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酒呑童子奇譚  作者: みたらし団子
第六章 水神の巫女 
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第伍拾参話 我が敬愛すべき主殿。

いつかまた会えるような気がした。

おかしいなぁなんて思いながら、それでも漠然とそんなことを思った。

それは貴方が消えた時と同じ感覚だったから、俺はそんなあやふやなものを信じていられた。










展示会には意外や意外、多くの人間が集まっていた。

河童のミイラを気持ち悪がり、夜になると人を食らうと噂される水墨画に怯え、吸い込まれそうな刃紋の恐ろしい妖刀に息を呑み、そして話題の水神の巫女の美しさに感嘆の溜息を漏らす。


正直、見ていて滑稽だと百鬼は思っていた。

河童のミイラは魚と猿の贋作だし、水墨画は本物ではあるが目を軽く動かす程度しか力のない低級の憑喪神で、妖刀と謳われる刀は一見古びて雰囲気が出てはいるがこのために打たれた屑鉄の模造刀だ。

警備が始まり4日。1日目に館内を数周してわかったことは8割贋作、1割低級、2割...いや、0,5割名品ということ。

そりゃ、陰陽寮が妖絡みの展示会だというのに簡単にいろはへ払い下げるだろう。という品揃えだったため、百鬼は当初の興奮何処へやら、正直、1日目終わりにはすでに水神の巫女も放置でもう帰って寝たいとまで考えていた。

しかし、得たものが何もない。というわけでもないため、百鬼は未だに竹田と気だるげに警備の任に就いている。

器は違えど千年以上生きた鬼である百鬼と違い、竹田は真祖に呪術の責を負った者を持ち、犬神を代々宿すたかだか10数年しか生きていない人間だ。

だが、竹田は匂いで全ての器物について言い当てた。

「これ、猿と干物の匂いがします!俺、小さい頃から猿追い回したり追い回されたりしてきたんで間違いないです。」

「これ何かいます!なんか...小さいけど!」

「鉄屑くさいですね!」

といった具合に。

百鬼は驚くと同時にこれが犬神憑きの先祖返りか。と妙に関心した。

竹田に隠す気はさらさら無かったが、これでは隠していても俺のことも匂いで気付いてポロリと何の気もなく誰かにこぼしそうだな。と危惧したが、どうやら竹田は屯所やいろはの仲間内では毎日様々な匂いが混ざりすぎてあまり鼻が利かないらしい。

まぁそりゃそうか。


「百鬼さん、桂さんから言伝です!もうそろそろ交代だから交代し次第一旦帰って来い。だそうです。」

一人厠に出ていた竹田が人でごった返す展示会の通路の隅に立っていた百鬼に駆け寄りながらそう言った。

時刻は昼過ぎ。人の行き交う姿を見ながらここ数日を思い返していた百鬼は竹田の言葉を聞きながら一度うなづくと交代が来るまでもう一度人の流れを見ることにした。

「ねぇ、百鬼さん。聞いて良いですか?」

「何。」

「この前のことなんですけど...」

竹田は百鬼の横まで来ると並び立って小さめの声で話しかけた。

この前...小鬼の時か。と百鬼は当たりをつけて竹田を軽く見下ろす。

「俺、百鬼さんが何者でも別に構わないです。でも、この前あの、小鬼?と百鬼さんが普通に話してて、何時もと口調や雰囲気が違って、だから気になって...だから、色んな人に聞いて回ったんです。百鬼さんてどんな人なのって。」

