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酒呑童子奇譚  作者: みたらし団子
第六章 水神の巫女 
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第肆拾漆話 朝礼



眠いです。




風のように走り抜けるその人に目を奪われる。

赤い髪、ぎらりと此方を不適に笑いながら睨む金色の瞳。


それは正に鬼だった。






朝礼で話されるのは主に日当と各班巡察の担当区域などの確認。雑務の担当者について。諸注意。そして特別任務についてなどだ。

そして今日、土方から告げられた言葉に隊士は一様にざわついた。

「世界の怪奇展の守衛ねぇ」

原田が呆れたような口調で呟き、俺はちらりと其方を見た。

「左之さん興味ねぇの?」

「いや、展示に興味ねぇのなんのってか……何で高々、展示の為に俺達がわざわざ駆り出されんだよ、てな。」

「……不満。」

「そう、それだ。良くわかってんじゃねぇか、百鬼。」

釈然としない様子の原田に横から口を挟むと納得のいったような言葉を返される。

不満と言っても、しょうがないと思うが。

「良いじゃん、守衛。僕は好きですよ?」

ひょこりと横から混ざって来た沖田が笑いながらそう言う。

「そりゃ、総司は戦闘狂だからな。正当な理由付きで刀を抜ける状況は嬉しいだろうが……」

再び原田が呆れたように沖田に言った。

「ははは、そんな簡単に人は斬りませんよ。」

が、沖田は楽しそうに目を細めたまま笑う。

そんな悪びれないどころか、楽しそうな沖田の様子に原田は「そうは言ってねぇよ」と口元をひきつらせ呟いた。

「でも、左之さんの言うとおり普通俺らのやる仕事じゃねぇよな。」

藤堂が言うと、原田がだよな。と同意し、周りにいて話を聞いていた隊士達も深く何度か頷いた。

と、ただならぬ気配と視線を感じた。

「まだ、朝礼の最中なんだがな、原田、藤堂、百鬼、総司、その他数名。」

ドスの利いた低音の声に俺と沖田以外の隊士の体が跳ね、ぎぎぎっと音が聞こえそうなぎこちない動きで声の出所である土方を見た。

それは正に『鬼』だった。

何時ものことだが、今日も機嫌は頗る悪いのだろう。眉間に寄った皺は下手したら暫く取れないだろうほど深くくっきりと刻まれており、隊士共は冷や汗を流した。

「だっ、だってさ!何で俺らが展示会の守衛しねぇといけねぇんだよ!そういうのは普通、便利屋とかの仕事じゃん!」

焦って藤堂がそう主張する。まぁ、正論ではあるが、この土方によくそんなに言えたもんだ。

「一理ある。が、今回の話は正式に長州、会津、諸藩と陰陽寮を通った依頼だ。俺達が断れるようなもんじゃねぇんだよ。」

腕を組み、やはり跡の残りそうな顰めっ面で土方が言う。

藤堂、原田はそんな土方に息を呑み、今度こそ黙った。

その様子を見渡し、近藤は苦笑し、桂も溜め息をついた。

「そういう訳だ。担当、配置は追って連絡する。以上、解散。」

最後、近藤がそう締めくくり、各々、部屋を出て行くのに俺も付き従った。





「だりぃな、藤堂も言ってたがこれじゃただの守衛だな。」

「そうですね。」

「しかも守るもんは贋作臭い、世にも不可思議な骨董の数々ときた。」

「そうですね。」

朝礼終わり、俺は高杉に声を掛けられそのままノリで一緒に巡察に出ることになった。

先ほどから何か話しかけられているが、怠いので左から右に受け流している。

と、高杉がじっとこちらを見てきていることに気が付いた。

「…何か?」

無視しようとしたが何やらしつこいので高杉の方を見ずそう尋ねた。

すると高杉は首を少し捻った。

「お前の隊旗、そんなだったか?」

「…山南さんに直しに出して貰った。」

「あぁ、通りで……前の隊旗、蜘蛛のせいで少し短くなってたからな。」

俺の返しに納得したのか高杉は頷いた。

そして、旗の部分を見つめる。

「俺、こいつ結構好きだぜ。」

「……。」

歩く度揺れる布を軽く摘み、高杉が言う。

「だんだら模様に『誠』の一文字。新撰組だった時からずっと変わんねぇんだろ。」

「……あぁ。」

まだ新撰組と名乗り、京にいた時。

あの頃の相手は専ら不貞浪士で、悪鬼はまだ少なく陰陽寮の領分で収まっており、各藩は各々勢力争いにあけくれ、仲が非常に悪かった。

それが変わったのは突然。

いつ頃からだったかは忘れたが、徐々に、しかし、目に見えて悪鬼が増えていった。

そう簡単に妖怪が悪鬼に転ずることは無いにも関わらず、だ。

増えていく悪鬼の対応は陰陽寮のみで抑えられなくなり各藩会合の末、新撰組は会津藩、長州藩、薩摩藩を基盤とした統合で名を変え新しく隊士を増やし、『いろは』という名になった。

新撰組としての形を残し、だが別の警察機構となった俺達は京から江戸へ拠点を移すことになった。

「懐かしいな、もう大分経つぜ。初めてお前見たときは辛気くさい野郎だと思ったもんだ。」

「あぁ、そう。」

「……今も、あんま変わんねぇか。」

心底、どうでも良い話をしながら通りを歩く。

枯れ葉のついた木々に、もうそろそろ寒くなり始めるな、と思う。

寒いのは好きでも嫌いでもない。雪見酒は確かに乙ではあるが、如何せん寒い。

確かに、京の盆地の底冷えする寒さよりはましだが、それでも寒いのは嫌だ。

「もう秋か」

俺の視線を追って高杉も枯れ葉を見て呟く。

「……結局、酒呑童子はあの一回きり現れないな。」

「……。」

俺は高杉の一言に視線を高杉に向けた。

鬼の姿になる必要が無いからな。

「ん、何だよ。」

とは流石に言わんが、俺は無言で暫く高杉を見てから視線を正面に戻した。

「別に。」

別に何も言わなくても良いのだ。ただ、そこにあるものを俺は享受する。

高杉は俺の様子に何故か少し笑い、そして俺同様、正面を向いた。





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