第肆拾陸話 隊旗
「黒野くん。」
朝礼後、俺は呼ばれて振り返った。
「何ですか、山南さん。」
新選組から参謀を務めている山南だった。
「少し、所用があってね。今から僕の部屋まで来て貰っていいかい?」
「……はい。」
山南はいろはがまだ新選組だった時からいるからか、俺は少し気に入っていた。
とっつきやすい訳では決してない。だが、山南は俺の知識欲を満たすには十分すぎる程に面白い奴なのだ。
土方の次にだが。
俺はそう思いながら先をいく山南に付いて縁側を歩く。
「前に、隊旗を短くして直しに出してただろ?」
部屋に入るやいなや山南は俺にそう言ってくる。
「あぁ、出しておったな。」
入り口の柱に背を預けたまま、奥の押し入れを漁っている山南に返す。
「いやぁ、一週間前に返って来ていたのをすっかり忘れててね。」
見つけたのか奥から麻布に包まれた長細い棒状の包みを取り出して軽く笑う。
山南は参謀である。
仕事以外は大分酷い天然で少々、物忘れが多いが。
俺は何となく察しがついていた為、溜め息を一度ついた。
「あはは、やっぱり怒るよね…」
「戯けが、怒っておるのではない。呆れておるのだ。」
山南は包みを畳の上に置き、開きながらばつが悪そうに苦笑いを浮かべている。
「ごめんごめん。朝礼終わったら言おう言おうとは思ってたんだけどね。」
「別に怒っておらんと言っておるだろう。」
山南が丁寧に布を開いくと、前より綺麗になった隊旗が出てきた。
「ついでに旗も綺麗に補修してもらったよ。」
浅葱色の旗は新選組時代から変わらない『誠』の一文字とだんだら模様。
隊服と合わせて作られたものだ。
確かに、何年も使い続け破れていた部分、汚れていた部分が綺麗に直され染め直されていた。
山南が差し出してきた旗の柄を掴むと、多少振りやすくなっていることに気付く。
「君は隊旗が武器の変わりにもなっているから、柄の材質を変えたんだけど……大丈夫そうだね。」
確かに軽すぎず、重すぎない。
俺は隊旗を肩口に担ぎ踵をかえした。
「山南、良い出来だ礼を言う。」
「それは良かった。けど、今度は簡単に折らないでくれよ?高かったんだ。」
「だろうな。わかっておるから安心せぇ。」
そしてそのまま俺は山南に背を向け、新しい隊旗を担いで屯所の門を出て行った。