「ふーん。」

「普段はサボリ魔だけど、いざって時は助けてくれる良い奴だって。」

「.....。」

「でも、僕が聞きたいのはそういうことじゃなくて、その...」

言葉をごにょごにょと濁して視線を彷徨わせている。

百鬼はそんな竹田の様子から視線をそらし、暫くすると一度大きく溜息をついた。

知っている者が増えれば増えるほど身元が発覚する危険は高まる。思わずこぼしてしまうかもしれないし、口が滑ることもあるだろう。

だがまぁ、協力者は多いに越したことはない。

全ては天秤で、利害関係のうちに成り立っている。

どちらか重い方に傾くのは当たり前で、それは自然の摂理。

ふと、行き交う人の中にこちらを見ている人を見つけた。

浪人なのか、士族なのか、はたまたまさか僧侶なのか。質素だが何処か不思議な格好をしている男だった。

見覚えがあるような気がしたが、わからず、次の瞬間には男は視線を展示物に向けていた。

百鬼の興味もすぐに逸れ、まだそわそわと視線を彷徨わせる竹田に口を開いた。

「誰にも言わないと誓えるなら答えよう。俺のことを、これまで辿った軌跡を。」

全てを言うかは別にして、と加えつつも竹田は百鬼の言葉に満面の笑みを浮かべ、大きくうなづいた。

犬神は鼻が利くという以前に獣である。獣にもルールがあり、そのルールは絶対だ。

犬神は特に一度服従を誓った者の命を厳守する。

それを竹田は知らなかったが、本能が主人からの命をしっかりと受け取り、己が命に代えても守ろうと知らずに誓った。







僕は大江山に住んでいる赤髪の鬼で、名を玉という。

僕は長年探し物をしている。自分のことに無頓着な友人の片腕だ。

そして、今僕は京を遠く離れ江戸にいる。その経緯を説明し、状況を話そうと思う。


江戸で妖怪を展示する催しがあるらしいなんて聞いたのはいつ頃だったか。確か、最近だ。

奇々怪々、妖怪を展示するとは何様か!なんて仲間たちは憤っていたが、僕は変なことを考えるなぁと笑った。

それが大体、4日前。

そして僕の探し物が江戸にあると知ったのはその次の日。妖怪たちの噂でだった。

『鬼の手は江戸にあるらしい』

変化の少ない割に無駄に長く生きる妖怪の世界で噂ってやつは広がりやすい。

噂を聞いてすぐ俺は必要最低限の物を持ち、妖術で角と髪の色を昼間だけ隠せるようにして山を出、江戸へと向かった。

思い立ったが吉日と言うだ。そして江戸に入った時、噂を肯定するように気配を感じた。

しかし江戸の妖怪やめぼしい場所を探しても実物が見つからない。気配を追えない。

勢いで出てきてしまったことが悪かったのか、タイミングの問題なのか、はたまたあの噂がガセだったのか。

後者はないだろう。気配はするし。

まあ、簡単に言うと勢いと出鼻をくじかれてしまったのだ。


そして今、とりあえず僕は一日の締めくくりに一度、山を出る前に仲間たちの話していた妖怪を展示するとかいうところへと入ることにした。

人の流れに身を乗せて、ふらふらと展示会とかいうものが行われてるところに入ったが、おそらくここも外れだろう。贋作ばかりだ。

少し落ち込んでいるとふと、通路の隅に凸凹な人を見つけた。

一人は細身ながらそこそこ身長のある不思議な髪型をして首に赤い紐を巻いている青年。もう一人はまだ10歳くらいの左耳に不思議な飾りをつけた少年。

二人は揃いの羽織を羽織っており、何か話し込んでいるようだった。

あの羽織は確か前に京で見た。少し前(と行っても人からすれば大分前かもしれない)江戸に呼び戻されたという幕府組織のものだったはずだ。

新撰組...いや、今はいろは47隊だったか。それにしても不思議な匂いのする二人だと思った。少年の方は獣の匂いがするし、青年の方はいろいろ混ざったよくわからない匂いがする。

なんか変な感じ。

そう思って軽く首を傾げて青年を見ていたら、こちらに気付いたのか目があった。

あ。と思った。その目は見覚えがある。物凄く懐かしい感覚。

暫く見つめていたが、ふと周りの雑踏が耳に入ってきて目線を特に興味のない展示品へと慌てて向け変えた。

探し物をしていると、ふと遥か前に探していたものが見つかることがある。

今の感覚はその時の高揚感に似ているかもしれない。

自然と表情が綻ぶ。


「お館様。」


口をついて小さく出た言葉は雑踏に紛れて消えた。










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