第肆拾参話 狐
僕は誰しも~、の影響で語り部目線の話にしてしまいました。
いやー、ミスったな。
うどん屋を出てすぐ。大通りに出た四人は引き続き宛のない捜索を再開した。
コンッ
すると一匹の狐が一声鳴いて、百鬼の背を押してよろめかせる。
「百鬼さん、大丈夫ですか!?」
竹田と子鬼二匹がよろけた百鬼を心配するが、百鬼はそれを無視して飛びかかってそのまま逃げようとした黄金色の狐の首もとをひっつかみ、裏の細い人通りの殆どない道へと入った。
よろけたとは思えない百鬼の素早い動きに、竹田と子鬼は一度目を見合わせ、すぐにその後を追う。
「いきなり、良い度胸じゃな狐。」
細い路地で百鬼は狐を顔の高さまで掲げ呆れた口調でそう言った。
事情の読み込めない竹田達は首を捻るばかりだが、これまでの経験からとりあえず見守ることにした。
狐はそんな竹田達を後目にくすくすと笑い出す。
「……珍しいですな百鬼どの。私以外の妖怪と行動されておられるだなんて。」
明日は槍か刀が降りますな、と笑う狐に百鬼の機嫌が悪くなる。
「狐が喋った!」
「そやつ、妖狐だべや!」
「妖狐だべ!妖狐だべ!」
「五月蝿い。少し黙っていろ。」
騒ぐ三人(?)に百鬼がそう言いながらぎろりと睨むと、三人は「黙っていればよかった。」と青い顔をして口を押さえる。
「何の用だ。」
「そんな素っ気ない。私と百鬼どのの仲ではありませぬか。情報を持って来たのです。」
「まったく持って不本意だ。」
「まぁ、まぁ、そう仰らず。悪い情報じゃありやせんぜ?」
「口調を統一しろと言っておるだろ。」
くすくすと笑う狐をジト目で見つつ、百鬼は少し高い位置に狐を下ろしてやり、少し距離をとっていた竹田達を呼び寄せた。
「おや?おやおやおやおや……成る程なるほど。」
「えっと……こんにちは?」
「「こんにちはだ」」
顔を合わせ、いきなり挨拶を交わす一匹と三人。
「竹田菊人です。」
「霧だぁ」
「霜だべ」
「竹田殿に霧、霜くんですか。私は、稲荷の狐です。名乗る程の名はありやせんから、どうかそのまま『狐』とお呼び下さいな。」
ぺこりと頭を下げた狐につられて三人も頭を下げた。
「相変わらず、かたっくるしい奴だ。」
「なにぶん、狐。ですからね。誠意を見せねば一族の恥というものでさぁ。」
渋い顔をした百鬼が狐を見下ろす。
「百鬼殿、百鬼殿。この妖狐はお知り合いだべや?」
「妖狐、妖狐!」
「………………そんなところだ。」
「何ですか、その間は!?即答してくだせぇよ。あっしと百鬼どのの『仲』じゃぁありませんの。」
狐が仲を強調して再び言うと、百鬼は眉間に軽く皺を寄せた。
「まぁ、冗談はさて置き。」
「置くんだ……。」
竹田がボソリと呟く。
「あなた方が探しておいでは、竜玉ノ鏡では?」
そう、狐が言い終わるより早く、子鬼二匹は竹田を押しのけ身を乗り出した。
「それだべ!」
「それだ、それだぁ。」
やっと見つかった有力情報に二匹は手を取り合い万歳三唱を始める。……竹田の上で。
「お……重い…よ、どい…て。」
そんな竹田のささかな願いは、子鬼二匹と狐が話を始めてしまった為叶えられない。
「やっぱり。……いやね、江戸の北の港のある倉庫で、竜玉ノ鏡があるのを見つけやしてね。もしかしたら、誰か探してんじゃあらへんかって思とったんでさぁ。」
けらけらと笑う狐に興奮気味の二匹の子鬼。百鬼はその光景を目を細めて見ていた。
「早速行くだ、竹田殿!」
「行くだ、行くだぁ!」
段差から下りた二匹は倒れている竹田(踏んでいたことに気付いていない。)を見つけると手を掴んで引き起こし、路地の奥へと駆け出した。
「港は逆方向ですぜ?」
三人は反対方向へと走り出した。
「……そんな顔しないでくだせぇ、お館様。俺ぁ、嘘はついちゃいやせんぜ?」
はしゃぐ二匹と連れ回される竹田の後ろを歩き、肩に乗った狐は無表情な百鬼を覗き込み周りに聞こえない声で呟いた。
「嘘とは思っておらん。むしろ、手詰まりだったのだ、感謝しておる。」
表情を一切変えず百鬼が小声で返せば、狐は喉でくつくつと笑う。
「そんな無表情、無感情で言われやしても全く嬉しくありやせんや。」
むっすーとした表情のまま、百鬼は狐を見下ろし軽く溜め息をついた。
「それにしても、犬神憑きの人間と山神の使い魔擬きの子鬼二匹とは、また変な者達に好かれましたな。」
前を歩く三人を見ながら狐が呟く。
「主が言うな。」
狐は百鬼が大江山にいた頃から付き合いがあるが、こいつも大概だと百鬼は思う。
「お館様がこの調子で仲間を増やせば、百鬼夜行の1つや2つ簡単に作れやすぜ。……陰陽寮の邪魔さえなければ。」
楽しげに笑う狐を無視して百鬼は歩く。
「……何故、俺達が探しているのがわかった。」
低めの声音で百鬼は狐に尋ねた。
心なしか普段変わらぬ表情も少々渋く見える。
狐は様子の変わった百鬼をそれ程、気にせず「あー、やっぱバレやしたね。」と言って笑った
「いや、人はどうだか知りやせんが、妖怪共の間じゃあの子鬼共は少々有名でしてね。江戸に出てきて名の聞かぬ地方の水神を探している子鬼が二匹。」
百鬼は軽く頭を抱えた。
よく今まで人に知られなかったものだ。
「それで、陰陽寮の動きを見るついでに調べてみたと言う訳でさぁ。お陰様で、面白いことがわかりましたぜ。」
「面白いこと?」
百鬼が訝しげな顔をすると、狐はニヤリと軽く笑い小さく頷く。
「何でも、地方の屋敷や神社仏閣から、曰く付きの道具なんかが盗まれているそうで。」
「……。」
「偶然。なんてこと、ありえやせんよね、お館様。」
狐は百鬼の顔を見て首をひねって笑った。
「……調べろ、狐。」
「御意。……まぁ、鬼王様からも依頼されてるんで調べやすがね。」
終始楽しそうな狐にやっと百鬼は目をやった。
「今の王はあの餓鬼の息子だったな。」
「おや?…私、言いやしたっけ。」
鬼王とは、日本の妖怪を統率している言わば代表だ。
代々『桜山』と呼ばれるこの世でもあの世でも無い場所を拠点としており、その影響力は正に人で言う王と同等。
それ故、妖怪の間では噂の種となりやすい。
「二年ほど前に妖怪共が噂しておった。」
「成る程。」
狐が納得がいったと笑う。
「亡くなられた先代とよく似たお人好しですが、策略に富み、見ていて清々しい方ですな。」
「……聞いておらんだろう。」
「いえ、聞きたそうでしたので。」
少し前を歩いていた三人が振り返り、此方を呼んだ。
「俺のことは今まで通り。……他について詳しくは後。」
「かしこまりました。」
そう言い合うと百鬼は話を止め、呼ばれた先に駆け寄った。




