第参話 雪の日=回想録1=
回想です。
寒くてしょうがない一日、俺は
「なぁ、土方。」
「なんだ、餓鬼。」
俺がこの世界で目を覚ました時、俺の目の前にいたのも、俺を拾ったのもこの齢16の土方という奴だった。
「何で、おれを拾った?」
今の外見に見合ったような少し拙い言葉遣いで目の前の黒い目を見つめて問いかける。
「はぁ?俺が弱って雑巾みてぇに汚くなってやがる餓鬼を拾った理由だ?知るかんなの」
土方に拾われ暫く経つが、俺はこの『土方』という男がよくわからなかった。
面倒臭そうな顔で、それでも俺が目覚めてから1日でも俺の元に現れなかったことはなかった。
飯も持ってくるし、動けない俺を甲斐甲斐しく介抱する。
口が悪い癖に棘の中に優しさが含まれていることがよくわかる。
「へんな奴」
「お前の方が変だろ。なんであんな所に倒れてやがった。」
「…山賊に襲われた。」
「だから命からがら逃げて来て彼処で力尽きたってか?嘘こけ、あんな目立つ高そうな着物引きずってるただの小せぇ餓鬼一人を大人数人で捕まえらんねぇわけ無ぇだろうが。見た感じ親無しの孤児だろ、お前。…それにしても有り得ねぇ程、落ち着いてんのも気にかかるが。」
「…。」
正直驚いた。人間の高々十数年生きただけの餓鬼に其処まで突っ込まれるとは。
「化け物だ…て、いったら、土方はどうする?」
気が付けば、思わず口をついてそんなことを言っていた。
土方は一瞬目を見開くと少し俺の目を見てからニヤリと不適に笑った。
「へぇ、お前みてぇなちっせぇ餓鬼が?物の怪やら妖の類ってか?」
コクリと頷く。
「…お前がそういう怪異の類だろうが関係ねぇ。俺が拾っちまったんだ。拾い物の世話と面倒は最後の最期までみなけりゃいけねぇ、お前が何であろうが構いやしねぇよ。」
土方はそう言うと俺の頭に軽く手を乗せ、髪をかき混ぜる。その手つきは子どもの頭をなでる本当に普通の行動で、俺は逆にポカンとしてしまう。
土方は「油が勿体ねぇからさっさと寝るぞ」と言いながら火を消し、俺の横に敷かれた布団の中に潜り込んだ。昼間にしていた読み物も書き物も机の上に散らばったまま、俺達二人は暗い闇に包まれる。朧雲を纏いながら微かに姿を覗かせる白金の月の光は思いの外明るくて、何故か安心する。
それは差し込む光の中に土方という自分を守ってくれそうな人間がいるからなのか、ただ単に完全に闇に呑まれる心配が無いからなのかはわからなかったが、俺は静かに瞳を閉じ、朝まで深い眠りに落ちる事ができた。
だから勿論その晩、遠く西の村の一つが『酒呑童子』に焼き落とされ、歴史からも地上からも消え去った事など全く知る由も身に覚えも無いことだった。




