸ばそうとした。
ことっ
箸を魚につけようとしたその時、目の前に別の焼き魚の乗った皿が置かれた。
「・・・・・・」
「これ食っとけ」
魚の乗った皿と何もない皿を交換して百鬼の御膳に乗せながらそう言って頭を撫でてくる真っ黒い髪をした人。
「・・・ありがとうございます。近藤さん」
『いろは四十七隊』局長。近藤勇
「いいや。お前は育ち盛りだからな。・・・悪いな久坂、いつもいつも。ほら、乙夜と平助も皿貸せ。」
ニカッと笑いながらそう言い、乙夜と平助の皿にも一匹ずつ乗せる。どうやら追加で焼いたようだ。
「やっりーっ」
「ありがとうございます。近藤さん」
平助が喜びながら皿を持って行き、白米とともに自分の席で食べ始める。
隣にいた沖田に少しへずられているが・・・本人気付いてないようだからいいだろう。
原田や高杉、坂本達はさっきのことが原因でまだ乱闘しているようで、たまに桂と土方に『ほこりが立つだろうやるなら外でしろ』などと怒声を飛ばされている。
他の隊士たちは笑いながら観戦したり、野次を飛ばしたり、巻き込まれないようにとさっさと食べ終わり、食堂から出たりしている。
「・・・騒がしい。」
「あれ、百鬼こういうの苦手だったか?」
隣で魚を食べつつ乱闘騒ぎを観察していた乙夜が声をかけてきた
「いや・・・べつに」
「ま、騒がしいっちゃ騒がしいな。近所迷惑なってなきゃいいけど」
ケラケラと笑いながら乙夜が言った言葉を魚を食べながら考える。
近所迷惑。
なってるだろ、こんだけ騒いでたら。
「夜番もあるし、今はとりあえず飯食っちまおうぜ」
『いろは四十七隊』の巡察は『新撰組』の頃から変わらず昼の部と夜の部の二部に分かれている。
昼は主に乱闘が起こった場合に仲裁に入ったり(担当している組によっては乱入したりして土方に怒られる。)何か揉め事があった場合に仲介人になったり(組によってはそのまま看板娘をナンパしようとする組もあるが、やはり土方に怒られる。)比較的ほのぼのとしたものだ。
夜は不定浪士やその他犯罪者の他に妖の類も相手しなければならず、言ってしまえば夜の部が一日の本番なのである。
「お前、日中寝てる分、ここで点数かせがねェと、給料減らされるぜ?頑張れよ、副長補佐、兼、旗持ち。」
一方的に肩を組みに来た高杉を避けて、無愛想な顔をした百鬼は最後に残っていた




