第肆拾弐話 探し神
早く春にならねぇかな
「竹田殿、次は此方へ。」
「菊人殿、次はそっちだべ。」
「え、ちょっと待って!」
「遅いだ。」
「次行くべや。」
「うわ、うわっ。」
次兄を連れて回る双子とそれを見守る長兄、といった構図を呈している俺たちは河原まで来ていた。
屯所からここまではそう離れてはいない。しかしここに来るまでの間、子鬼は珍しい物を見つけては竹田を引っ張り回してあれは何だ、これは何だ、と一々説明をさせていた。
「竹田、振り回されていたら何時まで経っても終わりません。」
「はいっ!でもこの子達、意外と力強くて……あわわわわっ」
右へ左へ、西へ東へ。
双子に振り回され目を回している竹田を見ているのは面白いが、今日中にどうにかしなければならないことなのにこれではままならない。
俺は眩しいのを我慢して日の位置を確認する。
丁度腹も減ったし、子鬼共もよくよく見ると先程から食べ物によくつられている。
一応銭袋を覗いて十分以上の金が入っていることを確認すると、俺は子鬼に両腕を掴まれぐるぐると回っている竹田に近付き、子鬼の着物の襟を掴み上げて止めてやった。
「……ご飯を食べに行きましょう。」
竹田は目を回していた為、碌に聞いていない様子だったが、子鬼どもは俺の一言に目を輝かせた。
大通りの一つ内に入ったあたりにある麺所に入り、手持ちがないと言う竹田に俺が払うと言い、席に座るとすぐに饂飩と蕎麦を2つずつ頼む。
「この後どうしましょう。……霧くんと霜ちゃんの保護者の情報、殆どありませんし、…せめて人相か特徴がわかればいいんですけど。」
店に入っても物珍しげに動き回ろうとする子鬼共を席に落ち着かせ、やっと座った机に突っ伏し早くも疲れ果てた様子の竹田が呟く。
探そうにも特徴が無ければどうにもならない。しかし街に出てすぐ子鬼があんな調子になってしまったのだ。聞くに聞けずただ子鬼の好奇心に答えるだけの無駄な時間を過ごした。
「特徴ならあるだ。」
「特徴あるべ」
子鬼二匹の声に竹田がバッと顔を上げる。
「あるの!?」
あるだろ、そりゃ。
三人(?)の会話に耳を傾けつつ傍観する。
「勿論あるだ。あの方はとても美しい方だべ。」
竹田がメモと筆を取り出した。
よく持ってたな。
「それで?」
「髪は黒くて長いんだべ。」
「ふんふん。」
「目尻がこう、キリッとしていて目の色は金色だ。」
「へー。」
「……。」
「普段は社の中の御神刀を御神体にしてらっしゃるべ。普段は社からお出にならないだが、神無月の季節には伊勢に移動する為にパァァァと龍になるだ!」
「……『りゅう』…龍?」
竹田が固まった。
だが子鬼はそんなことお構いなしにまだ「違うべ、龍じゃなくてミズチになるだ。主様が言ってらした。」「そうだったべや?」などと喋っている。
「百鬼さん。龍って何ですか?」
「水を司る神獣。恐らく山神。」
「えっと……俺達がしてるのって、人捜し…ですよね?」
「表向きは。」
「……これ、もしかして、探してんの人じゃないんですか。」
溜め息をつき、呆れを含んだ声音を混ぜて首を捻る。
「何の為にわざわざ俺と主が出ていると思っている?」
竹田が石になった。
そんな気はしていたが、どうやら竹田は普通に『人』捜しだと思っていたらしい。
ここ数ヶ月、竹田を見ていて思ったことは犬神憑きの家柄だった為か、下界との接触が今まで殆ど無く最低限の一般常識はあるものの極度の世間知らずであること(最近知識をつけて大分改善された。)
そして、犬神憑きであることの異端さがわかっていないこと。
まぁ、今は特に関係無いからあまりどうこう言う気はないがこれから先思いやられるな。
「もしかして、この子達も人じゃ……」
「こ奴らは子鬼だ。」
「霧だべ」
「霜だべ」
知ってる。
と、話し込んでいると丁度良く頼んでいた物が届けられた。
俺は箸を四膳取り出すと子鬼と竹田に渡してやり、「子鬼…」と呟きながら今度こそ完全に思考能力が止まってしまったらしい竹田を無視して昼食を食べ始めた。




