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酒呑童子奇譚  作者: みたらし団子
第六章 水神の巫女 
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第伍拾陸話 入れ食い

ちゃんと叩ける物を作るとさっさか書けていいですね。

何で今まで当たって砕けろで書いてたんだろうか……



「いやー、大漁だね。」

片手に縄を持ち、笑いながら俺の横で沖田はそう言った。

「正に、入れ食い状態だな。ちょっと歩きゃ、影が動くぜ。」

高杉がつまらなさげな表情で呟くと、俺達の前で、縄で縛られ転がされていた数名の男がびくりと体を揺らした。

夜も更けた頃、音もなく入ってきた侵入者は次々と見つかり、こうして捕まった。

やっぱり考えることは皆同じと言うことか。

交代で見張りと見回りを回しだして、もう二刻は経っただろうか。俺は捕まった奴等の見張り役だった。

「百鬼ー、またいたー。」

壁にもたれていた俺の元に縄を持った乙夜と、同行していた竹田が帰ってくる。

「あはは、本当に入れ食いだね。」

沖田も見張り役だが、特に不満もなさげな様子だ。

いや、よく見たら鍔に指が掛かっていた。

「嬉しくない。」

じゃんけんで見張り役になってから、ずっとこんな調子だった。

夜が更ける毎に盗人がどんどん増える。

お陰で俺は碌に動くことが出来ない。

負けた、数刻前の俺を恨む。

「んにしても菊人、お前すげぇな。あんな所にいるの良く見つけたもんだ。」

「へへへ…」

「お、また菊人の手柄か。」

「そうなんすよ。」

楽しそうな夜番組を肩肘ついて見る。

非常につまらない。

「暇。」

呟いて溜め息をつく。

眺めている内に竹田が今度は高杉と組んで見回りへ出るらしく、同じく他の隊士と合流するらしい乙夜と共に出ようとしている所だった。

内心、全く笑っていない癖に笑って手を振っている沖田を尻目に旗を抱えなおし、あぐらと頬杖の体勢で床に転がった簀巻き状態の男を見つめる。

と、男の一人が俺へ一瞬恨めしそうな顔を向け、そしと逸らすとぽつりと独り言のように呟いた。

「幕府の犬はいいな」

俺と男の間に刀が降ってきた。

男の引きつった声に縛られていた男達が振り向き、怯えたような声を上げる。

「あ、ごめん。鞘から刀身落としちゃった。」

ちらりと見上げると笑顔の沖田がそう言って床に突き刺さった刀を抜くと肩口に担ぐ。

絶対、嘘だ。

鞘から滑り落ちた刀がそんな綺麗に刺さるわけ無い。

俺は沖田から視線を男に戻すと、面倒だが口を開いた。

「今年は飢えが酷い程の飢饉じゃありませんでしたね。」

男が目を見開くのが見えた。

「ですが、税を引き上げられた。ぬ…貴方方が何処より来て何をしてきたかは存じ上げませんが、農民で江戸近郊なら採れた作物の半分より少し多いくらい。てとこでしょう。売って金にするだけの余裕は一応あるし、冬も越せる。」

つまらなさそうな表情をしているのだろう。

俺は顔の筋肉があまり動いていないのを承知の上でつらつらと一方的に喋った。

「しかし、盗みに入ったということは金に困窮している。」

「……私は陸奥の出です。」

「へー、ということは関所越えでもしました?」

びくりと数名がまずそうな顔をした

「関所越えは重罪。番号を彫られてひとまとめに管理される。そして、盗みは場合によっては極刑。」

「どの道、勝手に外者の村を抜け出したってバレれば連れ戻され拷問される。しかも盗みまで働いたとなれば、ここの狸は極刑にしろって騒ぐだろうし……あ、その時は僕が斬ってあげようか。」

目の前にいた男が唇を食いしばっているのが見える。素星だったらしい。

「大方、重税に耐えられなくなったか何かで故郷を逃げたはいいが、余所者を雇う者はおらず。食うに困ったか、はたまた身内の誰かに病が出たか。と、言ったところだろう。」

苦虫を噛み潰した表情とはこれのことか、皆一様に渋い顔をしている。

己の未来を予見した、というその顔。

だが、陸奥の出だと言った男は軽く笑みを浮かべた。

「幕府に仕える貴方方にはわからないでしょうね。栄えるのは江戸ばかり。地方は貴方の言った通り、重税で貧しいばかり。子や孫が病に掛かっても薬を買ってやる金はない。私達は苦しみ死んでいくのを見ていることしかできない。」

男はそうたんたんと呟く。

地方の貧しさ故のよくある話だ。一々同情する気などない。

俺は頬杖をついたまま男を眺め黙って言いたいことを言わせた。

「江戸に来ればどうにかなるかもしれないとこうして故郷を捨て、出てきましたがこれぞ捕らぬ狸の皮算用でしょう。今なら故郷で盗人として捕まった者の気持ちがよくわかります。盗人となるしかなかった。」

自嘲気味に笑った。

男の口調は当初より丁寧な物になっていた。

周囲からも啜る音が聞こえる。

先ほども言ったが、良くある話だ。

だが、俺は男の農民にしては丁寧な言葉遣いに目を細めた。

「……主は元、武家の出か。」

黙っていた俺が突然喋ったからか、男は目を見開いて俺の顔を見た。

「はぁ…もう何代も前に取り潰しとなりましたが…」

ぽかんとした表情。

俺はそうか。と呟くと少し溜め息をつき、男の目を真っ直ぐ見た。

男の体が強張ったのがわかる。

「…一つ問おう。主は生きたいか、死にたいか。」

「え…」

横で沖田が軽く驚いたような表情を下のが見えた。

「早く答えろ。生きたいか、死にたいか。それだけの問いだ。」

何のことだかわからないのか男は固まっている。が、俺の言葉に我に返ったのか、何とも訝しげに此方を見て、周囲を見渡した。そして、よくわからないと言った表情で俺を見返してくる。

「か、叶うならば生きたいと願います。」

「何を対価として取られてでもか。」

「家族以外でしたら。」

キッと見てくる目、こいつは何が正しいか冷静に判断できるだろう。俺は口元を軽く歪めそうになった。

「……沖田さん。土方さんと桂さんはまだ人手不足で駆け回ってましたよね。」

それを耐えて、頬杖で口元を隠して言えば、沖田は軽く笑った。

「うん。あ、この間は近藤さんも忙しそうだったよ。」

再びぽかんとしている男に沖田は顔を向けると、笑ったまま目を細めた。

「お兄さんは運がいいね。」

男は更に訝しげな表情を濃くし、黙り込んだ。

盗みなど夜番をしている俺達が黙っていればバレないし、近藤に事情を伝えれば如何様にでもなる。

第一、使えそうなら別にいいだろう。

「馬鹿やろう」なんて声が聞こえた気がしたが、そんなこと気にしない。

どうせ気まぐれだ。
















男が飛び込んできたのはそのすぐ後だった。

「沖田さん、悪鬼が……!」









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