第肆拾肆話 帰路
「あったべ!」
倉庫に入ってすぐ。霜が声を上げて鏡を取り上げた。
「よくやったべ、霜!」
子鬼二匹は手を取り合いくるくると回りながら喜び合っている。
「よかった……」
散々連れ回された竹田はげっそりとした顔をしつつ俺の横まで歩いてきた。
「それにしてもこの倉庫凄いですね……骨董品がこんなに。」
竹田の言葉に俺も倉庫を見渡した。
確かに、倉庫には壺に茶碗。掛け軸に市松人形、仏像。と見るからに高そうな骨董品が多く置かれていた。
その中には札の張ってある物も多数あり、倉庫の中はどこか怪しい空気に満たされていた。
「……憑く物神に御神体、妖具…か。よくもまぁ、これほど集めたものよ。」
「え?」
「ほんにその通りですな、お館様。」
「お館様?……てか、何か百鬼さん口調が違うような…」
「竹田。」
訝しげに俺を見ていた竹田を呼ぶと、竹田は勢い良く跳ねる。
そのまま視線を下げて竹田を見ると俺は目を合わせた。
「今日のことは他言無用だ。狐のことも、子鬼のことも黙っておれ。」
「は、はいっ!」
じっと見つめると竹田は元気良く返事をした。
まぁ、竹田のことだから守るだろう。と検討をつけ、まだ万歳三唱をしている子鬼の着物の襟をひっつかみ倉庫の出口へと向かう。
「手間を掛けさせおって、見つけたならさっさと帰るぞ阿呆共。」
「何をなさるか、百鬼殿〜」
「何をなさる、何をなさる。」
「復唱せんで良い。」
倉庫を出てそのまま大通りの方へと歩を進める。背後で竹田と肩から下りていた狐が駆けてくる音を聞きつつ、俺達は大通りの雑踏に紛れた。
そのまま俺達は江戸の郊外の森まで行き、子鬼二匹に風呂敷に包んだ竜玉ノ鏡を持たせて送り出した。
「もっと観光したいべ!」
「観光、観光っ!」
人の子のようにだだをこねだした子鬼二匹は一体本当に何をしに来たのか……俺は呆れつつ子鬼二匹の頭を掴み顔を寄せた。
「探し物は見つけたのだ。さっさと山へ帰れ、子鬼共。それが出来んのなら、今からでも陰陽寮に突き出してやるが、どうする。」
「早う、山に帰るべ霜!」
「帰るべ、帰るべ、霧!」
真っ青な顔になり、二匹の子鬼は人の子の姿から子鬼の姿に戻ると風呂敷を抱えてあっさり逃げていった。
初めからそうしとれ。と溜め息をつき俺は振り返った。
「狐、ついでじゃ。あの子鬼が山に帰り着くまで見送ってやれ。」
「そう言われると思っとりやした。」
狐が俺の言葉で子鬼共の駆けていった方向へ少し走り出た。
「では、あっしもこれで。また近いうちに伺いますんでその際はよろしゅうお願いしやす。」
「ん。」
一度振り返りそう口上を述べると狐も子鬼を追って去って行き、俺も呆然としていた竹田を連れて帰路についた。
「百鬼さん。」
「…何。」
「やっぱ、百鬼さんは凄いです。尊敬します。」
突然先ほどまで黙り込んでいた竹田がそう言ってきた。
「…主、俺に対して何も思わんのか。」
日がくれ、人通りの殆どない小川沿いの道を歩きながらついでにと竹田に尋ねた。
二人分の草履の音が夜道にこだまする。
「え、だから、尊敬してますって!」
「そうじゃない。」
必死な様相で訴えてくるが俺が言いたいことはそういうことじゃない。
溜息をついた。
「本当に、尊敬してます。『いろは』の中でも。誰と比べても一番尊敬してます。……今日一日見てて、俺嬉しかったです。」
念を押すように続けられた言葉に俺は目だけで竹田を見下ろした。
「今まで見たことのない百鬼さんが見れました。」
「……嫌じゃねぇのか。嘘をついておるようなものだぞ。」
「?……でもそれを含めて百鬼さんでしょう?」
キョトンとした顔の竹田。
俺は暫くそれを見ていたが溜め息をついて視線を外した。
竹田はよくわからない。…いや、人ってものはこういうものか?
約十三年いるが、未だによくわからない。
それ以降。俺と竹田は、ただ黙って屯所まで帰った。




